5ヵ月ぶりに復活したボイジャー1号 5ヵ月ぶりに復活したボイジャー1号
1977年に打ち上げられ、今なお現役の探査機・ボイジャー1号。そんな "超高齢探査機"が昨年11月から通信トラブルに! 「ついに寿命か......」と誰もが諦めた中、地球上から5ヵ月に及ぶ復旧作業ののち復活! そこまでして守られ続けるボイジャー1号とはなんなのか? 地球から最も遠くを飛び続ける宇宙船の軌跡とロマン――。

■片道22時間かけてデータを送受信!

スペースⅩに代表される民間宇宙企業が活躍する一方で、アメリカのNASAが、アポロ計画から約50年ぶりに有人での月面探査を目指すなど、新たな時代を迎えつつある宇宙開発の世界。そんな中、昨年11月になんらかのトラブルが発生し、ずっと意味不明な信号を送り続けていたアメリカの宇宙探査機「ボイジャー1号」の通信が、5ヵ月に及ぶ復旧作業の結果、回復したというのだ!

だが簡単に復旧作業と言っても、現在、ボイジャー1号が飛ぶのは地球から約240億㎞離れた太陽系の外側の「深宇宙」と呼ばれる世界。ボイジャーとの通信には片道約22.5時間もかかるという。

しかも、ボイジャー1号が打ち上げられたのは1977年と、今から半世紀近く前のこと。史上初めて太陽系を飛び出し、宇宙の果てを旅し続ける"超高齢探査機"の通信トラブルを、NASAはどうやって遠く離れた地球から修復できたのか?

元JAXA理事で国際宇宙ステーションのプログラムマネージャーも務めた長谷川義幸氏はこう語る。

「宇宙探査機のトラブルを通信によるリモート作業で修復すること自体は決して珍しいことではありません。ほかならぬボイジャーも、これまで幾度となく、そうした形でピンチを乗り越えてきましたし、私自身も、同じような作業を小惑星探査機『はやぶさ』で何度も経験しています。

ただし、1977年に打ち上げられたボイジャーは60年代から70年代序盤の技術で設計された探査機で、搭載されたコンピューターのCPUはクロック8.1メガヘルツ、メモリーがわずか70キロバイトですから、性能としてはせいぜい初代ファミコンくらい。

そんな骨董(こっとう)品のようなコンピューターと、今の若いエンジニアにはなじみのない、古文書のようなプログラム言語で構成されたシステムに起きたトラブルの原因を、片道22.5時間かけて届く膨大な『0』と『1』の羅列から解析するわけです......。問題を特定し、復旧の手段を見つけて、プログラム変更を行なうというのは、想像するだけでも気の遠くなるような作業です。

さすがに私も『今回はもうダメかもしれない......』と思っていたのですが、ボイジャーを運用するNASAジェット推進研究所(JPL)のチームは見事、チップの一部に破損を発見して、通信システムの修復に成功! その努力と執念には頭が下がりますし、文字どおり、奇跡のようなボイジャー1号の復活劇だと思います」

ボイジャーに振動テストなどを行なっている様子。ボイジャー1号の質量は721.9 kgで、上面に取りつけられている通信アンテナは直径約3.7m ボイジャーに振動テストなどを行なっている様子。ボイジャー1号の質量は721.9 kgで、上面に取りつけられている通信アンテナは直径約3.7m
こうして再び、通信機能を回復したボイジャー1号は、今もなお、太陽系の外側に広がる宇宙の外洋を飛び続けている。地球との通信はいつまで可能なのだろうか?

「打ち上げから46年以上が経過しボイジャーの電源として搭載された(プルトニウムが燃料の)原子力電池の出力も低下し続けているため、2025~36年のどこかで通信不能になると思われます」

