生成AIの台頭により業務が増えてしまった人も...... 生成AIの台頭により業務が増えてしまった人も......

「生成AIを駆使すれば、業務効率が数倍上がる!」。それはそうなのかもしれない。でも、AIって雑だったり、クオリティが低いことってよくありません? 生成AIを利用するいろいろな人に話を聞いていくと、その裏には尻拭いをさせられている人間の存在が......(泣)。

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■大学のレポート課題が機能しなくなった

「ChatGPT」をはじめとした生成AIの進歩は目覚ましく、文章作成や要約、プログラミングといった幅広い業務に活用できる。ところが生成AIの台頭により、むしろ業務が増えてしまった人もいるようだ。

まずはメーカー広報のAさん(30代女性)の談。

「うちは自社メディアを運営しており、外部のライターさんに1文字数円の文字単価制でSEO記事(検索結果ページでより上位に表示される工夫を施した記事)の制作を依頼しています。しかし、最近は文字単価を稼ぐためだけにダラダラと中身のない文章を書くライターさんが増えていて。

試しにChatGPTに記事のテーマを入れてみたら、ライターさんが提出してくれた文章とよく似た内容が生成されたんです。明らかな誤情報が含まれていることもあり、チェックに要する時間はむしろ増えました。AIを使うにしても、せめて内容をきちんと精査して書いてもらいたいですよ」

大学で英語学、言語学を教えるB教授(40代男性)は「ChatGPTのせいで課題を作る際の作業が増えてしまった」と苦笑する。

「例えば昔は『古英語から中英語にかけて起きた変化を400字以内でまとめよ』という課題を出しても、AIは太刀打ちできなかった。ところがChatGPTは完璧な回答を返してくるのです。その結果、表層的な理解で答えられる課題を出すことが不可能になり、難易度を上げざるをえなくなりました。

最近は問題を作った後にChatGPTに解かせて、課題として使えるかチェックするというよけいな手間が増えましたね。レポートが機能しないと考えて、テストに回帰する先生もいるようです」

大学生の英文レポートで、急にやたら難しい単語が出現する 大学生の英文レポートで、急にやたら難しい単語が出現する

英語で書いたレポート課題を採点することもあるというB教授。いわく、「AIが書く英文は見抜ける」という。

「一般の人はあまり使わないのに、やたらAIが好む表現がいくつかあるんです。例えばdelve into(探求する)とか、meticulous(きちょうめんな)などがそれです。学生はまず知らない表現なので、目にしたら怪しむかもしれませんね。そもそも英文を書いているのは普段から接している学生ですから、多くは使う英語の質で判別できます。

とはいえ、私自身はAIの使用自体に反対しているわけではありません。丸投げするのではなく、例えば『こういうことを伝えたいが、適切な英語表現はある?』というように、問いを細かく切り分けて利用する分にはいいのです。

ただ、そのようにChatGPTを使いこなすには、ある程度英語に習熟していなければならないというジレンマもある。英語教育の現場で問題になっています」

■画像生成AIにタジタジ

昨年夏頃より、グーグル検索でトップに表示されるようになった「AIオーバービュー」(AIによる概要)。これのせいでよけいな心労が増えているという職業も。まずは弁護士Cさん(40代男性)の嘆きの声から。

「受任当初から『依頼人にとって難しいケースである』と何度も説明しているのに、依頼人がAIオーバービューやChatGPTの情報を持ち出してきて絶対に折れてくれない。こちらは実務経験や実際の判例を基に話しているのに、自分に都合のいい情報しか信じないんです。

結局こちらが依頼人の希望を受け入れざるをえず、裁判でも残念な結果になってしまいました。依頼する側も弁護士費用を無駄にすることになるので、AIやネットの情報を真に受けすぎないでほしいですよ......」

「まったく同じ目に遭っている」とため息をつくのは、不動産管理会社に勤めるDさん(30代男性)。

「退去時や設備故障時の金銭負担について借り主とトラブルになったとき、AIオーバービューに書かれた誤った知識で食い下がられたことがあります。間違いを指摘しても『Googleが言ってるから!』となかなか引き下がってくれないので困りましたね」

