2年前、「電気自動車で日本一周」というムチャ企画を成し遂げた男が、次なるチャレンジに目をつけた。今回の乗り物は電動バイク。それもコンセントからの電気は一切使わず、ソーラー発電だけで賄う狂気の「0円旅」だ。や、やれんのか!?
■旅の相棒は業務用電動バイク
年齢制限は16歳以上、実技試験なしで筆記試験のみ。日本の運転免許制度上、最も気軽に取れるのが原動機付自転車免許だ。50ccのエンジンながらスイスイと街を走れ、制限時速30キロの縛りはあるものの、本体も維持費も安く燃費も抜群な庶民の味方。
ところが、その原付が2020年に消滅するという噂がある。噂の主は、当のバイクメーカーのトップだ。
17年6月、スズキの鈴木修会長が「将来は125ccが排気量の下限になり、50cc以下はなくなる」との見通しを発表。18年2月には、ヤマハ発動機の日高祥博社長が50ccバイクの市場について「20年に次期排ガス規制が始まると、20万円近くまで値段を上げないとコストが合わない。厳しい状況になる」と語っている。
だが、そうなると日本に520万台以上あるという原付のユーザーはどこへ? その受け皿が、排ガスを出さない電動バイクだといわれている。
すでに中国では毎年1000万台単位で普及が拡大している電動バイク。複雑なエンジンと違い、基本はモーターとバッテリーのみのシンプルな構造だけに、日本でも多数のメーカーが参入し、魅力的な新型車両で市場がにぎわっている。令和の庶民の乗り物は電動バイクになるのだ。
ただし、電動バイクには便利さもあれば、不便さもある。便利なのは、ガソリンスタンドに行かずとも自宅で簡単に充電できること。逆に不便なのは、出先で充電が切れたら......という「帰宅難民問題」。充電切れバイクを何kmも押し続ける労力は想像を絶する。
今回の企画はここから始まった。充電がネックなら、電気をつくってしまえばいい。お天道さまのエネルギーで発電するソーラーパネルを電動バイクに装備すれば、走りながら充電でき、どこまでも走り続けられるはず!
江戸時代の大名たちが参勤交代でヒイヒイ言いながら上った東海道五十三次を、コスト0円でスイスイと駆け抜けるのだ!!
──この物語は、科学を甘く見た男が、その報いをボコボコに受けながら電動バイクの新たな可能性に挑む壮大な体当たりの記録である。
* * *
まずは、使用する電動バイクのセレクトだ。
候補はふたつ。その1、38kgと最軽量クラスで燃費ならぬ"電費"のよさそうな、バイクルの「バイクルL6s」。350W(ワット)/DC48V(ボルト)のモーターに、48Vバッテリーの組み合わせ。
最高時速32キロ止まりながら、カタログ値では1回の充電で45kmの走行が可能。スマホホルダーにUSB電源、さらにリアボックスもついて、なかなか快適そうだ。
候補その2、見た目はそのまんまスーパーカブの、アクセスの業務用電動バイク「スーパーワーク」。60V-600W(最高出力:1500W)のパワフルなエンジンと、60Vバッテリーの組み合わせ。最高時速50キロに航続距離50kmと、新聞配達などに使われるだけあって実用的なスペックが魅力だ。
早速2台を取り寄せて実走してみる。バイクルのほうは、アクセルを開けるとスルスルと走りだす感覚が、バイクというよりフルパワーの電動アシスト付き自転車(電アシ)みたいだ。街なかなら最高だが、長距離使用には不安が残る。フル充電での実走行距離は32kmほどだった。
一方のスーパーワークは、出足からグイグイとパワー感がある。右ハンドルのスロットル下にあるパワーボタンを押すと、坂道でもズルズル減速することがない。
フル充電での航続距離も45kmと予想外に伸びた。鉛(なまり)蓄電池ではなくリチウムイオンバッテリー搭載モデルだったことも距離が伸びた要因かもしれない。
念のため、両車で再びバッテリーが空になるまで走っても、バイクル35km、スーパーワーク45kmという結果に。安定した走行距離と丈夫そうなキャリアを評価し、相棒はスーパーワークに決まった。
次は充電の設備だ。単純な発想だが、ソーラーパネルをバッテリーにつなげば充電できるはず。走行中も充電し続けるために、MECOIの「ソーラーパネル発電リュック」を購入。背負って野外にいるだけで、背面のパネルから充電できるスグレモノだ。
ところが......実際にやってみると、スマホは3時間ほどで充電完了できたが、1万mA(ミリアンペア)のモバイルバッテリーのフル充電はなんと8時間以上。難しい計算式は省くが、このリュックでつくった電気で走行した場合、8時間充電しても1.2km程度しか走れない。
東海道五十三次は京都・三条大橋から東京・日本橋まで、487.8kmの道のり。毎日晴れれば、来年の6月頃に完走だ。
......これではどうしようもない。日照時間・晴天率が全国トップクラスの宮崎県にあるソーラー発電のスペシャリスト、株式会社関谷の関谷勝幸社長に電話してみた。
週プレ あのー、電動バイクにソーラーパネルを積んで充電しながら、ずーっと走り続けたいんですけど。
関谷 ......無理です。
週プレ そこをなんとか!
