ニッポンには人を大切にする“ホワイト企業”がまだまだ残っている…。連載企画『こんな会社で働きたい!』第14回は、広島市に本社があるメガネチェーンの株式会社21(トゥーワン)だ。
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就職・転職市場でメガネチェーン業界が注目されることは少ないという。その理由について、ある就職コンサルタントがこう話す。
「かつて、この業界は単価3~5万円でメガネを売る“儲かる業界”でしたが、2000年前後にJINSやZoffといった新興チェーンが台頭すると、レンズとフレームを5千円でセット販売する価格破壊が起きました。デフレの波に乗り遅れた老舗チェーンは業績が悪化し、新興チェーンも低価格競争に歯止めを掛けられずに利益率が低下。今では外食業界と同様、『ノルマがきつそう』『待遇が悪そう』といったマイナスイメージが定着し、求職者から敬遠される業界になっています」
そんなメガネチェーン業界にあって異彩を放っているのが「メガネ21」だ。広島市に本社を構える株式会社21が全国に100店以上を展開するメガネチェーンで、従業員数は約120人、売上高は2017年2月期で約31億円。
安値を売りにする新興チェーンでは店内にメガネのフレームを並べて客が自由に選ぶセルフ販売が主流だが、メガネ21は各店舗に十分な人員を配置するフルサービス型を主軸にしている。創業者の平本清相談役(67歳)がこう話す。
「人によって顔の大きさや幅は違いますし、耳までの距離、鼻の幅、高さなどにも個人差があるので、自分にとって“かけ心地”のいいメガネを見つけるのは難しいものです。しかし、メガネ屋の店員はそのような複雑な要因を考慮しながら、お客様に最適なメガネをするのが仕事。人件費を抑えられるセルフ販売を否定するつもりはありませんが、お客様に丁寧に接し、時間をかけて応対するのがメガネ屋の基本です」
その分、人件費はかさむが、それでも同社は新興チェーンに安値で対抗してきた。
「新興チェーンは自社ブランド品を低コストに大量生産することで安値を実現していますが、当社はナショナルブランドの品を定価の3~5割引きで販売しています。ナショナルブランドの価格では他社には負けません」
安さの理由は同社の経営方針にあった――『丸見え経営で日本一の安さに挑戦』。
「私たちはこの会社を“好きなメガネの仕事を続けたい”一心で設立し、創業以来、社長の年収に上限(1千万円)を設けるなど、徹底した合理化と“丸見え経営”で日本一の安さに挑戦し、お客様と社員に利益を還元し続けてきました。その方針は変わりません」
というが、それは商品の原価率に表れている。
「この業界では仕入れ原価25%~30%に粗利益70~75%が上乗せされるのが普通ですが、当社は原価75%、粗利益は25%です。利益を極力減らし、すべてのメーカーのブランドを3~5割引で販売しています」
その分、販売ノルマが厳しかったり、人件費を削られたり…と、安売りの裏には社員の犠牲がある、というのがありがちな話だが、同社の場合はそうではないらしい。平本相談役の息子でメガネ21本店の店舗責任者、平本大氏(39歳)がこう話す。
「ノルマはうちにはありませんよ。キツいノルマはお客様に高い商品を押し付ける強引な接客に繋がりますし、何より店員が気持ちよく働けなくなるでしょう? だから、この会社ではノルマはタブーなんです」
では、待遇面はどうか。
「社員もパートも同一労働、同一賃金を原則としています」(平本相談役)
金利15%の社内預金制度とは?
安倍政権が進める“働き方改革”の一環として議論が過熱しているものの、一向に実現されない同一労働・同一賃金。これをどうやって形にしているのだろうか?
「簡単なことですよ。ウチの社員の初任給は21万2千円。これに賞与額を加えれば、年収額は“初任給×14ヵ月”。その総額を労働時間で割れば、時給が出ます。なので、ウチではパートの時給は1300円台のスタートです。週に3日しか来られないパートさんでも、社員と同じ接客業務できちんと働いてくれているなら、それ相応の報酬を払うのは当然でしょう」
同一労働・同一賃金の制度化は経営者の心意気ひとつ、というわけだ。さらに同社の場合、店員の制服は男性、女性ともスーツが基本なのだが、会社支給ではなく、すべての店員に「夏服2万5千円、冬服3万5千円の計6万円を毎年支給し、自分好みのスーツを買わせる」。もちろん、その制服代は「パートにも支給する」のだという。
経営方針の通り、メガネ21の特色のひとつである“丸見え経営”だが、「丸見えとはどういうことか?」と尋ねると、平本相談役は「例えば、コレ…」と手持ちのタブレットを差し出してきた。画面を見ると、そこには広島市内のある店舗の責任者(30代)の給与明細書が表示されていた。
『基本給22万円、残業手当5万5千円、総支給額27万5千円』。
これを目にして、ふたつ驚いた。店舗責任者の割に給与が低いのでは?ということと、社員の給与明細を公開しちゃって大丈夫なの!?という疑問だ。そこで平本相談役に聞いてみた。
―御社では、意外に社員の給料が低いんですね?
「ウチの場合、社員は初任給21万円からスタートして、基本給の部分で昇給は23万円が上限。これに4~5万円の手当てが付くから、まぁ、もらえても月30万円までかな」
―ただ、ボーナス額はそれなりにいい。
「賞与が年3回支給されます。昨年度の実績だと、7月に給与1ヵ月分、12月も1ヵ月分、2月の決算賞与は2ヵ月分だから、トータルでいえば100万円前後になりますね」
―社員の取り分は他にも?
「ウチには“社内預金”制度があります。今年度の金利は15%。例えば、1千万円預けていたら、150万円、2千万円なら300万円の金利が毎年2月に口座に振り込まれます。現在、社内預金を利用している社員の割合は9割ほど。街中の銀行に預けるより金利がいいからみんな預けてくれます」
―社内預金は金利が良い分、リスクはないのでしょうか…。
「預金を原資に新規出店などの設備投資を行なうので、業績が極端に落ちれば金利は下がり、元本割れのリスクも出てくる。実際、創業から20年間は10%をキープしていたけど、リーマンショック後、メガネの単価がどんどん落ちて収益が悪化し、8%から5%…最終的には2%まで下がりました。2%が過去最低値ですが、それでもまぁ銀行の金利よりはいい。その後、業績が回復したのでその分を従業員に還元しようと、一昨年に金利を5%に戻し、去年は10%、今年は15%に引き上げました」
―この制度を創業時から導入しているという、そのワケは?
「従業員全員に経営者の目線を持ってほしかったからです。業績が落ちれば取り分が減る。そのリスクを“あなたたち社員も背負ってください、会社にオンブに抱っこではダメですよ”ということ。でも、頑張って業績が上がれば取り分は増えます」
経営の責任が現場の社員にも分散されている分、同社では“月給プラスα”の部分が一般企業より高めに設定されているのだ。
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(取材・文/興山英雄)