検索結果に出てくるAI要約を事実だと勘違いする人が続出 検索結果に出てくるAI要約を事実だと勘違いする人が続出

意外な業界にもしわ寄せが。地下アイドルのEさん(20代女性)が言う。

「新規のファンが、チェキ会のときにニヤニヤしながら『君、○○って俳優と付き合ってるんでしょ?』と言ってきたんです。私はその俳優の名前を知っているけれど、面識はない。情報の出どころを聞いたら、AIオーバービューの画面を見せられて。

そこには確かに、○○さんと私が交際していると書かれていました。どうしてAIにそう解釈をされてしまったのかは謎ですが、私がXでその俳優さんの出てるドラマに言及したことが理由だったみたい。恋愛関係のデマは今までもたくさんありましたが、検索のトップに出てくるのは段違いに迷惑ですね」

別の芸能関係者からはこんな声も。

「バラエティ番組で自社のタレントのイメージ画像を使われるときがあるのですが、最近は事務所の許可なく、AIが生成したイラストを出されることがあって。

今まではこちらが宣材写真の使用を許可しないと似顔絵を使われるパターンが多かったのですが、画像生成AIで出力したイラストはほぼ宣材写真そのままなので、これは肖像権的に大丈夫なのか?とモヤッとすることはあります」(芸能マネジャーのFさん・30代男性)

AIイラストの中には、ある作家の作風を明らかに盗んで生成されたものも珍しくない AIイラストの中には、ある作家の作風を明らかに盗んで生成されたものも珍しくない

画像生成AIとは、完成イメージや雰囲気を指示するだけで、AIが画像を作ってくれるサービス。その登場のあおりを受けているのが漫画業界だ。漫画編集者のGさん(20代男性)はこう言う。

「実は最近AI使用疑惑のある作家さんがいて。カラーとモノクロでイラストのタッチが全然違ったり、体の不自然なところにシワが入っていたり、洋服の装飾や柄が均等に描かれていなかったりなど、いろいろ疑わしい要素があるんです。

でも、万が一AIを使っていなかった場合、作家さんのプライドを傷つけることになるので直接指摘はできません。一方で、AIの使用が事実だとすれば『AIを商業利用した』と、読者から編集部が非難される恐れもある。悩みのタネです」

画像生成AIは既存のイラストや写真を無断で学習してイラストを作り出すので、それを快く思わない作家も多いようだ。

「今でもXやピクシブ(イラストや漫画を投稿・閲覧できるサービス)に、一目見て出どころがわかるAIイラストを投稿する人がいますが、もし自分の担当する作家さんから『このアカウントの投稿を削除させろ』と依頼が入ったら、イレギュラーな業務が発生します。でも社内にAI対応マニュアルがあるわけでもないので、うまくやれるかどうか......」

■AI議事録が使い物にならん!

AIをよく知らない上司に振り回されているサラリーマンも多い。IT業界のど真ん中にいるシステムエンジニアのHさん(30代男性)が言う。

「業界全体に『AIを使って新しいことをやろう』という雰囲気が漂っている。その結果、AIについてよくわかっていない上司が『AIを使って何か作れ』と圧をかけてくるんです。

代表的な例だと、〝AIアイデアコンテスト〟的なものを社内で開催したのですが、コンテストのテーマが『AIでいい感じのアイデアを作ってね』くらいの、あまりにざっくりとした内容なんですよ。いい提案をしたら報酬が出るらしいのですが、何をどうしたらいいのやら」

AI議事録では業界用語や社名の通称に対応できない。結局、AIとは別に若手社員が議事録を作る始末に AI議事録では業界用語や社名の通称に対応できない。結局、AIとは別に若手社員が議事録を作る始末に

最後に、広告代理店のIさん(42歳男性)の愚痴を。

「会議の録音データを基に、AIが内容を抽出して自動で議事録を作ってくれるシステムを社長が導入しました。

最初は『ラクになっていいな』と思っていたのですが、たびたび出てくる社内でしか通じない単語や業界用語、社名の通称までは認識できないので、だいたい妙な議事録が出来上がってしまうんです。まとめ方も雑なので、とても社内で共有できるものではなく。

ただ、社長の手前まったく使わないわけにもいかないので、AIの議事録に加え、若手がもうひとつ議事録を作成し、基本的には後者を共有するようにしています」

AIのおかげで便利になったのは間違いない。でも、その陰ではひっそり涙を流している人がいるかも......。