『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、日本メーカー製の"名機"と呼ばれるシンセサイザーの現状から見える日本企業の未来について語る。

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ダンスミュージック界で名機といわれている「ローランドTB-303」というシンセサイザーがあります。ただ、1981年の発売当初は、ポンコツ扱いを受けて人気も上がらず、数年で生産が中止されています。

実際、同機は米モーグ社のシンセを"模倣"し、特許に引っかからないよう一部機能を間引いて完成させた廉価版のような製品でした。そのため肝心の音は安定性に欠け、操作性もイマイチ......というのが当時の評価。

製造中止になる前は、アメリカの楽器店のワゴンセールでしばしば投げ売りされており、それほどお金のないストリートで活躍するDJたちがそれを買っていました。

面白いのはここからです。彼らはその"おもちゃ"でいろいろと説明書外の実験を繰り返すうち、不完全な楽器ゆえの「予期せぬ妙な音」が出せることを発見。ほかにはないとがったサウンドを各自でつくるようになっていきます。

こうしてメインストリームではなく、倉庫で開かれるアングラなパーティでTB-303の価値が見いだされ、同機を駆使した「アシッドハウス」という新ジャンルまで誕生したわけです。

それ以降、テクノ、レイブをはじめとするダンスミュージックシーンは大西洋を越えて英国にも広がり、TB-303で新しい音楽をつくることがカルチャーとなっていきました。

同機は発売から40年たつ今も絶大な人気を誇り、クローン機、改造機も多数出回るなか、"本物"といわれるオリジナル機の中古市場価格は高騰。以前は5万円程度で売られたものが、今では状態が良ければ30万~40万円の値がついています。

こうしたカルチャーに対し、ローランド社の対応は残念ながら、常に後手後手に回っていたように思います。当初はストリートで盛り上がり続けたTB-303リバイバルの波に乗ろうとせず、おそらく問い合わせが殺到するなかでサポートを打ち切ったり、ずっと後になってオリジナル機の不完全性を"改善"した「普通のマシン」を発表したり。

もちろん新製品は扱いやすくグレードアップされていますが、コアなユーザーが望むのはそこではない。結局、シーンにおいて後発機はTB-303のようには愛されていません。

僕はここにマスマーケティングの限界を見てしまいます。同社に限らず多くの日本企業に当てはまることだと思いますが、欠点を潰(つぶ)すことを優先し、誰もがそこそこ満足する平均点を取りにいけば、すべては汎用性の高い、どこにでもある製品やサービスに収束してしまう。

僕はマーケティングのプロではないので、いち消費者、いちミュージシャンとしての直感的・経験的な物言いになりますが、日本企業のこの路線の先に未来があるようには思えません。

それよりも、「○○はこうあるべき」「××はこうであってはならない」といった思い込みを捨て、より謙虚にあるがままを見つめてやるべきことをやれば、まだまだ活路はあちこちに開けるはず。

それによって恥をかいたり、多少の損失があったりしても、長い目で見ればその投資にはリターンがあるでしょう。企業にせよ個人にせよ、自らを"外から見る目"を育てることがこれからの時代は重要だと思います。ちなみに僕自身も、TB-303の実機を現在も使い続けています。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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