コンセントからの充電NG! 太陽光発電だけ! 過酷な「電動バイク0円旅」、今回は早くも東海道の難所「鈴鹿峠」に差しかかる。なんでこんなにツラいの? 科学を甘く見た報いなの? ねえ?
■充電中に寝ていると、体中に赤い点々が......
【前回までのあらすじ】
最近話題の電動バイクに、太陽光発電のソーラーパネルとポータブル電源を積み込んだら、電気代0円でどこまでも走れるんじゃね?
そんな軽薄なノリで始まった本企画。京都・三条大橋から東京・日本橋まで、江戸時代の大名が必死こいて参勤交代の道を歩んだ東海道五十三次(約500km)の完全制覇を目指し、意気揚々と出発した。
しかし、のっけから試練の連続。まず当たり前だが、雨が降ったら充電できず1mも進めない。また、スタート直後からいつ終わるとも知れぬ上り坂の連続に、一回の充電で40km以上走れるはずの業務用電動バイク「スーパーワーク」はエネルギーをどんどん吸い取られていく。初日は早朝から悪戦苦闘し、進めたのは2番目の草津宿までのたった24kmだった......。
* * *
ソーラー充電旅の朝は早い。午前4時30分、草津宿近くの広場でソーラーパネルを広げ、夜明けを待つ。
バッテリーの満充電には晴天で約8時間。夜明けが5時なら、満充電は午後1時だ。平地ならそこから約40km走り、"電欠"となったところでその日はギブアップだ。
しかし、ここで素晴らしい作戦を考えた! 電欠ギリギリまで走らず、1時間走行して午後2時から4時まで2時間追加充電し、そこから再スタートすれば、1日合計50kmほど走れるはずだ。
午後1時、ようやく走行スタート。はやる気持ちを抑えてアクセルをジワジワと開け、節電走行を心がける。
旧東海道の多くは、今の国道1号線に継承されている。そのなかで屈指の難所とされているのが、三重県亀山市と滋賀県甲賀市の境に位置する鈴鹿(すずか)峠だ。
この先の「石部(いしべ)宿」「水口(みなくち)宿」「土山宿」「坂下宿」は、まさにその難所。ウィンウィンウィン......。モーターのかすかな音が苦しそうに山道に響く。きつい勾配になると、アクセル全開でも時速20キロも出ない。ちょっとした道のウネリでバイクがふらつく。
それでも約30分後、昨日は電池切れのため泣く泣く寸前で引き返した石部宿に到着。休む間もなくさらに上り坂を11kmほどひたすら走り、バッテリーインジケーターがレッドゾーンの手前に来たあたりで次の水口宿へ着いた。
かつて水口城があった城下町は、そこから3方向に道が分かれる交通の要所。広場を見つけてさっそく充電をする。
朝も早かったので、充電待ちの間に少し寝よう。パネルの脇で横になり、10分ほどウトウトしていると、顔と手に何かが這(は)うような違和感を感じる。スマホのインカメラで顔を見てみると、赤い小さな点がウヨウヨ動いていた。ヒィィ、なんだこりゃァァァ!!!
パニックになって飛び起き、必死で赤い点の群れを払い落とす。これ、アカダニ(タカラダニ)だ......。
ググってみると、人を刺したりかんだりすることはほぼないらしいが、赤い点々に体中を這い回られるのは愉快ではない。たった10分の間にTシャツの中まで入っていたのには寒気がした。恐る恐るパンツの中をのぞいてみると......無事......よかった(涙)。
これがマダニだったら、死の危険もある重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスを持っている可能性だってある。充電中もうかつに寝転んでいられない。
■坂道+ゲリラ豪雨=ウルトラ大ピンチ
ともあれ、2時間の充電でインジケーターは3分の1程度まで回復。気を取り直して次の土山宿を目指す。
しかしこの日、日本列島は各地で大荒れ。しばらく走り、風が冷たくなったかな?と感じるやいなや、いきなり空が真っ黒に。次の瞬間、風呂の底が抜けたように真上から大量の水が叩きつけてきた。
マジで一瞬だった。バシャバシャバシャ! ゴゴゴゴ! と滝のような雨に包まれる。カメラとスマホだけは必死でジャケットの中に入れ、路肩に停車。そしてバイクを降り、木陰に避難しようとした瞬間......、坂道の上からダムが決壊したように大量の水が流れ落ちてきた!
バイクがズルズルと坂をずり落ちる。慌てて激流の中に戻り両手でバイクを押さえ、踏ん張る。ひえぇぇ~!!!
