昨年8月から『週刊少年ジャンプ』誌上で連載が開始された異色のサスペンス作『約束のネバーランド』(原作:白井カイウ/作画:出水ぽすか)が今、話題だ。
昨年には「漫道コバヤシ漫画大賞2016期待の新連載賞」を受賞し、さらに「マンガ大賞2017」のノミネート13作品にも選ばれている。
物語の舞台は、とある町はずれの森の中に存在する孤児院“グレイス=フィールドハウス”。ここは優しい“ママ”こと淑女イザベラの保護のもと、12歳以下の孤児たち38人が慎(つつ)ましくも仲良く暮らす平和な施設…のはずだったが、そこで暮らす最年長12歳の少女・エマはある日、この施設の真の姿を知ってしまう…。
エマは仲間たちの命を守るべく、頼れる同い年の天才孤児・ノーマンと一緒に皆を引き連れ、密(ひそ)かに“脱獄”計画を実行しようとするが…。
読者の反響は「ジャンプ作品なのに全然ジャンプっぽくない!」「漫画なのに上質の海外ドラマを見ているようで、毎回続きが気になりすぎる!」等々、日本の漫画界を牽引する王道の『少年ジャンプ』というブランドの中にあって、そのカラーに縛られない自由な作風で独自の路線が支持されているのだ。
2月3日(金)には単行本第2巻が発売。そこで今回、作者である両先生に独占で初のロングインタビューを敢行。その立ち上げから担当する編集・杉田卓氏を交えた3人に、この異色作の誕生秘話からその作風の裏側にある創作への想いまで存分に語ってもらった!
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―おふたりともに本作が『週刊少年ジャンプ』でのデビュー作ということですが、原作の白井先生は完全にこれが漫画家としての連載デビュー作とか?
白井カイウ先生(以下、白井) はい、そういうことになります。
―そして作画の出水先生は以前、別の雑誌で連載をお持ちだったということですが。
出水ぽすか先生(以下、出水) ええ、他の出版社になってしまうんですが、小学館の『コロコロコミック』や『てれびくん』という雑誌でお仕事をさせていただいていました。
―それがどういう経緯で一緒にお仕事をされるようになったのか。作品が誕生した経緯について、まずお聞かせください。
出水 この作品のそもそもの始まりというのは、白井先生が今から3年ほど前に作られた持ち込みネームからなんですよね。
―えっ、この作品の原型が3年も前から存在していたんですか?
白井 はい。とはいえ、別にそれで賞を獲ったとかそういうことではなく、本当にただ持ち込んで(編集者に)見ていただいただけのネームなんですけどね。
―では、それ以前からそうして漫画家を目指して持ち込みを?
白井 いえ、それがまたそういうことでもなくて、たまたまと言いますか…。私は元々、大学を卒業後、一般企業に就職して会社員をやっていたんです。それもお話を作ったり、絵を描いたりという世界とは全く無縁の仕事でした。
―そこからどうして漫画家に転身を?
白井 今から思えば、たぶん形に残ることをしてみたくなったんだと思います。当時の仕事は好きで、やりがいもあったのですが、休みなく働いて、形には残らない仕事で。形に残らないことは悪いことではないのですが、その仕事を辞めた後に、次は何か形に残る仕事をしてみたいなと。
ダメだったら、やめる踏ん切りもつくかな…
―それで創作活動の世界へ?
白井 ええ、お話を作るということは、実際にやったことはなかったんですけど、ずっと興味や憧れはあったので。やるからにはちゃんと本腰入れてやろうと思いました。それで実際に漫画原稿の形になった作品をいくつか完成させて、あちこち応募して見てもらって。でもまぁ何ひとつ響きませんでしたね(笑)。見事に箸(はし)にも棒にも引っかからない。
「ああこりゃ自分、才能ないわ!」って諦めかけていました。でもやっぱりそのまま終わるのは悔しいので「これで最後だ!」くらいのつもりで作ったのが『約束のネバーランド』の元になったネームでした。でも、それがかなり長くなっちゃったんですよね。描いてるうちに300ページ超えちゃって…。
―いきなり300ページ以上!?