関谷 電動バイクを充電するとなると、最低200Wのソーラーパネルが欲しい。畳2枚分くらいの広さがありますから、走行中に広げるのは無理ですが、停車中に充電するならできる可能性はあります。ただし、そのままバイクに充電するより、いったんポータブル電源に充電して、そこからバイクのバッテリーを充電するほうが安定します。
週プレ じゃ、それで。
関谷 ............。
電話では、この壮大なロマンは伝わりそうにない。今回の企画のベースキャンプがある兵庫県西宮市からクルマで走ること約1000km、宮崎県の関谷本社に到着した。
■もうこれ以上、荷物を積めない......
「本当に来たんですね......」
何に突き動かされているのか全然わからない不気味な熱意に押されてか、関谷社長はバカな中学生男子に教えるようにソーラー発電のことを丁寧に説明してくれた。
「バイクで移動するなら、これを持っていくといいです」
用意してくれたのは、折り畳み式の100Wソーラーパネル2枚。これに100Vの出力付き1500Wポータブル電源をつなげば、晴天なら約8時間で満充電となるらしい。あとは、このポータブル電源に電動バイクのバッテリーの充電器を差し込めば、バイクが充電できるというシステムだ。
40km走行して、8時間充電。また40km走って、8時間充電。これをずっと繰り返せば、10日間で500kmくらい走れる気がする。ま、ずっと晴れてればの話だけど......。
ソーラーリュックはナビなどに使うスマホの電源として使用。さらに、雨の日や緊急時に備えて足こぎ式の発電機も用意した。これを70時間不眠不休でこぎ続ければ、ポータブル電源は満タンとなる。70時間......(吐き気)。
西宮へ帰り、さっそくソーラーパネルで充電開始。2日間でバイクのバッテリーとポータブル電源は共に満充電となった。いけるんじゃね?
リアキャリアにポータブル電源と足こぎ式発電機を積み、リュックにソーラーパネルを収容。前かごに荷物を積むとヘッドライトをふさいでしまうため、夜間の走行を考えて空にしておく。これ以上は荷物の積みようがない。
さあ、60km先の京都・三条大橋へ向け出発! 順調なら明日には東海道五十三次のルートに入る......はずが、出発からわずか20分、尼崎(あまがさき)を過ぎた辺りでポツポツと雨。マジかよ。バイクを路側に止め、天気予報を確認する。
京都の天気は......今夜から丸3日間、雨! 雨雨雨!!!
いきなり70時間足こぎ充電はイヤだ。そして何より、雨ガッパはおろか、荷物の雨天対策すら一切していないボコボコのサンドバッグ状態。なぜか晴れるとしか考えていなかった己のアホさかげんを呪い、やむなく西宮に引き返す。
バイクの積載スペースはもう限界。電源やソーラーパネルを濡らさない方策も必要だ。あれこれ考え、プロのバイク屋さんにも相談してみると、「いっそトレーラーを引いたら?」という話になった。早速富山県にあるバイクトレーラーメーカー、ミトラに連絡する。
週プレ あのー、電動バイクでポータブル電源とソーラーパネルを運びたいんですけど、トレーラーありますか?
ミトラ ......よく意味がわかりませんが......。
週プレ つまりですね......(以下略)。
ミトラ ......けっこうな重量ですよね。タイヤをひと回り大きな8インチにして、フレームにも補強を入れましょう。
多少時間はかかるが、どうせ3日間は雨。次週、いよいよ0円旅スタート!!(たぶん)
■「ソーラーバイク0円旅」で東海道五十三次完全制覇!【第2回】京都・三条大橋⇒滋賀・草津宿「パワーボタンは禁断の果実」