アニメ市場が年々成長を遂げている中、つい先月、創業32年にして全国出店を果たしたアニメイト。
セブン-イレブンやスターバックスといった超有名チェーンでさえ成し遂げていない、この偉業は大きな話題となった。
そこで、週プレでは滅多に取材を受けたことがないという代表取締役社長の阪下實氏にインタビューを敢行!
前編(http://wpb.shueisha.co.jp/2015/05/12/47772/)では、この全国出店に「まだまだやなぁ」という本音を語った阪下社長だが、今回は店作りへのこだわりを明かした。
■リアル店舗としてお客さんをつなげたい
―32年の歴史の中で、アニメイトに来るファン層は変わりましたか?
阪下 アニメは世代を超えたな、と思いますねぇ。80年代に『ジャンプ』原作のアニメを見て育ったような方が親世代になり、今ではその方たちと子供世代とが一緒にアニメイトで買い物をしている。女性のお客さんも増えましたし、ファン層はずいぶん広がりましたね。
―アニメイトに並ぶ商品は変わってきましたか?
阪下 昔はポスターやラミネートカードなど、絵柄を印刷した平物(ひらもの)が多かったんですが、『新世紀エヴァンゲリオン』を境に少し変わった気はしますね。物語性を感じさせるようなグッズや、デザイン性のある商品が増えたような……。私は、エヴァンゲリオンは内容が難しくてついていけなかった。今のアニメのこともよくわからないんですよね(苦笑)。
ただ、エヴァンゲリオンがまだブームになっていない頃、渋谷店のアルバイトのコが「これは面白い!」といって、いち早くエヴァンゲリオンのコーナーを作ったということがありました。そういうスタッフの遊び心を応援するのが私の仕事かな、と今は思ってますね。
―店作りは各店舗のスタッフが主体的に進めているんですか?
阪下 そうです、そうです。アルバイトも社員もアニメが好きな人間ですから、喜んでお店のディスプレイを作ってますよ(笑)。ディスプレイコンテストも開催してます。
アニメイトは人との出会いの場!
―アニメイトに行くと、スタッフ手作りのキャラクターパネルが飾られていたりと、売り手の愛情を感じます。また、作品ごとにDVDからTシャツまで関連商品がまとめられていて、お客さんは買いやすいですね。
阪下 確かにそうなんですが……。私自身は、売り手が誘導するのではなく、お客さんが商品を探す喜びを持てるような店にしたいと思ってるんですね。おもちゃ箱をひっくり返したような店が理想です。私はもともと書店上がりの人間ですから、本屋で人を待ってる間に、思わぬ本を見つけるというような出会いができればえぇなぁと思っています。
―それが、今のネットにはない強みかもしれません。
阪下 そうそう。それと、お客さん同士のコミュニケーションを生む場でありたい。今、アニメ作品とコラボレーションする「アニメイトカフェ」というお店をいくつか出してるんです。そこで、作品を通して同じ趣味のお客さん同士をつなげたい。それがリアル店舗としてのこだわりですね。
■アニメイトが扱っているのは……
―ほかのアニメ系専門店との違いとして、アニメイトにはいわゆる「18禁」の成人向け商品がほぼ置かれていません。
阪下 私自身は、エロは大人になるためには必要なものだと思います。でも、アニメイトは「親が安心できる店」がテーマ。中学生や小学生をひとりで行かせても心配されない、“安心安全”な店にしようということを心がけています。
―最近でこそ「オタク」という言葉がカジュアルになりましたが、かつては「おたく」とその文化が偏見を受けていた時代もありましたね。
阪下 そうですね。私どもが誤解を受けるということはなかったんですが……宮崎勤(元死刑囚)の事件(88年に起きた連続幼女誘拐殺人事件)の頃は、いわゆる「おたく文化」がいわれなきバッシングを受けて、お客さま自身がつらい思いをされたんじゃないでしょうか。だからこそ、われわれは安心安全な売り場を作らなければならないと思いました。
―今後、アニメイトはどんなふうにアニメ文化を育てていきたいと思いますか?
阪下 いやいや、私どもはいち小売り企業ですので。メーカーさんや出版社さんの作品・商品をお客さんに届けるのが役割です。ただ、個人的に願ってるのは「紙文化」の復活ですね。そもそも、アニメイトは、コミック・小説っていう書籍から派生したものを多く扱っています。アニメもコスプレも、すべて本の世界から広がったものですから。日本のマンガやライトノベルは、夢も希望も冒険もある素晴らしい文化だと思うんです。だから若い方にはスマホをちょっとしまっていただいてですね(笑)、本を手に取っていただきたいと思います。
―最後にお聞きしたいんですが、最近見た中で、面白かったアニメはありますか?
阪下 えーっと、あれ、『サマーウォーズ』! おばあちゃんと孫が力を合わせるやつね。あれ、泣いちゃいました。けっこうアニメを見て泣くことがあるんですよ、私(笑)。
(取材・文/西中賢治 撮影/髙橋定敬)