「愛本店」の再興を手がけた、業界最大手「グループダンディ」を経営する株式会社ジーディーのCOO・巻田隆之氏。店を成長させるには従業員のさらなる意識改革が必要だと語る 「愛本店」の再興を手がけた、業界最大手「グループダンディ」を経営する株式会社ジーディーのCOO・巻田隆之氏。店を成長させるには従業員のさらなる意識改革が必要だと語る

絶対的存在だったカリスマ経営者の喪失、それに伴うお家騒動…窮地に立っていた老舗ホストクラブ「愛本店」を救ったのは、業界最大手「グループダンディ」との提携による改革だった。

前編記事では、同グループを経営する株式会社ジーディーのCOO・巻田隆之氏が、トップダウンだった愛本店の経営をボトムアップ型に切り替えることでホストたちの意識改革を図った、と改革の第一歩を語った。

そして、さらなる挑戦──現代にマッチした新たな試みとは?

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グループダンディとの提携により“改革”が始まった愛本店では、3年前のリニューアルを機に、従来にない様々な取り組みを行なっている。

愛本店が他のホストクラブと決定的に違う特徴のひとつが客層だ。歴史の長さゆえ、長年、足繁く通う客も少なくなく、20代から上は80代後半までと驚くべき幅の広さなのである。

そこで70年代~80年代にディスコで遊んでいた世代をターゲットに、店舗を1日限りのディスコとして営業。バブル時代を経験している世代にも店に足を運んでもらうのが狙いだ。

「他にもシニア層向けの旅行会社と提携したバスツアーを組んだり、せっかくのダンスホールを活かすためにマグロの解体ショーとDJイベントを融合させた『マグロハウス』といったイベントを実施しています。

こうした企画はこれまでホストクラブには縁がなかったけれど、一度でいいから足を運んでみたいと思っている新たな客層にアプローチできる。裾野を広げても、我々のビジネススタイル上、客単価を下げることはできませんが、イベントきっかけのリピーターは5~10%の確率で獲得しています」(巻田氏)

イベントの多くは店の休業日を使って開催されるが、これを営業チャンスだと積極的に出勤する従業員は少なくない。経営層と従業員の間の距離が縮まったからこそ展開できるPR戦略であることは間違いないだろう。

大きな経営の混乱を経て、新たな風を吹かせることで着実に改革の道を歩んでいる愛本店。しかし巻田氏は、この地からホストとしての成功者を育て上げ、店を成長させるには従業員のさらなる意識改革が必要だと語る。

「ホストは皆、店と雇用関係にあるわけではない個人事業主ですから、営業の結果が自身の給与に直結することになります。その中で結果を出すホストは、この業界で何がなんでも一攫千金を得て、それを種に自分で何かビジネスを始めたり、夢を叶えたいという明確な目標設定のある人間です。

そうした人間には強い信念がありますから、お客様も惹かれてしまう。ホストは顔だ、と言う人はいるかもしれませんが、決してそうではないんです」

とはいえ、この職業へのハードルが下がっているからこそ、「なんとなくホストを始める」者も少なくないという。目標や未来のキャリアプランのない人間は総じてモチベーションが低いというのは、どんな業界にも共通して言えることだ。

『ただ金儲けがしたいから』では必ず身を持ち崩す

 巻田氏のグループダンディが開催する「ホストの学校」。引退後のセカンドキャリアに必要なビジネススキルをレクチャーするが、ホストだけでなく一般企業からの参加者もいるという 巻田氏のグループダンディが開催する「ホストの学校」。引退後のセカンドキャリアに必要なビジネススキルをレクチャーするが、ホストだけでなく一般企業からの参加者もいるという

「確かに、ホストとして働くことの敷居が低くなっているがゆえに安易な気持ちで始める人は少なくありません。しかし、若さを売りにできるのは一瞬のことであるからこそ、後先のことを考えず『ただ金儲けがしたいから』という気持ちで始めては必ず身を持ち崩します。そういうホストをひとりでも減らしたいという思いがあるんです」

そこで、従業員らが掲げる目標をより現実的なものとしてイメージさせるため、「ホストの学校」と題したワークショップも開いている。ホストとして成功するメソッドではなく、引退後のセカンドキャリアに必要なビジネススキルをレクチャー、お金に関する教育を初め、組織管理、心理学をベースにした接客術などを教え込むのだ。一般企業からの参加もあり、また女性からも受講希望の声が多いことから、3月には女性向け講習も開催予定だという。

業界最大手グループを率いる実業家である巻田氏自身、波乱万丈な人生を歩んできた。演劇の道を志し栃木から上京したが、自身が手がける劇団の運営だけでは生活が成り立たず20歳でホストの道へ。その時に現在のグループダンディの会長、高見翔氏と出会う。

「働いていた店は6人ほどの小さな店舗でした。早い時間はフィリピンの女性の風俗店、2部からホストクラブとして営業していて、一緒に働く仲間との店づくりの過程はすごく楽しかったんです。どんどん店が大きくなるとお客様も増えました。

僕はなぜか男性のお客様に受けがよかったのですが、中にはヤクザの方もいらっしゃって『他店へのイヤがらせをしてこい』だとか、ちょっとここでは言えないような話に巻き込まれたりして命を狙われたりと、この業界にいられなくなってしまって、夜の仕事から一度離れたんです」

その後、宝石会社やグルメサイトの営業を経て、高見氏に再会する。当時のグループダンディの新しい試みとして、ホストクラブではないがイケメンが女性をもてなす「ギャルソンカフェ」の経営などに取り組んだことで、ホスト業界に経営側として携わるようになった。

多くのホストを見てきた巻田氏だが、大金を手にしたことで身を持ち崩す同業者たちの姿も多く目撃してきた。しかし、「ホストにはコミュニケーション能力はもちろん、ネゴシエーション、プレゼンテーションに関しても、一般企業に務める人間以上の能力値がある」と力説する。

単に女性を喜ばせるテクニックだけでなく、それを昇華させれば、確実にビジネスの成功者となるだけのポテンシャルを秘めているというわけだ。実際、巻田氏も宝石会社時代には全国一の営業成績を挙げた実績があるという。

「僕のミッションは、『ホストの学校』などを通して、いかに彼らの中からホストとしてではなく、ビジネスとしての成功者を生み出すかだと思っています。そうしたホストが生まれれば、彼らを目指して志の高い人間が店に集まりますし、必然的に従業員の質は上がります。

そして、質の高いホストには良いお客様がついてくださる。その循環を作り出すことが、愛本店やグループ店の成長にも繋がるはずだと信じています」

取材を終えた夕方6時。記者と入れ替わるようにスーツを身にまとったホストと思しき男性たちが次々とネオン街へと消えていった。彼らの中から次の時代をリードする企業経営者が生まれるのかもしれない。

(取材・文・撮影/田代くるみ〈Qurumu〉)