一日警察署長を拝命したネイガーと“生みの親”海老名さん

日本全国に存在する地域オリジナルのローカルヒーロー。ゆるキャラと共に地方活性、地域おこしの旗手として、その活動は各地で独自に展開されている。

そのご当地ヒーローの草分けとも言われているのが「超神ネイガー」。2005年に生まれ、言葉から武器、コスチュームまでローカルな要素を目一杯に盛り込みつつも、あまりの完成度の高さから全国でも話題となった、秋田県発のご当地ヒーローだ。

今年で生誕10周年を迎えたということで、ネイガー“生みの親” 海老名保さんに誕生秘話を聞くべく、現地・秋田へと飛んだインタビューの後編!(前編記事→「超神ネイガー、10年間の光と影」)

■“アニソンの帝王”が「ご当地ヒーローではネイガー以外、歌わない」海老名さんが、“ネイガーのヒットに欠かせない恩人”と熱く語るのが水木一郎さんの存在だ。

特撮漬けの少年時代を送った彼にとって、70年代に『仮面ライダー(スカイライダー)』、『タイガーマスクⅡ世』の主題歌を歌っていた水木さんは文字通り、雲の上の存在。「秋田弁でネイガーの主題歌を歌ってくれたら…」と日ごろから公言していたところ、間に立つ人の尽力もあり、なんと実現してしまったのだ。

レコーディングに臨む前、海老名さんのネイガーに懸ける思いを受けて、水木さんは「ローカルヒーローでは、ネイガー以外の歌は歌わない」と応えてくれた。70年代の特撮ヒーローへの愛と、秋田への地元愛が結実した超神ネイガーには、本家本元の仮面ライダーの主題歌を歌う“大御所”にそこまで言わせるだけの魂が宿っていたということか。

水木さんが歌うCD「豪石! 超神ネイガー ~見だが おめだぢ~」は2006年に発売されてから約1年間で販売枚数1万枚を突破。県内ではなんと、同年にメジャーデビューを果たした男性アイドルグループKAT-TUNのデビューシングル「Real Face」を抑えて年間販売枚数トップを記録している!

テーマソングの他にも、ネイガーショーがこれだけ人気になった要因として欠かせないのがギャランティーだ。通常、大手メジャーヒーローのショーが1ステージ60万円~100万円が相場なのに対し、ネイガーの出演料は1ステージ10万円+交通費と格段に安く設定されている。

ただ、やみくもにステージ料を低くしたわけではない。超神ネイガーはあくまでも身近な存在にしておきたかったのだという。大型ショッピングセンターではもちろん、どんな小さな村のお祭りでも気軽に呼ぶことができ、「おらが村にも本物のヒーローが来てくれた」と喜んでもらうことが目的だった。

脳挫傷よりキツかった経験

写真中央は東北合神ミライガー。左側が虎、右側が龍をモチーフに造形した海外展開用ワールドミライガー(海老名氏提供)

この10年間、軌道に乗ってからは順調に進んだかに見えたネイガープロジェクトだが、海老名さんの生き方は、時に周囲と軋轢(あつれき)を招くこともあったという。

「どんな組織でも対立や分裂は付き物だと思いますが、(自分が以前経験した)『脳挫傷よりキツイ』と思うぐらい悩んだ時期もありました。メディアで取り上げられた時も、ネイガーの象徴として『海老名保』ひとりが前面に出ることが多かったんです。

このことでメンバー内で反発や嫉妬を招き、一斉に造反されかけたこともあります。実際にメンバーの大半は立ち上げ当初と入れ替わっています。自分の性格上、未知の世界に挑み続ける行動が保守的な人には反感を買うのでしょうけどね」

度重なる挫折にもめげず、常に挑戦し続けるその生き方は、危機に直面するたびに蘇る特撮ヒーローの姿と重なる。海老名さんにとって、超神ネイガーはどのような存在だったのだろうか。

「僕は若い頃からヒーローの世界を目指してダメだった人間です。そんな自分が舞台に出ると、小さい子供たちが『ネイガーがんばれ!』『ネイガー負けるな!』って声を張り上げて、本気で応援してくれました。ネイガーを始めるまで、ただの“ヒーローオタクなジム経営者”だった僕が今、東北にとどまらず、世界にまで発信したい!とまで思えるようになったのは、彼らの声援が力を与えてくれたおかげです」

世界にまで発信したい…? 実は海老名さんは2013年にネイガーの主役を若手に譲り渡している。そして現在、新たな挑戦へと一歩踏み出しているのだ。

「『ワールドミライガー』という東北発信の新しいヒーローを誕生させ、活動を始めています。こちらはバングラディッシュ、ラオス、バンコクなど東南アジアでの展開を目的に、その収益で現地に学校建設を目指す、という壮大なプロジェクトです。

ミライガーのミライは“子供達の未来”を表しています。いい年のおっさんが何を言うんだと思われるかもしれませんが、僕の最終目的は“世界平和”なんですよ。

とにかく今は、新しいヒーローを世に出すのが楽しくてしょうがない。10代よりも青春しているかもしれません」

『タイガーマスク』の主人公、伊達直人の名前が今なお生き続けているように、ヒーローを通じて子供達に勇気を伝えていきたいと語る海老名さん。どんな艱難辛苦(かんなんしんく)にも背を向けず、常に一歩でも前に進み続けて来た彼の生き様はヒーローそのものではないだろうかーー。

(取材/文 山口幸映)

■海老名保(えびな・たもつ)高校卒業と同時に前田日明率いるプロレス団体・新生UWFに入門。退団後はスポーツジム経営を経て、2005年、故郷秋田でネイガープロジェクトを主宰し『超神ネイガー』を世に送り出した。著書に『奇跡のご当地ヒーロー「超神ネイガー」を作った男~「無名の男」はいかにして「地域ブランド」を生み出したのか~』(WAVE出版、2009年刊)がある。沖縄のローカルヒーロー『琉神マブヤー』デザイン、造形や株式会社ブシロード制作の特撮TVドラマ『ファイヤーレオン』の総合演出を務めた他、2014年からはヒーロー造形ノウハウを公開する会員制サイト「変身部隊X」も展開中。株式会社正義の味方及び、スポーツジムである有限会社F2-ZONE(エフツーゾーン)を経営。

■超神ネイガー(ちょうじん ねいがー)“戦う秋田名物”“地産地消ヒーロー”というキャッチフレーズの通り、秋田県を代表するキャラクターで、基本的に秋田県内でのみショーを行う。地域に大きく貢献し、2007年には NHK東北ふるさと賞、2008年には さきがけ創刊記念賞を受賞。2007年よりABS秋田放送にて『LAWSONプレゼンツ 超神ネイガーVSホジナシ怪人?海を、山を、秋田を守れ!?』放映開始。誕生以来ずっと海老名さんが演じてきた主役のネイガー役は2013年より後進に交代している。