歌詞とイメージを生成AIに伝えれば、社歌でもなんでもお手のもの 歌詞とイメージを生成AIに伝えれば、社歌でもなんでもお手のもの
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は坂口氏が生成AIを使って、週刊プレイボーイのテーマソングを作ってみた。

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今回の連載、もしかすると読者の趣味を一つ増やすかもしれない。週プレでも紹介された書籍『夢と生きる バンドマンの社会学』(野村駿[はやお]さん)を読んだ。きわめて面白い本だった。バンド活動に惹(ひ)かれたひとは、何歳まで夢を追い続けるか。こんな研究の切り口があったとは! 

そして私は同時に考えていた。なぜバンド活動は人を引き返せない地点まで連れていくのだろうか、と。またスポーツの世界でも輝くことを諦めきれない人たちがいる。思うに、音楽とスポーツは例外的なほど他人を熱狂させる。たった数人を何万人が眺めて叫び、喜び、感情をぶつける。一度でも檜(ひのき)舞台に立った人はその道を捨てられないのだ。そして経験がない人であっても、その才能に憧れる。嫉妬に近いほどに。

ただし、現代のテクノロジーは私を含む凡人に武器を与える。VR(バーチャルリアリティ)は仮想空間で運動オンチを超人化する。そしてAIが楽曲制作を支援する。これが今回のテーマだ。もちろんリアルタイムで何万人を熱狂させるわけではないが、人間の原始欲求をくすぐる。

『Suno.ai』や『Udio.com』といったサイトにアクセスしてみてほしい。AIがユーザーのイメージをもとに楽曲を制作してくれるサービスだ。少し前の類似サービスとはレベルが違う。チープさや機械っぽさが消えている。知り合いのエンジニアに聴かせたら、人間の創造物と勘違いしていた。またプランによっては商用利用まで可能だ。ユーザーは歌詞をさっと考え、音楽ジャンルなどを入力するだけ。感動的ですらある。

私は勝手に週刊プレイボーイのテーマソングを作ってみた。ファンク、ジャズ、メタル、Lo-Fiと、ジャンルの違う4曲をアップしてみた。私のnote【https://note.com/fpri/n/n7daed4eb2d41】で確認が可能なのでチェックしてほしい。歌詞は私が作った。歌詞もAIに作らせることもできるが、自分で書いたほうが愛着はわくだろう。読者が聴いたご感想はわからないが、私は「すげー」と思った。AIが作ったのに自分の分身という感覚。きっと創造欲をかきたてられるのではないか。

ところで、私は先端の音楽家が絶滅するとは思っていない。名曲は人間の手と頭により作られ続けるはずだ。しかし、そんじょそこらのレベルなら代替される。これからサブスクには無数のAI制作曲がアップされ、一曲あたりの配分額は下がっていくだろう。また、企業のイベントで流す曲はオリジナルになり、社歌や組織歌の制作など、考えもしなかった用途が広がるだろう。将来はリスナーの嗜好(しこう)から、無限に続く作業用プレイリストが作られるだろう。

そしてここからは予想。自分の声を「生成AIで勝手に使っていいよ」と販売する有名歌手がいたらどうなるだろう。彼か彼女が一人ひとりのためにオリジナルの曲を歌ってくれるのだ。「I love 〇〇(あなたの名前)」なんて歌ってくれる。もちろん卑猥(ひわい)な歌詞はAIで止められるだろうが、無数の曲を歌ってくれるなら月額課金を喜んで支払うファンもいるだろう。そんな未来はすぐそこだ。

さらにいえば、トップの音楽家のレベルは生成AIの使用によってレベルアップするに違いない。アイデアの断片を無数にくれる道具が登場したんだからね。そして凡人にとっても音楽制作の民主化時代の到来だ。

『経済ニュースのバックヤード』は毎週月曜日更新!

坂口孝則

坂口孝則Takanori SAKAGUCHI

調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!

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