直井裕太なおい・ゆうた
ライター。尊敬する文化人は杉作J太郎。目標とするファウンダーは近藤社長。LINEより微信。生活費の支払いは人民元という国境を越えるヒモおじさん。ガチ中華はブームじゃなくって、主食です。
SNSで著名人をかたった"なりすまし詐欺広告"や東南アジアを拠点とした振り込め詐欺グループなど、日本でも社会問題化しているネット犯罪。
スマホや各種スマート家電が圧倒的に普及し、SNSも諸外国とは異なるプラットフォームが独自の進化を続ける中国にはどのようなネット犯罪があり、どんな対策がされているのだろうか? 中国のITに精通するジャーナリストの高口康太さんに解説してもらいます。
――日本国内で問題となっているSNSのなりすまし詐欺広告。このような詐欺は中国にはあるのでしょうか?
高口 過去には有名人をかたる詐欺誘導などがありましたが、大手のSNSではもう見かけません。その理由としてはSNSを運営するプラットフォーム側の対応があります。
まず、中国はネット検閲の最も厳しい国であり、政府の国家インターネット情報弁公室やプラットフォーム側もネット取り締まりキャンペーンを常に行なっています。中国で日本のなりすまし詐欺広告のようなものがあった場合、プラットフォーム側は公安に即通報し、詐欺広告を出稿した組織の情報もすべて提出します。
つまり、SNSから大規模に個人情報を入手して詐欺行為を行なった場合、その組織は一網打尽にされます。仮に中国のプラットフォーム側が、米メタ社のように社会問題化した後に、政府に経過報告をするといったその場しのぎ的な対応をした場合は"有害なネットサービス"と認定され、プラットフォームそのものが営業禁止という規制をされる。
政府だけでなくユーザーからもネットを中心に袋叩きとなり、会社存続の危機となってしまうのです。
中国がこのような対策を行なえるのは、プラットフォーム側がすべての個人・企業情報を政府に提出する義務があるからで、日本を含めた他国で同じような対策を行なうのは難しい。しかし、SNSを舞台にして個人情報を入手しようとする詐欺グループ対策としては最も有効な手段となっています。
――では現在、中国政府が問題視しているネット犯罪は?
高口 国家インターネット情報弁公室がネット犯罪の重要な取り締まり対象に指定しているのが【投資詐欺・ポルノ・闇金融・闇カジノ】です。これらはSNS広告から個人情報を取得したり誘導したりするのではなく、ネット犯罪としては古典的な手法で行なわれているのが特徴です。
例えば、無料のWi-Fiや充電スポットで、そこに接続されたスマホや各種端末内の電話番号、SNSアカウントのIDとパスワードを不正入手します。不正入手された電話番号やSNSアカウントは、ネット犯罪グループが被害者となる人間を1対1で誘導できるだけでなく、彼らにとって"足のつきにくい通信手段"としても悪用される。
それもあって、中国政府はこれまでにネット犯罪に関連したと疑われる22億以上の電話やSNSアカウントを遮断しました。
――ネット犯罪グループは単純計算で22億回以上も電話やメッセージを発信したことになりますが、どのような手段で行なわれるのですか?
高口 携帯電話の基板機能を巨大サーバーに収納した詐欺電話マシンが使われています。このようなマシンはネット犯罪の黎明期である2000年代初頭からありますが、その音声に生成AIが悪用されるようになったのが最近の特徴です。
不正に取得したSNSアカウントから詐欺被害者の親しい人間の音声や動画を入手し、それらを生成して投資詐欺やポルノ販売、闇金融などへの誘導に使用されています。
中国政府は生成AIアプリを利用する場合には身分証明書の登録と、生成されたコンテンツに透かしの表示を入れることを必須とし、さらに悪用されたAIコンテンツの通報システムなども構築していますが、ネット犯罪グループとのイタチごっこが続いている状態です。
――では、中国政府が行なっている最も効果的なネット犯罪グループの壊滅手段とは?
高口 ネット犯罪グループの拠点は東南アジア各国にあり、それを徹底的に壊滅させることです。2023年の10月にミャンマーでネットを拠点に活動する中国人振り込め詐欺グループに潜入捜査中だった中国人警察官が殺害されました。
それをきっかけに大規模な作戦が東南アジア各国で開始されたのです。毎回、数百人が東南アジア各国で逮捕され、中国へ送還されています。ただ、詐欺グループの幹部以外は、同グループに誘拐されたという中国人も多く、こういった面も社会問題となっています。
――この東南アジアを舞台とした超大規模な詐欺グループの壊滅作戦は、日本も行なったほうが良いのでは?
高口 難しいです。中国は自国の警察組織を大規模に派遣し、それは現地の捜査権も掌握するほどです。この状況に西側諸国からは「もはや中国による内政干渉だ!」という批判が高まっており、他国が中国の捜査スタイルを踏襲するのは難しいでしょう。
――一方で、ストロングスタイルの中国警察の捜査が及ばないネット犯罪もあるとか。
高口 西側諸国のSNSです。海外に在住する中国系の人間を標的としたと思われる詐欺・売春・ポルノ・海賊コンテンツ販売に誘導する投稿が激増しています。
それらを意味する中国語のネットスラングで検索すると表示されますが、西側諸国のSNSは中国にいる中国人にはネット規制があり閲覧できません。
だから中国警察は捜査を行なわず、プラットフォームからも放置されている無法地帯です。これらと著名人のなりすまし詐欺広告との関係性は不明ですが、今後はより各国で協力した取り締まりが必要となってくるでしょう。
ライター。尊敬する文化人は杉作J太郎。目標とするファウンダーは近藤社長。LINEより微信。生活費の支払いは人民元という国境を越えるヒモおじさん。ガチ中華はブームじゃなくって、主食です。