坂口孝則Takanori SAKAGUCHI
調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「効率化とアバター」について。
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「なんだこれ! 今年は攻めているなあ」。仕事柄、「ものづくり白書」(経済産業省、厚生労働省、文部科学省が策定)は毎年すぐに確認し、解説セミナーを実施している。5月31日に発表された2024年版は尖(とが)っていた。
日本企業の海外売上比率が上昇するなか、米欧の企業と比較すると純利益率が圧倒的に低い。まあ、ここまでは誰もがわかっている。今年の同白書は、その理由を日本企業の"連邦制"にあるとした点が面白い。
日本企業は本社から海外子会社に社員を派遣し、ゆるやかに管理している。現地に権限委譲するのはいいけれど、国の数ぶんの間接業務部隊やシステムがあって、非効率的だし高コストだ。他国の企業はトップダウンで間接業務を統合しているのに、これで勝てるわけねーだろ、と。なお純利益率が「圧倒的に低い」と書いたが、その差は数%だ。数%であっても、再投資し続けることで将来的には大きな差異になる。
さらに同白書は、日本企業は3カ年経営計画とかって発表するけど、あんなのトップが適当に宣言した数字をもとに、現場がでっち上げただけのもんだろ、役に立つかよ馬鹿野郎。無駄な会議はやめて、さっさとなんか価値あることやれよお前ら、といっている。いや、ごめん。馬鹿野郎とかお前とかは私が想像した心の声で、経産官僚はそう述べてはいない。誤解なきよう。誤解しないか。
私は単純なメッセージを受け取った。「無駄なことはやめて、大事なことに集中しよう。人生も長くないんだし」。よし! 既存のやり方もぶっ壊していこう! ......とまあ、白書を読んで勇気づけられる機会もそうないだろう。できるだけ機械に代替できることは代替し、たとえば人に話を聞きに行ったり、何かを経験したりするほうが価値はある。
私はテレビのコメンテーターをしているが、あれをAIに置き換えたら? さすがにそれは無理でも、社内外での簡単なやりとりをAIが対応してくれたらありがたい。いまは無理でも、いずれ講演も代わってくれるかもしれない。RVC (Retrieval based Voice Conversion)という技術があり、声の学習データからAIが私の声そっくりに話してくれる。さらに「HeyGen」などのサービスもあわせて活用すれば、私を動かして、私の声で文章を読んでくれる。
結論を述べると、私が語っているのとほぼ見分けがつかない。口の動きとセリフが合っていないように思えるタイミングこそあるものの、おそらく動いているのがアバターだと気づく人はほとんどいないのではないか(なお、なりすましができないよう本人確認の工夫も施されている)。これは革命的だ。ぜひ私のXやFacebookなどの過去投稿を遡(さかのぼ)って、出来栄えを見てほしい。
あるテレビ局のアナウンサーに見せたら「これ、将来はコメンテーター要りませんね」と言われた。「不用意な発言もしませんし」と。そう、それに安いし(笑)、風邪もひかない。これで私の仕事がなくなっても、他の業務に集中できるだろう。テキストを入力すれば説明を代わってくれるアバター。想像力しだいでかなり仕事が効率化するはずだ。
時間ができたら、そのぶん取材しようかな。で、もし「AIに対応させます」といわれたら? あ! 俺への対応に重要性がないってことだ!
調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!