人気漫画家・いがらしみきお(左)☓異才監督・松尾スズキのスペシャル対談!

『ぼのぼの』ほかで知られる人気漫画家のいがらしみきお氏のファンタジー原作を、独特の演出と笑いで圧倒的支持を得る異才・松尾スズキ氏が監督し映画化!

ジヌってなんのこと? 東北の訛(なま)りで“銭”がそう聞こえるってワケで、つまりお金のことですね。で、それなしに生きていこうと決めた若い男がなぜか田舎暮らしを始めて、村の変な人々と大騒動…って作品。

4月4日から絶賛公開中の映画『ジヌよさらば~かむろば村へ~』について、異色のふたりが語り尽くした後編!(前編 ⇒ http://wpb.shueisha.co.jp/2015/04/10/46338/

■人生を変えてくれ、とまで言ってません

―難しいキャラであり、風変わりな登場人物たちを役者陣がそれぞれハマり役でイイ味出してますよね。

松尾 やっぱりこのキャスティングで撮れた意味合いは大きいんですよ。いろんなタイミングが合って、こんな豪華な、僕の大好きな俳優ばかりそろうのはなかなかない。

いがらし 青葉ちゃん役の二階堂ふみさん、ほんとカワイくてねぇ。撮影中に挨拶(あいさつ)してもらってクラッときてしまいましたよ(笑)。もう一回お話ししたかったけど、松田(龍平)くんと仲良くしてて入り込めなかったなぁ……。村長の嫁さんで色っぽい松たか子さんも見られましたしね。

松尾 (苦笑)。松田くんなんかは、そもそも表情豊かなタイプじゃないし、普段あんまり動いたりしないので。その彼をよろけさせたり変顔を連発させてみたり、それだけで笑いになるのは意識して考えましたね。

―大人計画の役者は、特に松尾さんの勝手知ったるというか。動きやテンポ含めイメージがわいたのでは?

松尾 阿部との意思の疎通が簡単であるってことはやっぱりスゴく重要なことで。彼のキャラがあって現場でいきなり思いついてやらせたり。ほかの俳優だと伝わらないことでも彼らならってのはありますよ。冒頭のシーンでも、とりあえず何が始まるんだ!?って思わせたくて。ヤクザ役を荒川(良々)がやってるから面白い、とかですね。

笑えるものがないと不安になってくる

いがらし あのオープニングは原作にない、それこそお芝居的だなと思いましたね。映画的というのでもなく、ああいう無駄なディテールが最初から出てくる部分が面白い。私にはないセンスです。

松尾 とりあえず最初に、これは笑っていい映画なんだよっていう提示をしたかったんですよ。だって、お金恐怖症の主人公って設定がコメディなんですから。

いがらし それは私もね、物を作るに当たって、どこかに笑えるものがないとどんどん不安になってくるんです。まじめにとらえられて分析されるとマズいんじゃないかとか。

ですから、まず笑ってもらってね。もちろん、“なかぬっさん”が言う「最後には必ずなんとかなる」とかメッセージのような言葉も意味があるんですけど。辛気(しんき)くさいテーマみたいにとらえられるんじゃなく、私はエンターテインメントだと思ってるんで。

―確かに「人間は何かをせずにはいられない生き物だ」とか哲学的なメッセージのような言葉も随所にありますが難しくとらなくていいと?

松尾 うーん、まぁ、西田(敏行)さんの“なかぬっさん”がしゃべると言葉がどうしても意味深なことは多いんですよね。それは神様っていうあのキャラクターにミステリアスな要素を加えるためには重要であって。一番ファンタジーを体現できるところを押さえておきたかったんですけど。

テーマ的なものより、僕はいろんな俳優が普段見たことのない演技をやってる、濃いメンツの演技合戦みたいなのをドタバタコメディ的に見てもらえればって感じですか。

いがらし メッセージ的なものは「あ、なるほどね」くらいに思ってもらえれば。それで人生変えてくれとか、そんなことまでは言ってません。

二階堂さんのパンチラも

■彼女のパンチラとか娯楽映画ですから

松尾 ところで、実はひとつ聞きたかったのが、なんでタケは主人公なのに漫画であんなに不細工なんですか?

いがらし それですよ、一番問題なのは(笑)。担当編集者には二枚目にしてくれって言われて、最初のカットはかろうじてそうなんだけどね。すぐに丸坊主になっちゃってから回を追うごとにマズい感じになっちゃって……。

松尾 あんな顔はなかなか探せないですよ(苦笑)。

いがらし でも、一番最初にこの漫画を褒めてくれたのが実は役者の麿赤兒(まろ・あかじ)さんなんですけどね。「二枚目がひとりも出てこない、みんな面白い顔をしているのがいい」と。おなかの中でなんか考えてるなぁって顔のやつばかりだ、と言ってくれたんですよ。

―まさに腹にイチモツな人間を描くのは、おふたりともお手のものですよね(笑)。

松尾 いい人は本当に出てこない、はた迷惑な人だけ(苦笑)。でもそれが面白いんですよね。やっぱり芸術ではなく娯楽映画を撮ってるんで。東北のすごく美しい山とか畑とかそういう風景の中でのごちゃごちゃした人間関係を面白く感じてほしいですね。

いがらし 二階堂さんのパンチラも見れる……あ、こういうのはよくないか(苦笑)。

―いえ、いいと思います!

(撮影/五十嵐和博)

松尾スズキ1962年生まれ、福岡県出身。88年に「大人計画」を旗揚げ。劇作家、演出家、俳優、コラムニスト、エッセイスト、小説家、映画監督、脚本家などマルチな顔を持つクリエイター

いがらしみきお1955年生まれ、宮城県出身。79年に漫画家デビュー。『ネ暗トピア』『さばおり劇場』など過激なギャグで支持を得て『ぼのぼの』が大ベストセラーに。ほかに『Sink』『Ⅰ【アイ】』

■『ジヌよさらば~かむろば村へ~』病院も学校も警察もない、乱暴だが世話好きな村長や自称“神様”ら妙な人々だけの過疎の村に都会から“お金恐怖症”の若者が!?(4月4日より新宿ピカデリーほか全国ロードショー)→原作『かむろば村へ』(小学館)も新装刊発売中(c)2015 いがらしみきお・小学館/『ジヌよさらば~かむろば村へ~』製作委員会