声にならない叫び声を上げながら雨と激流に耐えること数分、電気のスイッチを入れたように空がパッと明るくなり、雨が上がった。川と化していた坂道には、チョロチョロと水が流れるだけ。ウソだろ、おい......。
雨ガッパを着る間もなかったので、全身グショグショのずぶ濡れだ。ジャケットを絞ると、中ジョッキ1杯分くらいの水が盛大に出た。スマホは防水機能付きだし、カメラも防水ケースに入れていたのは不幸中の幸い。
神の怒りのような雨と必死で戦う様子を撮影できなかったのは残念だったが、どう考えてもムリだ。一番絵になりそうな場面は残らない......(涙)。
それにしても、もし充電中にあの雨に遭っていたらと思うとゾッとする。走りながら服を乾かすことにしたが、寒くて奥歯がガタガタ音を立てる。一秒でも早くこの峠を抜けたい。だがインジケーターを見ると、峠を越えられるかどうかギリギリのラインだ。
と、ここでいいアイデアが浮かんだ。今回の旅では、12Vのソーラーパネルでいったん12Vのポータブル電源に充電→それを100Vに変換し、バイクの60Vバッテリーに充電、という2段階の充電システムを採っている。変動しやすい太陽光発電の電気を安定して取り出すためだ。
しかし、これは非常に時間効率が悪い。せめてポータブル電源からバイクのバッテリーに充電しながら走ることができれば、もっと走行距離が延びるはずだ......。
今回のソーラー充電システムを監修してくれた株式会社関谷の関谷勝幸社長に電話する。あのー、充電しながら走っちゃダメなんですか?
「ああ、可能ですよ。今回のポータブル電源は毎時1500Wの容量があります。100Vに変換して充電しますから、少なからず損失も出ますが、何割か距離は延びるでしょう」
おお! さっそくポータブル電源とバイクのバッテリーをつなぎ、充電状態で走行を再開。すると、体感できるほど明らかにパワーが復活した。これなら峠を越えられる!!
起死回生のアイデアで、土山宿に楽々到達。ここからは待望の下り坂だ。ほぼアクセルを閉じたままの節電走行で、シュルシュルと坂を下っていく。ヘラヘラ笑いが止まらない。世の中の道がすべて下り坂だったらいいのに。
■道の駅でも注目の的に......
坂下宿で手早く撮影を済ませ、一気に関宿を目指す。しかし、多くの電動バイクと同様、スーパーワークに回生ブレーキ(EVなどに搭載されている、減速と発電を同時に行なえる電気ブレーキ)はない。下り坂でもジワジワ電気を消費しているので、いつの間にかインジケーターはレッドゾーン手前になっていた。
こうなると、あと走れても500mがせいぜい。もう午後5時なので、残念だが今日中の関宿到着は諦め、関の町の玄関口ともいえる「道の駅 関宿」で停車した。
生乾きのジャケットに新聞を挟み込んで水けを取りながら、コンビニで食料を調達し、ベンチで夜明けを待つ。バイクのトレーラーを不思議そうに見ていた長距離トラックドライバーが、しばらくしてエンジンやマフラーがないことに気づき、写真を撮り始めた。
翌朝4時30分、充電態勢に入る。幸い天気は晴れ。昼過ぎにはインジケーターは満タンを指した。
走りだして間もなく到着した関宿は、まるで時代劇のセットのような情緒あふれる宿場町。だが、少し散策してみると若者の姿が目立つことに驚いた。ここまでの宿場は高齢者が多かったが、関宿ではうまく次世代にバトンタッチが行なわれているようだ。
土産店で、地域にちなんだ句が書かれた「関宿かるた」と「銘菓 関の戸」を買う。懸命にかるたのことを説明してくれる作務衣(さむえ)姿の若いお兄ちゃんの郷土愛を見る限り、令和時代も関宿は安泰だろう。
昨日の反省から、近くの100円ショップで大型の密封容器を購入した。ポータブル電源からバイクに常時充電するためには、荷台に充電器をくくりつけねばならないが、そのままでは雨に対して丸腰。そこで、充電器と延長コードのソケットを容器の中に収めてフタをするのだ。
ただ、峠を下りてきたところで別の問題が見えてきた。郊外や山間部では、どこでもパネルを広げて気軽に充電できたのだが、町中ではパネル2枚(畳2枚分)とバイク&トレーラーを置いて充電できるスペースがなかなか確保できないのだ。嗚呼(ああ)、充電難民。困ったぞ......。