独自進化している「台湾LINE」の最新事情とは? 独自進化している「台湾LINE」の最新事情とは?

LINEの利用率は日本を大きくしのぐという、人口約2340万人の台湾。メッセージや通話利用はもちろん、選挙や感染対策でも大活用されている。アプリそのものが独自進化している"台湾LINE"の最新事情をジャーナリストの高口康太さんが紹介します!

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■LINEは台湾でスーパーアプリ化!

LINEが日本人ならインストールしていて当たり前のアプリとなって久しい。日本のMAU(月間アクティブユーザー、月に1回以上利用した人を指す)はなんと9700万人、単純計算すれば全人口の約78%が使っていることになる。

ところが日本以上に普及している地域がある。それが台湾だ。全人口2340万人に対し、MAUは2200万人。人口比は94%と日本を大きく上回る。お子さまからお年寄りまでみんなLINEユーザーなのだ。

なぜ、これほど台湾に浸透したのか、歴史を振り返ってみよう。LINEは2011年6月に日本でサービスを開始、その翌年には早くも台湾上陸を果たしている。

当時はiPhone登場直後の黎明期で、世界がおもしろいスマホアプリを求めている時代だった。パソコン用とは違う、スマホならではのメッセンジャーアプリの世界覇権を誰が握るのか。2009年開始の米ワッツアップ、2011年1月開始の中国ウィーチャット、そしてLINEの3強が激しく争った。

世界での戦いは、米フェイスブック(現メタ)が2014年にワッツアップを買収したことで終戦した。ワッツアップは今や世界20億ユーザーを抱える怪物サービスだ。

一時はスペインで1000万ユーザーを獲得するなど欧州でも戦っていたLINEも、戦線を縮小せざるをえなかった。日本以外で残った陣地は台湾とタイ。どちらも親日で知られるエリアなのは偶然ではないだろう。世界は取れなかったが、その代わりに根づいた地域では社会インフラ化している。

(中、左)頼清徳総統、蔡英文前総統ら台湾の主要政治家たちはLINEから情報発信を行なうのが基本。(右)台湾のLINEで人気サービスとなっている「LINE TODAY」。日本で言うところのYahoo!ニュースのような規模のポータルニュースとなっている (中、左)頼清徳総統、蔡英文前総統ら台湾の主要政治家たちはLINEから情報発信を行なうのが基本。(右)台湾のLINEで人気サービスとなっている「LINE TODAY」。日本で言うところのYahoo!ニュースのような規模のポータルニュースとなっている

例えば選挙だ。今年、台湾では4年に1度の総統選が行なわれたが、LINEの活用は欠かせない。LINE側も選挙のたびに、立候補者の公式アカウント一覧ページを作成しているほど。公式アカウントの使い方も異なっている。

日本でも政治家や政党のアカウントはあるが、せいぜいテキストと写真のメッセージを流すぐらい。しかし台湾では、スタンプや支持者のコミュニティをつくる、簡単な会話ができるチャットボットを制作するなど、力の入れ方が半端ない。

また、地域ごとに支持者のチャットグループをつくってイベントへの動員など協力関係を構築する動きも盛んだ。先月の兵庫県知事選挙ではLINEグループに集まったボランティアが、斎藤元彦知事の当選を後押ししたことが伝えられた。

ネットのつながりで集まった、勝手連的な支援者は日本ではまだまだ珍しいので話題になったわけだが、台湾ではほとんどの政党・政治家がこうした手段を駆使している。そのインフラがLINEなのだ。

そして、コロナ禍でも大活躍だった。流行初期にはマスク不足が深刻だったが、天才オードリー・タン台湾デジタル担当大臣(当時)が提唱したマスクマップサービスにより、どこに在庫があるかが可視化され、購入予約もできるようになった。

このマスクマップもLINEと連動し、在庫がある近隣の薬局をチャットボットで教えてくれる。難しいアプリは使いこなせない高齢者でも、LINEのメッセージ機能でならば簡単だと好評だった。

また、コロナ対策アプリとしても活用された。お店や会社、公共交通機関などに張られたQRコードをスマホで読み取ると、その場所で感染者が出れば連絡が来るという仕組みだ。

タクシーの配車機能やLINE Payでの電車乗車など日本にはない機能が実装 タクシーの配車機能やLINE Payでの電車乗車など日本にはない機能が実装

LINEは「ハイパーローカライゼーション」を標榜し、それぞれの地域ごとに異なるサービスを打ち出している。日本以上に普及し利用されている台湾では、サービスの種類も豊富だ。動画配信、配車、飲食店予約、ネットショッピング、動画ニュースもある本格的なニュースポータル「LINE TODAY」など、日本にはないサービスも多い。

特にユニークな機能がファクトチェッカーだ。バズっている情報が本当かどうかを簡単に確かめることができる。日本でも昨年から同様の取り組みが始まったが、台湾では2019年からスタート。中国本土からの情報工作もあり、ネットの安全を守るための役割を果たしている。

ひとつのアプリとは思えないほどに多種多様な機能を詰め込んだアプリを「スーパーアプリ」と呼ぶ。代表格は中国のウィーチャットだが、LINEも(少なくとも台湾版では)ウィーチャットに負けていない。

世界を取れなかった代わりに、残った地域を深掘りしまくって機能を追加していった結果、スーパーアプリという同じゴールに行き着いたわけだ。

というわけで、LINE台湾には数多くのさまざまなサービスがあるが、メッセージアプリに次いで利用者が多いのが決済サービスのLINE Payだ。

この12月にはLINE Pay Taiwanとして台湾証券取引所に上場を果たす。利用者数は1200万人を突破、利用可能なスポットは57万ヵ所を数えるという。昨年の売り上げは約47億台湾ドル(約217億円)、なんと5年前から11倍という急成長を遂げている。

コンビニやスーパーだけでなく、屋台でもLINE Payに対応している台湾。さらに、さまざまな独自機能が続々と実装されている コンビニやスーパーだけでなく、屋台でもLINE Payに対応している台湾。さらに、さまざまな独自機能が続々と実装されている

台湾旅行に行くと悩ましいのが、クレジットカードを使えないお店が多いこと。台湾名物の夜市など、ステキな屋台や小店舗が多いのに、手持ちの現金が足りなくて困ることがしばしば。

そうした場所でもLINE Payなら使えることが多いのは助かる。台湾旅行のたびに助けられてきたのに、来年4月には日本版が終了するのでもう頼れなくなってしまうのがなんとも悲しい。

日本では来年4月にサービスを終了するLINE Payが、今月中には台湾市場で上場予定 日本では来年4月にサービスを終了するLINE Payが、今月中には台湾市場で上場予定

ただ、メッセージアプリとしては1強状態でも、モバイル決済では競合との激戦が続いている。PXペイ、街口ペイ、台湾ペイ、悠遊カード、アップルペイ、グーグルペイ......などなど、日本と同じく無数の種類の〝○○ペイ〟が乱立している。

激しい競争が続いているだけに各社はお得なポイントでユーザーを奪い合う戦いに突入しており、王者LINE Payも気を抜けない状況のようだ。

高口康太

高口康太たかぐち・こうた

1976年生まれ。ジャーナリスト、翻訳家。中国の政治、社会、文化を幅広く取材。独自の切り口から中国や新興国を論じるニュースサイト『KINBRICKS NOW』を運営。著書に『幸福な監視国家・中国』(梶谷懐との共著、NHK出版新書)、『なぜ、習近平は激怒したのか』(祥伝社新書)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)など。

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