東京都の「令和5年度ZEV車両購入補助金」の上乗せ補助対象に選ばれた日産のEV3台。(左から)サクラ、リーフ、アリア 東京都の「令和5年度ZEV車両購入補助金」の上乗せ補助対象に選ばれた日産のEV3台。(左から)サクラ、リーフ、アリア

東京都が前年と同額のEV補助金を出すことを決定した。さらに補助金の上乗せも発表。この大盤振る舞いの背景には何が? 長年、クルマの税金や補助金を取材してきたカーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。

■国と自治体の補助金で人気の軽EVが鬼安に

渡辺 4月28日から東京都は自動車メーカーのZEV(ゼロエミッションビークル=排ガスを発生させないクルマ)の販売状況などに応じて、購入補助金を上乗せする独自の制度を導入しました。

これは2023年度「ZEVの車両購入補助金」制度の一環で、補助対象車はEV(電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド)、FCEV(水素燃料自動車)です。EVとPHEVは前年度から継続させる基本補助45万円(給電機能あり)に加え、条件を満たしたモデルならさらに5万または10万円を上乗せします。

――その条件というのは?

渡辺 22年度にZEVを都内で20台以上販売したことなどが前提条件。さらに次の4条件のうち、2項目以上満たせば10万円、1項目の場合は5万円が上乗せされます。

①ZEV乗用車で一定の販売実績がある。②非ガソリン乗用車(ZEVとHEV[ハイブリツド車])で一定の販売実績がある。③最も多くの台数のZEV乗用車を販売。④対前年比2倍以上の台数のZEV乗用車を販売。

――10万円の最大上乗せ補助に該当したモデルは?

渡辺 日産のアリア、リーフ、サクラ、三菱のeKクロスEV、テスラのモデル3です。

――では都内で補助金を使い、日産の軽EVサクラの売れ筋グレードを購入すると?

渡辺 経済産業省による「CEV補助金(クリーンエネルギー自動車導入促進補助金)」の55万円と併用して、東京都のZEV補助金が45万円、そして日産は上乗せ補助額が10万円。合計すると110万円です。

さらに区も独自に補助金の交付を行なっている場合があり、例えば千代田区に住民登録があるユーザーなら、東京都の補助金とは別に、20万円の交付も受けられます。

――補助金総額130万円!

渡辺 売れ筋のサクラXの車両価格は254万8700円。そこから130万円の補助金額を差し引くと、約125万円になる。この価格はガソリンエンジンを搭載した日産の軽自動車・デイズで一番安いグレードのSより安い。人気の軽EVがこの価格で手に入るのは、冗談抜きに衝撃ですね。

――東京都以外の自治体も同様の補助金を用意している?

渡辺 例えば埼玉県在住で日産サクラを購入する場合は27万5000円、新潟県柏崎市は13万7000円、宮城県栗原市は10万円です。道府県単位より市町村が補助金を出すケースが目立ちます。

そのため、潤沢な財源を持つ東京都ほどの大盤振る舞いはありません。ただし、今回の東京都の補助金が一定の成果を上げれば、ほかの自治体に影響を与える可能性は十分あると思います。

――自治体ごとに金額に差があるんですね。ちなみに自分が住んでいる自治体の補助金の額を知るには?

渡辺 新車販売店に行けばどの程度の補助金を受けられるかすぐにわかります。また、常に実施しているとは限らないため、自治体の補助金を受け取りたい場合は、購入時期を検討する必要もあります。

■不公平感のあるEV補助金

――なぜ東京都の補助金の額は突出して高いんスか?

渡辺 東京都の小池百合子知事が20年12月、都内で販売される新車に関して乗用車は2030年、バイクは2035年までに、脱ガソリンエンジン化し、すべてをEVなどにする目標を掲げているからです。この目標を実現するために、自動車メーカーと連携しながら、新車購入費の補助などを行なってきました。

――国と自治体の補助金の原資は税金です。正直、EVを購入しない人は何も恩恵を受けられませんよね?

渡辺 そのとおりで、実に不公平です。しかも、仮に購入したい場合も問題があります。

――なんですか?

渡辺 充電インフラの不足です。日本は総世帯数の約40%が集合住宅に住んでいます。一戸建てに住む世帯は、EVの充電設備を設置しやすいですが、都内はマンションだらけ。世帯数の70%くらいがマンションなどの集合住宅に住んでいる地域もあります。

当然、自宅に充電設備を設置しにくい。最近は一部の新築マンションに充電設備がありますが、ごく少数。また、既存のマンションに充電設備を後から設置するのは、スペースの面でも、また自治会などの承認を得ることを考えると不可能に近い。

――脱炭素社会の実現はわかるんですが、この補助金の制度にはモヤモヤが残ります。

渡辺 集合住宅に住んでいる庶民からすると、血税バラまきに見えなくもない。本当の意味でEVを普及させたいのなら補助金に頼らずに済むよう商品力を高めたり、産学官が一体となり充電インフラの問題を解決すべき。

――確かに。

渡辺 また、毎年5月になるとクルマの所有者には、自動車税の納税通知が郵送されます。最初に登録(軽自動車は届け出)されてから13年を超えると、自動車税と自動車重量税が増税されます。加えて、最初の登録から18年を超えた段階で自動車重量税はさらに加算されます。

――増税の目的は?

渡辺 EVなどの環境性能に優れたクルマへの乗り替え促進のためです。しかし、新車の製造時や流通させる過程で資源は消費しますから、フツーに二酸化炭素を排出する矛盾も生じます。

――なるほど。

渡辺 モノを大切に使うと、国が増税し、クルマを買い替えろと迫る。税金や補助金は本来、環境車をたくさん売るためではなく、国民が安心して快適に暮らせることを目的にすべきです。

●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。"新車購入の神様"。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員