日本が史上最多のメダルを獲得し、沸きに沸いたリオデジャネイロ五輪。しかし期間中、治安の悪さで有名なリオでは、世界中から訪れた“お客さん”が犯罪に巻き込まれたという残念な報道もあった。
そんな危険に満ち満ちたリオ五輪の舞台裏で活躍したのがボディーガードたちだ。
そこで今回は、リオ五輪で日本の大手企業の警備を担当したIBA JAPAN(国際ボディガード協会)の小山内秀友(おさない・ひでと)さんに取材。小山内さんはIBA JAPANの副長官とアジア地域統括責任者を務めるかたわら、現役のボディーガードとして警護業務などで活躍。そんなプロ中のプロに、リオ五輪の警護の現場やボディーガードという仕事の実態について聞いてみた。
■南米人も近づきたがらない恐怖のリオ
待ち合わせ場所に指定された都内某所のホテルのラウンジ。視界に入ってきたのは黒いスーツ姿の屈強な体つきの男性ーー彼こそ、ボディーガードのすべてを知る男、小山内秀友さんである。対峙した瞬間、動物的な直感で「勝てない」と悟るほどの圧(あつ)。今回、業務の支障をきたす可能性があるため顔出しNGなのは残念だが、顔立ちも実に精悍(せいかん)である。
―はじめまして。小山内さんは今までどのような方のボディーガードをされてきたんですか?
「はい。日本企業の数社から依頼がありました。今回の五輪では私自身、現場でボディーガードをしたわけではなく、実際に警備にあたるボディーガードの手配などを担当しました。通常は現地の支部のボディーガードを派遣するのですが、南米はプエルトリコにしか弊社の支部がないので、別のネットワークでブラジル連邦警察のトップの人間にコンタクトをとり、現職の警察官をアサイン。彼らには私服を着てもらい、もちろん銃も携行させ、さらに防弾車両を用意してクライアントをエスコートする段取りを組みました」
―防弾車両…。やはりリオはボディーガードから見ても、かなり危険な場所という認識ですか?
「ええ、それはそうです。窃盗や強盗はもちろん、身代金目当ての誘拐、麻薬絡みの紛争・闘争もすごく多いですから。南米全般、経済がよくなくて犯罪が多いですが、ブラジル、特にリオデジャネイロは非常に危ない地域ということで、南米の人たちでも行きたがらないんですよ」
―今更ですがなんでそんなところで五輪をやったんでしょうか…(苦笑)。ちなみに小山内さんが警備手配したボディーガードたちは生々しい事件や犯罪に遭遇しましたか?
「いえ、うちのボディーガードに関してはありませんでした。犯罪に巻き込まれないようにエスコートするのが仕事なので、逆にあってはならないのです。オリンピックといえば、1972年のミュンヘンオリンピックでイスラエルの選手団がパレスチナ系のテロ組織によって殺された悲惨な事件がありましたが、当時の選手団にボディーガードはついていなかったそうです。
今回のリオでは、日本人が鞄をとられるなど窃盗・強盗・置き引きの被害に遭ったと聞いていますが、懸念していた誘拐・テロ・殺人はなかったのでよかったです。基本的に治安が悪いと警戒して危険な場所には近づかず、ホテルと競技会場の往復がメインだったことが幸いしたのではないでしょうか」
窃盗や強盗、置き引きくらいで済んでよかった…というのがプロの本音といったところか。もっとも、ある意味、被害が最小限にとどまったのは、重大事件を未然に防ぐために尽力したボディーガードたちの功績と言ってもいいかもしれない。
◆続編 ⇒『現役ボディーガードが危惧する東京五輪。豊洲の建築現場に数年先の爆発物も仕掛けられる?』
(取材・文/ケンジパーマ)