映像から挙動まで画期的にリアルになった『グランツーリスモ』の新作『グランツーリスモSPORT』。
それだけではない。FIA(国際自動車連盟)と組んで世界初の「デジタルライセンス」を発行するというのだ。
そこで、今年まで8年連続でニュルブルクリンク24時間レースを走っているプロデューサーの山内一典(やまうち・かずのり)氏をレース会場で直撃。
前編の『最新作で勝つと本物の公式ライセンスがもらえる!』 に続き、山内氏がニュルを走る理由、レーサーもハマるGTの秘密を聞いた。
■なぜ山内一典はニュルを走るのか
―それにしても、よく8年もニュル走りますね。一流レーサーが「何回走っても怖い」って話すところですよ。
山内 今年は長年の夢が叶(かな)った面もありましたね。
―というと?
山内 いつか一流のマシンでニュルを、それも最高の状態で走りたいって思っていたんです。それがBMWからのお誘いで見事叶ってしまった。
―ニュルをBMWで走った率直な感想は?
山内 去年まではひたすら修業って感じでしたね。乗る前は緊張しまくるし、怖いし、あらゆることがつらく思えて。実際、レースは命をかけてますから……でも今年ようやく「なんで俺はこんなつらいことやってるんだろう?」って問いが浮かんできて。
―その心は?
山内 要するに僕は困りたかったんです。自分が困った状態になるのが好きなんです。
―えっと、マゾですか?
山内 いや、ちょっと違う。人間なんでもそうだけど、最初は修業じゃないですか? 筋トレでも英会話でも何を始めても苦しいもんです。でもね、やり続けると楽しめるようになってくるんです。その最高峰がニュルなんだなと。
コースをいかに忠実に再現できるか
―ニュルは、山内さんを最高に困らせてくれる場所?
山内 そう。相変わらず怖いは怖い。天気は変わるわ、路面は変わるわ、雪や雹(ひょう)まで降ってくる。クラッシュだって起きる。けど、そもそも僕は困りたいからやってる。完全にアンダーコントロールならニュルに来ません。
―なるほど。で、今回もしっかり困れましたか?
山内 困れました、困れました。すっごい困れて……楽しかった(笑)。もうホントどうにもならなくてヤバいよね。それと(BMW M6)GT3でニュルを走るって最高!
■レーサーもハマるGTの秘密
―初めてニュルの北コースの存在を知ったのは?
山内 80年代の後半ぐらい。雑誌で「聖地」として紹介されていて憧れの場所ではありました。
―いつかは自分たちのゲームにニュルを入れたいと狙ってた?
山内 そろそろゲームに入れられるかも、と思って、01年に初めて取材に行ってみて。で、04年の『グランツーリスモ4』(以下、GT4)に初めて入れることができた。とにかく、このニュルというスゴいコースをいかに忠実に再現できるかを考えて作りました。
―そうすれば、おのずとニュルの面白さも再現できるという自信があった?
山内 そのとおり。で、04年のGT4発売イベントをニュルでやることになって、初めて北コースを走って。
―えっ? それが初めて。
山内 ゲーム上じゃ1000ラップぐらい走ってましたから、初めてアウディTTでニュルを走ってみたら、ほかのクルマが止まって見えるくらいだった記憶がありますね。
―それ、川上哲治級の逸話ですよ。ボールが止まって見えた的なアレですよね?
山内 うん。そのとき、「ああ、俺、レースに出たら勝てるかもしれない」と思ったんですよ。当時、とにかくみんなヒドいラインでコースを走っていたからなんですけどね(笑)。
F1ドライバーもGTで遊んでます
―くしくも制作者自身が、GT最大の優位性を、ニュルを走ることで自覚したと?
山内 そういうことです。だから、いきなり08年に出場して優勝できた。けど、今や僕にアドバンテージは何もないのが実情ですよ。
―レーサーがみんなGTやり込んでますからね(笑)。
山内 そう(笑)。ニュルのトップクラスのドライバーはもちろん、F1ドライバーもGTで遊んでますよ。
―S・ヴェッテル、古くはJ・ヴィルヌーヴも、GT大好きらしいですね。
山内 ホントね、たま~に「誰のおかげで速く走れるようになったと思ってんだよ」みたいな気持ちになる(笑)。
―GTをやるとニュルの何が学べるんですかね?
山内 だって昔は、「ダメだよ、そこ行っちゃ!」って感じのラインを走っていたんですよ、みんな。それが今や完璧レコードラインでちゃんと走っていますからね。
―最後に! 一体、山内さんはどこに向かっているんですか?
山内 僕は、ただ単純に困りたいだけですよ(苦笑)。
●山内一典(やまうち・かずのり) 1967年8月5日生まれ、千葉県出身。ポリフォニー・デジタル代表取締役プレジデント。ドライビングシミュレーター『グランツーリスモ』プロデューサー。趣味はクルマ。サーキットも攻めまくる。愛車はGT-R、ランエボ、フォードGTはじめ、自ら世界のスポーツカーを所有している!
(取材・文/小沢コージ)