全国から集ったスゴ腕ラッパーたちが、過激な“口ゲンカ”バトルを繰り広げる。ラップってこんなに面白いのか―。
昨年9月に放送開始し、今やカルト的な人気を誇るフリースタイル(即興)MCバトル番組『フリースタイルダンジョン』(以下、『ダンジョン』)。その仕掛け人がZeebra(ジブラ)である。今やヒップホップの“福音者”となった彼の野心を聞く!
■「一度ゴールデンでやってみたいです」
―『ダンジョン』は、今までヒップホップを聴かなかった層の間でも相当話題になっていますね。ご自身で盛り上がりを実感することってありますか?
Zeebra(以下、Z) わかりやすいのは、ツイッターの反応ですね。最初は『フリースタイルダンジョン』っていう番組名がトレンド入りしてたんだけど、最近はラッパーの名前で入ることが多くなったんですよ。あとは、『ダンジョン』のメンバーが出るイベントが軒並みソールドアウトになってることかな。
ここ数年、クラブに人が並ぶっていうことはあまりなかったんですけど、こないだ俺と般若(はんにゃ)とR-指定(ともに“モンスター”として番組にレギュラー出演するラッパー)が一緒になったときは列ができてましたね。
―R-指定さんは、MCバトルの全国大会で3連覇した知る人ぞ知る存在でしたが、『ダンジョン』によって全国区の知名度を得ましたね。
Z うん。「やっぱ、結局テレビなんだな」って思いますよ。今はSNSもあるし、誰でも楽勝で情報を発信できるようになったんだけど、地上波の広がりはスゴい。しかも、民放レベルの制作費と演出で作ったものは、ネットに持っていっても強いです。今、地上波と並行して「AbemaTV」っていうネット放送局でも配信してるけど、ほかの番組とは格が違うもんね。これをタダで見れるっていうんだから、スゲー時代ですよ。
―ズバリ、番組に関しての今後の野心は?
Z そうだな。……ゴールデン、やってみたいですよね。特番で一回だけでもいいんで。これはそろそろ局に言ってみようかなって思ってます。
“甲子園”と“プロ野球”をテレビでやらないと
―あの過激なMCバトルがゴールデンで見られたらアツいですね。そもそも、この番組はどういう経緯で始まったんですか?
Z もともと、俺らが全国区のヒップホップブームをつくった2000年代の頭くらいは、中高生がラップを聴いてたんですよ。でも、シーンが成熟して、アーティストとともにリスナーも成長していった結果、00年代半ば頃にはその下の世代がぽっかり空いちゃったんですね。でも、それじゃダメなんです。ムーブメントっていうのは10代がつくるものなんで。
それで、BSスカパー!の『BAZOOKA!!!』っていう番組で、12年から「高校生RAP選手権」っていうのをやったら、そこで中高生にまた火がついた。その盛り上がりを見ながら思ったんですよ。「この子たち、高校を卒業したらどうなんのかな?」って。
俺はもともと日本で最初にフリースタイルの大会を始めた世代でもあるし、こうやってまた高校生をたきつけておいて、「あとは知らねぇ」なんて言うのは、あまりにも無責任すぎるじゃないですか。だから、高校生RAP選手権を卒業した子たちも活躍できるような場をつくろうと思って、企画書だけ書いてたんです。そのタイトルが「フリースタイルダンジョン」だった。
―企画書までZeebraさんが用意してたんですか?
Z そうですね。例えば「クリティカル」(5人の審査員の判定が全員一致した場合、「クリティカルヒット」となり、その時点でバトルが終了する)なんていうルールも、その企画書の中にありました。そしたら、藤田さん(晋[すすむ]・サイバーエージェント社長)から「ウチの一社提供の番組をテレ朝でやるから、ラップの番組やってみない?」と言ってもらって、これをやることになったんです。
―じゃあ、高校生RAP選手権の発展型なんですね。
Z 俺としては、ラップの“甲子園”と“プロ野球”をテレビでやらないといけないと思ってたんです。もちろん、高校生RAP選手権は甲子園で、『ダンジョン』はプロ野球。今、元高校生RAP選手権王者のT-PABLOWっていうのが『ダンジョン』に出てるけど、甲子園で優勝したヤツでも、プロの世界に入るとやっぱり苦戦する。でも、その戦いのなかで成長していく姿がアツいんだよね。強ければ現役高校生でもプロと戦える。それが『ダンジョン』なんですよ。
選挙も音楽もエンターテインメントじゃなきゃ
■天皇、皇后両陛下との感激の対面秘話!
