神奈川県に4店舗を展開するリフォーム会社「さくら住宅」。電球交換など家の小さな困り事も引き受け、黒字経営を継続。地域住民からも愛されている 神奈川県に4店舗を展開するリフォーム会社「さくら住宅」。電球交換など家の小さな困り事も引き受け、黒字経営を継続。地域住民からも愛されている

ニッポンには人を大切にする“ホワイト企業”がまだまだ残っている…。連載企画『こんな会社で働きたい!』第12回は、神奈川県横浜市のリフォーム会社「さくら住宅」だ。

*** 横浜市栄区の桂台地区は約4千世帯が暮らす戸建て住宅地だが、その5軒に1軒は家のリフォームに「さくら住宅」(1997年創業、社員数50人)を利用している。同じ桂台に本社があるということ以上に、絶対的に信用できるからだ。

丁寧な工事は当然として、リフォーム終了後も会社と住民との関係は途切れない。年賀状や暑中見舞いはもちろん、挨拶回り、一流料理が食べられる廉価のクリスマスパーティーへの招待、会社が毎年企画する国内旅行や海外旅行には4人の社員が同行し、費用の一部も負担する。わずか数千円にしかならない修理にも気軽に応じる。

二宮生憲(たかのり)社長や福田千恵子常務は、客の高齢者が他界した時、家族から「あなた方は特別」と家族葬にも参列させてもらったほどの信頼を得ている。

悪徳リフォーム業者は論外だが、少なからぬ業者は工事終了と同時に客との関係は切れる。もちろん数千円の仕事などペイしないから受けない。

さくら住宅にリフォームをしてもらった客はさくら住宅に惚れる。そして株主になり、さくら住宅を支える。企業と住民との理想的ともいえるこの関係性はどうやって形成されたのだろうか。

二宮社長は20年前にさくら住宅を創業するまでの28年間、3つの住宅メーカーに勤務していた。その3社に共通していたのは「とにかく売り上げだ」との収益優先主義だった。

ひとつ目の会社には厳しいノルマがあった。達成できない社員は退職を迫られ、自己都合という形で解雇されていた。そこで、二宮さんは自身を含め仲のいい4人の社員で新しい会社を立ち上げ、当初はうまくいっていたという。

ところが、社長が麻雀に明け暮れるほどに仕事をしなくなった。しかも、歳暮や中元を堂々と自宅に持ち帰るなど「それはダメだ」と進言しても改まらなかった。そして、二宮さんを除く社員がみんな辞めた。自身が辞めなかったのは、役員だったことと仕事が面白かったからだ。

だが、「この会社は潰れる」と予想。当時、木造住宅の普及を進める日本木造住宅産業協会に会社を代表して参加していたが、ここに出入りすることでいろいろな会社から「ウチで働いてくれないか」との声がかかるようになる。

独立を決断すると、出資者が続々と現れる

 さくら住宅の二宮社長。「手間を惜しんではお客様は来てくれない。コツコツと努力を重ね、リフォームを通じて社会のお役に立つ会社になる」 さくら住宅の二宮社長。「手間を惜しんではお客様は来てくれない。コツコツと努力を重ね、リフォームを通じて社会のお役に立つ会社になる」

その後、3つ目の会社に移ることになるが、そこには注文建築部がなかった。その道ひと筋で働いてきた二宮さんはノウハウを伝えるが、20年ほど前、二宮さんを会社に引っ張ってきた社員(社長の息子)が社長と喧嘩をして「今期をもって辞めます」と電話を寄越すと、自身も「じゃ、私も辞めますわ」と辞意を伝え、同時に理想を実現する会社を設立すると決めた。

これら3社は「反面教師になった」と二宮社長は振り返る。

「業界全体に言えることですが、建築をしたらアフターサービスを一切やらない会社が多い。私も、新築したばかりなのに『壁紙がはがれた』とのクレームを受けたことがありますが、上司は『儲けにならないものは放っておけ』との態度でした。そして『リフォームよりも新築のほうがいいですよ』と誘導する儲け主義に走っている。これはおかしいとずっと思っていました。きちんとリフォームすれば戸建て住宅は70年は保つのです」