だが、その後も超高齢探査機・ボイジャー1号の旅は続く。未知の物質・ダークマターで満ちた宇宙の果てを、ひとり彷徨(さまよ)い続けるのだ。

打ち上げから約1年半後の1979年3月、ボイジャー1号は最初の目標である木星に最接近。木星とその衛星の姿を撮影して鮮明な写真に収めただけでなく、磁場や放射線に関する貴重なデータを収集した 打ち上げから約1年半後の1979年3月、ボイジャー1号は最初の目標である木星に最接近。木星とその衛星の姿を撮影して鮮明な写真に収めただけでなく、磁場や放射線に関する貴重なデータを収集した ボイジャー1号がとらえた「木星の大赤斑」。太陽系最大の巨大ガス惑星である木星は、太陽系の惑星で最も厚い約5000kmの大気の層に覆われており、その表面にはアンモニア水の結晶などによると思われる雲が複雑な渦を描いている ボイジャー1号がとらえた「木星の大赤斑」。太陽系最大の巨大ガス惑星である木星は、太陽系の惑星で最も厚い約5000kmの大気の層に覆われており、その表面にはアンモニア水の結晶などによると思われる雲が複雑な渦を描いている ガリレオ・ガリレイが発見したことから、通称「ガリレオ衛星」と呼ばれる木星の4つの衛星のうち「イオ」と「エウロパ」の姿を同時に収めた一枚もボイジャーの代表作。木星には現時点で95個の衛星が確認されている ガリレオ・ガリレイが発見したことから、通称「ガリレオ衛星」と呼ばれる木星の4つの衛星のうち「イオ」と「エウロパ」の姿を同時に収めた一枚もボイジャーの代表作。木星には現時点で95個の衛星が確認されている 木星の衛星「イオ」に存在する火山の噴火をとらえた映像。イオには400を超える火山が存在し、活発な地殻変動が起きていることがボイジャーの探査によって明らかになった。噴煙の高さは500kmにも及ぶといわれている 木星の衛星「イオ」に存在する火山の噴火をとらえた映像。イオには400を超える火山が存在し、活発な地殻変動が起きていることがボイジャーの探査によって明らかになった。噴煙の高さは500kmにも及ぶといわれている 打ち上げから約35年後の2012年、史上初めて太陽系の外側(太陽風の届かない恒星間の深宇宙)に到達したボイジャー1号がとらえた「宇宙の音」のデータ。はるかかなたの超新星や銀河の放つ衝撃波が深宇宙の謎を解く鍵になる 打ち上げから約35年後の2012年、史上初めて太陽系の外側(太陽風の届かない恒星間の深宇宙)に到達したボイジャー1号がとらえた「宇宙の音」のデータ。はるかかなたの超新星や銀河の放つ衝撃波が深宇宙の謎を解く鍵になる 木星の重力アシストを使って次の目標へと向かったボイジャー1号は1980年11月に土星に最接近。土星の輪がいくつもの小天体の破片でできている可能性や、土星の衛星「タイタン」に大気が存在することなど、多くの発見をもたらした 木星の重力アシストを使って次の目標へと向かったボイジャー1号は1980年11月に土星に最接近。土星の輪がいくつもの小天体の破片でできている可能性や、土星の衛星「タイタン」に大気が存在することなど、多くの発見をもたらした 土星の第4衛星「ディオネ」の撮影にも成功。その後、惑星探査機「カッシーニ」の観測で、内部に海が存在し、酸素を主成分とした薄い大気が存在する可能性が指摘されている 土星の第4衛星「ディオネ」の撮影にも成功。その後、惑星探査機「カッシーニ」の観測で、内部に海が存在し、酸素を主成分とした薄い大気が存在する可能性が指摘されている 土星の第3惑星「テティス」も氷と岩の衛星。ボイジャーが撮影したテティスの表面からは、小惑星や隕石の衝突でできた無数のクレーターが確認でき、この衛星の歴史を物語る 土星の第3惑星「テティス」も氷と岩の衛星。ボイジャーが撮影したテティスの表面からは、小惑星や隕石の衝突でできた無数のクレーターが確認でき、この衛星の歴史を物語る 映画『スター・ウォーズ』シリーズに登場するデス・スターに似た、土星の第1衛星「ミマス」。特徴的なクレーターは直径が130kmと、ミマスの直径の3分の1に及ぶ大きさ 映画『スター・ウォーズ』シリーズに登場するデス・スターに似た、土星の第1衛星「ミマス」。特徴的なクレーターは直径が130kmと、ミマスの直径の3分の1に及ぶ大きさ 1989年、姉妹機・ボイジャー2号は木星、土星、天王星、海王星の「惑星グランドツアー」を達成。その後、海王星の衛星「トリトン」に接近し、極低温の窒素を噴き出す「氷の間欠泉」の撮影にも成功した 1989年、姉妹機・ボイジャー2号は木星、土星、天王星、海王星の「惑星グランドツアー」を達成。その後、海王星の衛星「トリトン」に接近し、極低温の窒素を噴き出す「氷の間欠泉」の撮影にも成功した ボイジャー1号に続き、木星と土星への接近に成功した2号は、打ち上げから約8年5ヵ月を経て、天王星へと到達。天王星の大気や輪の観察を行なったほか、未知の衛星を10以上も発見した ボイジャー1号に続き、木星と土星への接近に成功した2号は、打ち上げから約8年5ヵ月を経て、天王星へと到達。天王星の大気や輪の観察を行なったほか、未知の衛星を10以上も発見した