デザイナー・永島氏が語るBMWとは デザイナー・永島氏が語るBMWとは

び、びっくり仰天の宣言が世界を駆け抜けた! 「駆け抜ける喜び」を忘れない、ステキに大人げないビーエムが自動運転に力を入れると宣言したのだ。BMWはどっちに行っちゃうの? 

前編記事(BMW本国の上級副社長が語る「BMWは成功の方程式を知り尽くしている」)に続き、小沢コージが直撃した。

■BMW現役トップデザイナーも直撃!

実は今回のBMWのイベントには、知る人ぞ知るBMWの日本人トップデザイナー・永島譲二氏も来日。彼は27年前の1988年に入社したBMW成長神話の生き証人なのであ~る!

―BMWは最近成功が続いてますね。

永島 どうしてそうなったかは僕にもわからない(笑)。

―永島さんでもわからない。

永島 例えば、ミュンヘンにある有名なBMW4シリンダービル。アレを見るとスゴく狭くて小さいんです。70年代、BMWが実は小さな会社だったことがよくわかります。おそらく今の10分の1ぐらいの生産量ですよ。

―ただ、よくいわれるのは大株主のクヴァント家の存在ですよ。ヨーロッパで2番目のお金持ちといわれていて、クヴァント家がいるから、BMWは長期ビジョンを描けるって話もありますよね?

永島 そうだと思います。でも偶然も大きいんですよ。例えばミニですが、あれがどういう経緯でBMWに来たか覚えてます?

今年デビューの市販レーシングマシンM6 GT3。FIA-GT3規定に基づく車両で585馬力を発揮する4.4リッターV8ツインターボ搭載。今年のニュル24時間耐久レースにも参加 今年デビューの市販レーシングマシンM6 GT3。FIA-GT3規定に基づく車両で585馬力を発揮する4.4リッターV8ツインターボ搭載。今年のニュル24時間耐久レースにも参加 BMW M6 GT3

BMWはモダンなスーツ

 

2013 年に鳴り物入りで生まれたプレミアム電気自動車ブランドBMWiのエフィシェントスーパーカー。モーターと1.5リットル直3ターボを組み合わせたプラグインハイブリッド。速くてエコ 2013 年に鳴り物入りで生まれたプレミアム電気自動車ブランドBMWiのエフィシェントスーパーカー。モーターと1.5リットル直3ターボを組み合わせたプラグインハイブリッド。速くてエコ BMW i8

―当時、ローバーはホンダと提携してましたよね?

永島 そう。BMWはホンダから奪う形で英国のローバーと提携しました。そして再びローバーと分かれるときにミニの商標権だけはBMWに残したんですよ。

―それはなぜです?

永島 もちろんブランド自体に将来性があると思ったわけですけど、ほかにも理由があったんです。実は当時ローバーを買収した社長のピシェッツリーダーですが、彼はミニを開発したサー・アレック・イシゴニスの親戚筋。それがミニを買収した主な理由(笑)。

―ええっ! そんなに生々しい背景があったとは(笑)。ところでバカな質問かもしれませんが、ぶっちゃけ、BMWってなんでこうカッコいいんでしょうね?

永島 ……とても難しい質問ですね(笑)。例えばスーパーカーですとか、前衛的なデザインってありますよね? BMWはアレではないんです。あえていうとBMWはスーツのデザイン。つまり基本コンサバで、どれを見ても似てますが、モダンデザインがないかっていうとそれは違う。BMWはモダンなスーツです。

―モダンなスーツのようなエレガントさとスポーティさを外さないんですよね。このサジ加減が絶妙にうまいのに、インテリアはいつもマンネリな2連メーターですよね?

永島 プレミアム商品というのはある程度の継続性が必要で、変えなさすぎるのも問題ですが、変えすぎるのはもっと問題になります。

―たまに他社で「カッコいい!」と思うクルマがあっても、不思議とBMW的な高級感はない。なぜです?

永島 どんなにおいしくてもメンチカツはメンチカツという話です(笑)。

自動運転をやってもやらなくても自殺行為

―最後に! 永島さんにも伺いたいんですが、デザイナーの立場というよりも、根本的な話として、BMWが掲げる「駆け抜ける喜び」と「自動運転」って矛盾する気がするんですよ。コレについてどう思います?

永島 それはそのとおりだと思いますよ。極端に言うと、スポーツカーだけのメーカーは「この先どうやって生き残るの?」って話で。

―やっぱし!

永島 今の時代、自動車メーカーは、自動運転をやっても自殺行為だし、やらなければもっと自殺行為で。

―ですよね! だとするとBMWもここにきて難しい領域に入っていると考えていいんでしょうか。どうです?

永島 それはあります。でも「インディビジュアルモビリティ」っていいまして、個人的移動空間は必ず残るんです。それとBMWは「スポーティ」ではありますが、同時に「プレミアム」でもありますから。自動運転が進むと、今以上に自動車にとって「プレミアム」であることは重要になるでしょうね。

* * *

おそらくBMWが100年続き、ここまで魅力的かつ強いブランドに成長した背景には、技術や歴史に裏づけられたマーケティング力があり、ブランド再生力がある。だが、ここにきて真にスゴいと思うのは、その柔軟性なのだ。

そのひとつがインタビューに出たトヨタとのここ5年間のコラボレーションだろう。まず欧州でのディーゼルエンジンの供給に始まり、今では燃料電池車の共同開発からスポーツカーのプラットフォームまで共有していて、ウワサの段階だが将来のZ4(Z5かも?)はトヨタ・スープラと骨格が一緒だという話まであるのだ。

BMWは、こりゃなかなかタフな企業かも!

◆この全文は『週刊プレイボーイ』32号「BMW100周年! 本国上級副社長独占インタビュー」にてお読みいただけます!

BMW100 周年を機に「次の100年」をにらんで造られたのが、自動運転コンセプトカーの「VISIONNEXT 100 」だ。伸縮自在のフェンダーだけでなく、コンパニオン(副操縦士)を持ち、ステアリングが格納された完全自動運転モードも選べる。100 年後もBMWが世に送り出すクルマというのは、キドニーグリルと4連ライトは不変なのだ! (C)BMW Japan BMW100 周年を機に「次の100年」をにらんで造られたのが、自動運転コンセプトカーの「VISIONNEXT 100 」だ。伸縮自在のフェンダーだけでなく、コンパニオン(副操縦士)を持ち、ステアリングが格納された完全自動運転モードも選べる。100 年後もBMWが世に送り出すクルマというのは、キドニーグリルと4連ライトは不変なのだ! (C)BMW Japan BMW VISION NEXT 100

●BMWデザイン部門エクステリア・クリエイティブ・ディレクター 永島譲二(NAGASHIMA JOJI) 海外で活躍する代表的日本人カーデザイナー。サッカー界でいう香川や中田みたいな存在。オペル、ルノーと渡り歩いて1988年にBMW入社。オープンのZ3や3&5シリーズを手がける!

(取材・文/小沢コージ 撮影/本田雄士)