白井 もちろん今の本編とは全く違うところもたくさんあるんですけど、そこに当てはめて言うと、主人公たちが施設の秘密に気づいてそこから脱獄するまでくらいのストーリーは入れ込んでました。そうなると企画上、とても読切サイズではまとめられず。
―さすがに持ち込むにしては大作すぎますね…。
白井 ええ、しかもネームの状態でその分量でしたから、どうしようかと思って。でも削るのも難しかったですし、友達に見せたら「面白い、いっそ原作志望で持ち込んでみろ」と言ってもらえて、じゃあ、その通りネーム原作で持ち込んでみようかと。
そもそも、これが漫画として評価に値するものかどうか、それだけでもプロの編集さんに聞いてみたいと思ったんです。それでダメだったら、もう才能ないと思って、やめる踏ん切りもつくかなと。それを持ち込んだ先がまさに週刊少年ジャンプの編集部、見てくださったのが現在の担当編集者でもある杉田さんでした。
―それが今から約3年前、というところに繋(つな)がるわけですね。
白井 そういうことです。
―実際、300ページ以上も持ち込んでこられた側としては、どうでした杉田さん? そこまでの新人さんもあまりいないのでは…。
杉田 持ち込み希望の電話を受けて、もちろん時間は空けてたんですが、まさかそんな物量があるとは想像すらしてなかったので、次の別件の打ち合わせもその1時間後くらいに入れてたんですよ。それで初めて白井さんにお会いして、目の前に出されたのが300ページ(笑)。15話分くらいあるんですよ。ビックリしました。
まず頭から読んでみて、つまらなかったら途中でいったん読むのをやめて、そこまでで1回話をしようと思いました。でもこれが面白くて、なんと最後まで読めちゃったんですよね。それでようやく、これはすごい人が来たなと。
でも、当時の白井さんはまだ賞を獲ったこともなければ他誌での掲載歴があるわけでもなかったので、そこからデビューに持っていくのは編集部周りの説得も含めてかなりの準備が必要になります。とはいえ、面白いのは間違いなかったので、なんとかこの才能を世に出したいと思ったんです。
絵のプロフェッショナルと組んだほうが…
―ではまずその段階での判断として、作画は別の方にお任せするということに?
白井 そうですね。私は元々そのつもりでしたし、そこは杉田さんとも相談して、その方向で考えることにしました。
杉田 この作品の質を考えると、ファンタジーでありながらホラーやサスペンスの要素もあって、様々なタイプの絵を総合的に描ける人でないと、原作の本当の良さを100%引き出せないと感じました。そうなると、これは画力に関して発展途上の白井さんじゃなくて、それができる絵のプロフェッショナルの先生と組んだほうが絶対よくなると思ったのがひとつ。白井さんの本領はストーリーですから。
それにもうひとつ大きな懸念は、この緻密な原作を週刊ペースで作っていくのは絶対に大変だということですね。そのクオリティを維持するためにも原作と作画は分けたほうが得策だろうという判断です。
白井 それでいろいろな先生方を当たっていく中で、ようやく「この人!」という方に出会えたのが出水先生だったんです。
―そこでやっと出水先生の出番が!
出水 はい、そこでようやくです(笑)。だから白井先生と杉田さんが過ごされてきた約3年の準備期間の中でいうと、私が入ったのはかなり後になってからなんです。具体的には2016年に入ってから、この輪の中に参加させてもらうことになりました。
―ただ、おふたりが最初にコンビを組まれたのは本作が最初ではないんですよね?
白井 はい。「ジャンプ+」での『ポピィの願い』という読切作品が最初です。
―これが公開されたのが『約束のネバーランド』連載開始の約半年前。2016年の2月ですね。
出水 そうなんです。ちょうど他誌でやっていた連載が終わって、すぐのタイミングでお声がけいただいたんですよ。それで是非やりましょうという話になりました。
―ということは、最初は白井先生のほうからアプローチされた?
白井 はい。出水先生のイラストは以前から拝見していて、とてもいいなぁと思っていたんです。でも他でお仕事されている間にお声がけするわけにはいかなかったので、それが途切れたとおぼしき瞬間に(笑)。ダメ元覚悟でしたが、快くお引き受けいただけて。
出水 最初は、杉田さん経由でご連絡をいただきました。それで白井先生の原作を初めて拝読したんですけど、それが個人的に胸に刺さったといいますか、本当にめちゃくちゃ面白い…!と思ったんです。「これは是非やりたい!」とふたつ返事でお受けしまして、そこからですね。
―じゃあ、ともに第一印象から相思相愛だったんですね。
白井 ええ、でも最初は私の強烈な片想いでしたけどね。もうほとんどただのファンでしたよ(笑)。お会いする前から完全に絵に惚れ込んでしまって、ぶっちゃけこの読切だけでもいいから一度、出水先生と是非お仕事してみたい!…くらいにまで思ってたので。
―それは具体的にはどういうところに惚(ほ)れこんで?