―ラップは楽器を覚えなくても始められるし、同じ言語を話す者同士なら聴けばわかるので、かなり裾野が広い音楽なのかなと思います。
Z そうですね。世界的に見ると、日本はバンド大国で、まだまだラップが浸透してないけど、海外に行くとどこの国でももっとラップがはやってるんですよ。それは野球とサッカーにもたとえられるかもしれない。ボール一個でできるサッカーは世界中で行なわれてるけど、ボールだけじゃなくグローブも必要な野球って、アメリカや日本、韓国など、ごく一部の裕福な国でしかはやってないでしょ。
でも、日本も不況になってきて、金を使わずに遊べるものが必要になった。ヒップホップって、もともと“持たざる者の文化”だから、今の日本にマッチしたのかなって思いますね。
―日本人が年上に向かって「おまえ」と言ったり、相手の容姿・経歴を容赦なくディスるというのも新鮮です。
Z 確かにそうですね。でも、俺が思うのは、「これってディベート(討論)に近いんじゃないかな?」っていうことです。日本人は和を尊重して、行間を読ませるような言い方をするけど、世界と渡り合っていくためにはガツッと直接的に言わないとダメじゃないですか。
それに、アメリカの大統領選なんか見てても、言葉で聴衆を熱狂させるのってホントにエンターテインメントですよね。ああやって人を楽しませる力がないと、リーダーにはなれない。選挙も音楽も、エンターテインメントじゃなきゃ誰も動かせないんですよ。
―先日、18歳選挙権の周知キャンペーンとして、東京都がヒップホップイベントを主催したり、Zeebraさん自身も渋谷区の観光大使ナイトアンバサダーを務められていたりと、公的な活動が増えましたね。
Z 「やっと日本もこうなったか」という感じですね。25年前には、「ヒップホップなんて来年にはなくなる」と言われましたけど、アメリカでは90年代前半にもうラッパーがホワイトハウスに呼ばれてましたから。
それを考えると、「やっと認められたか」と思う。今まで、日本ではヒップホップの外側のイメージだけが先行して、中身が伝わってなかったんですよ。即興で韻を踏むっていうのはものすごく高度な言葉のゲームでしょ? 例えば……「プレイボーイ、今日も無礼講(ぶれいこう)」。
皇后陛下がラップをされた!
―「プレイボーイ」と「無礼講」で、4文字も韻を踏んでるんですね!
Z そうそう。ヒップホップって、アホが集まって「YO、YO」言ってるだけじゃないんですよ。それをやっと伝えることができたかな。
―ツイッターで拝見したんですが、先日、天皇、皇后両陛下とお会いしたそうですね。
Z はい。森山良子さんの主催するチャリティコンサートに出たときに、天皇、皇后両陛下がお見えになって、終演後にご挨拶(あいさつ)させていただいたんですよ。
―そこで、なんと、皇后陛下がラップをされていたという話を聞いたとか?
Z そうなんです。良子さんが俺のことを簡単に紹介してくれたんですけど、それを聞いた天皇陛下が「ラップというのは、あなたがやっていたものじゃないですか?」って皇后陛下にお聞きになって。そしたら、皇后陛下が「そうなんです。インドネシアとかポリネシアとか、国名を覚えるのが大変で、ラップにしたことがあるんですよ」っておっしゃったんですよ。
―まさかラップが皇后陛下のお役に立っていたなんて!
Z やっぱり皇室の方って、文化に対する理解がスゴくあるんですよね。もう俺、感動して、1日半くらい頭がボーッとしちゃいました(笑)。
●Zeebra(ジブラ) 1971年4月2日生まれ、東京都出身。93年に「キングギドラ」を結成。不可能を可能にするヒップホップアクティビスト。現在はレーベル「GRANDMASTER」の運営に携わりながら、「クラブとクラブカルチャーを守る会」会長、渋谷区観光大使ナイトアンバサダーなども務めている
(取材・文/西中賢治 撮影/下城英悟 スタイリング/小倉正裕 ヘア&メイク/木村美貴子 衣装協力/GUESS JAPAN I Love Ugly プラス・コンテンポラリー)