『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、中国でのドルチェ&ガッバーナ炎上騒動について語る。

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イタリアの高級ブランド、ドルチェ&ガッバーナ(D&G)がSNSに投稿したPR動画が、中国国内で「中国人に対する差別だ」と大炎上、不買運動に発展しています。

たった数本のショートムービーのために、D&Gは全世界における売り上げの3、4割を占めるといわれる中国市場から見放されることになりそうです。

そもそも同社のふたりのデザイナー、ドメニコ・ドルチェとステファノ・ガッバーナは"炎上の常連"です。2015年にはあるインタビューで、(自分たちのような)同性愛者が子供を持つことや、体外受精について痛烈に批判。

これを受け、男性パートナーとの間にふたりの息子を持つ歌手のエルトン・ジョンや、同じく同性愛者で子を持つ歌手のリッキー・マーティンらが不買運動を呼びかけました。

また、ファッション業界でも多様性が浸透し、体形や容貌に"寛容"になりつつあるなか、D&Gのふたりは「ブスはブス」「デブはデブ」とはっきり言うスタンスを貫きます。こうしたエッジーな言動が、欧米のD&Gファンに「刺さっていた」のも事実です。

今回の動画で批判を浴びたのは、アジア系の女性モデルが箸を使ってピザを食べようとするが、うまくいかない......といった箇所でした。

いうなれば、欧州に古くからある東洋に対する偏見のテンプレートを「あえておしゃれに使った」わけで、このセンスを理解できる人だけが買ってくれればいい、中国のD&Gファンにも通じるはずだ――そんなつもりだったのでしょう。

その結果、セレブから一般人に至るまで、中国のあらゆる層から石を投げつけられたことに関しては「中国市場をまったく理解していなかった」というしかありません。

注目すべきは、「D&Gたたき」が広がった圧倒的な速度です。D&Gの顧客である中国の新興富裕層は、Eコマースで口コミに敏感に反応して買い物をする。だからこそ近年、ハイブランドはお金を払ってでもインフルエンサーをランウェイの横に座らせ、売り上げを伸ばしてきたわけですが、今回はインフルエンサーたちもD&Gたたきに回り、一気に波が広がったのです。

想像するに、著名人にしろ、インフルエンサーにしろ、早くD&Gたたきに参加しなければむしろ"裏切り者"扱いされかねない状態だったのでしょう。

もうひとつ興味深いのは、中国の"愛国系ラッパー"たちがD&Gをディスる曲を作ってネット上に公開し、瞬く間に拡散されたこと。最近、中国当局はヒップホップを「反体制や退廃を促す危険な音楽だ」として厳しく規制し、ジャンル全体が落ち込んでいました。

そこに現れたD&G騒動は、まさに失地回復の大チャンスだったのでしょう。皮肉にも、D&Gは中国市場を失う代わりに、中国のヒップホップを救ったのかもしれません(国威発揚を煽[あお]るリリックで大衆の共感を得る"愛国ラップ"がヒップホップ精神として正しいかどうかは置いておくとして)。

ささいなことで炎上し、不買運動が起きる中国市場。今や、グローバル資本の頂点に中国の国民感情があるといっていい状況です。

各国のグローバル企業やブランドは今後も細心の注意を払い、時には"媚中"も辞さぬ姿勢で、ビジネスを展開していくしかないのかもしれません。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)などレギュラー多数。2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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