白井 それを挙げ始めると止まりませんよ?(笑) まず人の絵が生き生きしてる。それに表情の表現力がとても豊かで、どんなお芝居も描ける。世界観もトータルで作れるし。何より子供の絵が可愛いんですよね、モブがモブのレベルじゃない!
ジャンプのセオリーから外れまくっても!
―本当に止まりませんね(笑)。
白井 他にもまだまだたくさんあります!(笑)。だから『ポピィの願い』の作画の話を受けていただけた時は、本当に嬉しかったですね。そもそもこの読切自体、この世界観をしっかり描いていただける人なら、引き続きお受けいただけるかどうかは別として『約束のネバーランド』もきっとお任せできるだろうという気持ちで作った原作でしたので。
それで実際に出水先生に描いていただいた原稿を見て、もう想像していた以上に素晴らしかったので。是非、連載もお願いできると嬉しいという話をさせていただきました。
出水 とても光栄なお話です。これだけ才能のある原作者の先生にそこまで言っていただけるなんて、こんなに嬉しいことはありません。
―その流れで『約束のネバーランド』の作画も担当されることになったんですね。
出水 はい。でも、それでまず連載の1~3話にあたる原作を読ませていただいて、ここでまた衝撃を受けました。読んで最初に思ったのが「あれ、全然ジャンプっぽくない!?」って(笑)。『ポピィの願い』でもそういう面はありましたけど、それに輪をかけてますますジャンプっぽさからはみ出たような原作だったので。
白井 それはもう…出水先生だけじゃなくて、それまでにお見せした、大抵の作家さんに言われましたね(笑)。
―確かに、少年漫画のセオリーから外れているところが多々ありますよね。そもそも女のコが主人公というのも珍しいと思いますが、これには何か意図が?
白井 いや、単に最初作った300ページのネームの段階からそうだっただけです。その時はジャンプに向けて作ろうとしていたわけでもなかったので。それで持ち込む際も特に変えず、そのまま持っていきました。もしツッコまれたら変えればいいやくらいのつもりで。結果、杉田さんからも特にお咎(とが)めなしだったので、そのままでいくことになりました。
杉田 一応、ツッコみましたけどね! 逆に結構、頑(かたく)なに抵抗にあった記憶も(笑)。でも別にそのままでも十分面白かったし、この絶妙なバランスを出来合いのセオリーを気にして崩すのは作品を殺しかねないという感覚はありました。
そもそも、この作品全体がジャンプのセオリーから外れまくっていて、それを狙って作っていましたし。別にいいかなと。それより他の作品にないことをやって、ここまで面白くできているんだから、そこで突き抜けて目立てる作品にしていこうと。
白井 そこを許容していただけたのはありがたかったですね。でもそのやり方で本当にちゃんとやっていけるのか試したくて。それで本誌での連載以前に「ジャンプ+」で読切を2作描かせてもらったんですが、それもあえて、読者の反応を見るために両方ともジャンプの王道を外すような作品にして。キャラクターは薄いんだけど、世界観や設定のギミックで見せるというおおよそジャンプらしくない作風で(笑)。
―『ポピィの願い』もその一環だったと。全てはその後の本誌連載への布石だったわけですね。
白井 はい。そこである程度の手応えを感じられたので、このままいってみようということで。いよいよ連載に踏み切ることになりました。
★後編⇒ジャンプらしくないと大反響! 『約束のネバーランド』著者が「“約束”という言葉の意味がわかるまで打ち切りにならないように(笑)」
■白井カイウ
原作担当。2015年、「少年ジャンプ+」読切『アシュリー=ゲートの行方』で原作者としてデビュー。2016年、「少年ジャンプ+」読切作『ポピィの願い』にて作画・出水先生と初のコンビ作品を発表。2作とも大きな反響を得て、同年8月から『約束のネバーランド』を週刊少年ジャンプにて連載中。
■出水ぽすか
作画担当。イラストコミュニケーションSNS「pixiv」にて人気イラストレーターとして活躍。コロコロコミック『魔王だゼッ!!オレカバトル』連載など漫画家としても活動。2016年「少年ジャンプ+」に読切作『ポピィの願い』でジャンプデビュー、同年8月から『約束のネバーランド』を週刊少年ジャンプにて連載中。
(取材・文/山下貴弘 (c)白井カイウ・出水ぽすか/集英社 (c)秋本治・アトリエびーだま/集英社【2巻表紙のみ】)