だからこそ、「理想のリフォーム会社を作ろう」と心に決めた。開業には資金がいるが、この問題もすぐに解決した。

というのは、その理念に応じ、会社の創業前、まだ銀行口座も開設していないのに、わずか2週間で1500万円が集まったからだ。出資してくれたのは、それまで一緒に働いていた建築関連業者や同僚だった。声掛けもしていないのに「いくらいるんですか。いくらでもいいですよ」と言ってくれる人もいた。

1997年、二宮さんは「さくら住宅」を創設する。51歳になっていた。社員はふたり。小さな会社の船出は順調ではなかった。台所や洗面台など水回りのリフォームをまとめていくらというパック料金を設定し、チラシも作るがさっぱり依頼がない。

そんなある日、地域住民が来店して「サビが出た洗面台の鏡を交換したいが、どこの業者もやってくれない。お願いできないか」と依頼してきた。

すぐに訪問して鏡を交換、品物代と手間賃を入れても3千円の赤字工事…。どこの業者も依頼に応じないのは当然ではあったが、だからこそ、客は「ありがとうございます!」と喜び、小さな工事に応じてくれたことを次々、近隣住民に伝えたのだという。

すると、依頼は順調に増えていった。桂台地区は山を削って宅地開発し、戸建て住宅が一斉に販売されたことで形成された町。そのため、各戸で修繕を要する小さなガタがほぼ同時期に出始めた。儲けの出ない工事をやる会社が他にない中、「さくら住宅という、いい会社がある」との口コミは地域中に広がり、多くの受注に繋がったのだ。

「困っている人がいるのに放っておけるか!」

困っている人がいるのに、放っておけるか”――二宮社長の心底にはこの思いがある。さくら住宅はどんなに小さな修理や工事も断ることなく受け続けた。

2016年度でいえば、実施した工事の中で3万円以下の工事(電気の修理、障子の張り替え、水漏れ、柱の補修等々)は全体の47%も占めている。平均2万6019円。現場に入る監督と数人の職人への正当な賃金を払えば赤字だ。

ちなみに、さくら住宅の男性社員の名刺には自身の携帯電話の番号が記載されている。緊急時に対応するためだ。例えば、コンロに火がつかない、水道が詰まるといった事態は食事が作れないことを意味するだけに絶対に対応するという。

ある社員には寝入りばなの夜10時に「水道管から水が噴き出している」との電話が入り、パジャマのまま、上だけジャンパーをひっかけて駆けつけたことがある。また別のある日には、早朝6時に二宮社長の電話が鳴った。

「どうしたんですか?」「雨どいが詰まるんです」「何も今の時間に電話することないじゃないの」「忘れないうちにと思って…」

相手は高齢者。半ば微笑ましさを覚え、出かけたそうだが、小さな依頼にも手間を惜しまず、いかに迅速に対応するかが大切。これが二宮社長のモットーだ。

これだけ多くの赤字仕事を受けていても、実は小規模工事ゆえに占める売上額は総売上10億829万円のわずか2・2%でしかない(2016年度)。どんな工事でも引き受けてくれるさくら住宅だからこそ、顧客は数百万円の大規模な住宅リフォームを依頼するからだ。

創業第1期こそ赤字だったが、以後、毎年黒字を継続している。二宮社長には目指すべき会社や業界の理想像がある。リフォームといえば「悪徳」と連想されがちな業界のイメージを払拭(ふっしょく)したい。そのためには地域社会と社員を徹底して大切にする。

●続編⇒宣伝なし訪問営業なし…「ノルマなんてとんでもない!」で19年連続黒字のさくら住宅が愛されるワケ

(取材・文/樫田秀樹)