今年で誕生から100周年を迎えた日本のアニメ--。日本が世界に誇る一大コンテンツのメモリアルイヤーに、週プレNEWSでは旬のアニメ業界人たちへのインタビューを通して、その未来を探るシリーズ『101年目への扉』をお届けする。
第1回目は、声優で歌手の水瀬いのりさんが登場。現在、実写版が公開中のアニメ映画『心が叫びたがってるんだ。』(以下、『ここさけ』)の成瀬順役で第十回「声優アワード」主演女優賞に輝いたほか、昨年は『Re:ゼロから始める異世界生活』(以下、『リゼロ』)のレム役でもアニメファンから高い評価を集めた。
そんな人気実力ともに若手トップレベルといえる水瀬さんの演技に対する思い、そして意外なプライベートまでを前編に続き伺った!
■アフレコはキャストみんなで作り上げるもの
―2015年の『ここさけ』で様々な賞を受賞した翌年、『リゼロ』のレム役で再び当たり役を演じました。
水瀬 レムは反響が大きかったですね。
―異世界でタイムリープ(死に戻り)を繰り返しながら、悲劇の運命を塗り変えていく主人公のナツキ・スバルをサポートするレムは、普段は物腰柔らかいメイドでありながらも言葉は毒舌で、しかも感情的になると暴走してしまう複雑なキャラクターです。こういう役を演じる時は、事前にかなり演技プランを考えるんですか?
水瀬 あまり私は演技に関して事前に何かを組み立てていくタイプではないんです。アフレコ現場で出てきたもの勝負というか。デビューした頃は台本を読んで、自分なりの型を作ってから収録に臨んでいましたけど、そこから抜けられなくなってしまって。音響監督さんからの「もっとこうやってみて」という指示に対応できなくて悔しい思いをしました。
結局、アニメのアフレコはキャストとスタッフみんなで作り上げるものなんです。いくら自分が事前に考えて臨んでも、当日、他のキャストがどんなものを投げてくるかでお芝居はどんどん変わっていく。それをいろんな現場から学びました。
特に『リゼロ』は自分からこうしようって思ったことはなくて、スバル役の小林裕介さんとキャッチボールの感覚で芝居をぶつけ合いながら作っていきました。ただ、それができる現場っていうのは本当にすごい現場で。だから『リゼロ』はあんなに評価いただいたんだと思っています。
―キャストの息が合ったんですね。
水瀬 はい。『リゼロ』のキャストとは今でもみんなで遊びに行くんですよ。ファミリー感というか、みんなで苦しみを乗り越えたっていう一体感がありますね。
念願だったあの作品にも出演!
■キャリアの転機になった作品とは?
―14歳でのデビューから7年が経ちましたが、水瀬さんにとってキャリアの転機になったのは、どの作品ですか?
水瀬 声優活動としては『ご注文はうさぎですか?』のチノ役ですね。
―喫茶店「ラビットハウス」に集う人々の交流を描いた日常系のTVアニメで、水瀬さんが演じるチノは店主の娘という設定でした。なぜ、特に思い入れが?
水瀬 学生だった自分にチャンスを与えてくれた作品ということもありますし、今でも劇場版が公開されるくらい皆さんに愛されている作品で、ここから多くの方に水瀬いのりという声優を知ってもらえるようになったんです。
お芝居の成長という意味では、やっぱり『ここさけ』の順と『リゼロ』のレムですね。感情がひとつでないキャラクターに出会えたのは、私にとってすごく大きくて。同じキャラクターを演じているのに、全く違う声を出すってことを経験させてくれたんです。私を一歩前に進めてくれたふたりですね。
―この7月には、念願だったという「プリキュア」シリーズの新作『キラキラ☆プリキュアアラモード』への出演も果たしました(インタビュー収録は放送前)。
水瀬 あこがれのプリキュアに出演できるなんて、いまだに信じられなくて。実は、今までにも「プリキュア」のオーディションを受けたことはあるんです。ただ、それは受かるとは思っていなくて、ひと足先に次のシリーズの内容が知れてラッキーっていう気持ちで(笑)。
―シリーズのファンとして気になっていたと。
水瀬 はい。だから自分がプリキュア役に合格したって聞いた時、ものすごく疑っちゃって。何度もマネージャーさんに「それは最後のオーディションに残りましたってことじゃないですよね?」と確認しました。
―それだけトントン拍子だと、これからの目標というのは?
水瀬 本当にいろんなキャラクターに出会わせていただいて、歌もリリースさせていただいているので、次は自分の素の声を活かせる仕事をしてみたいですね。
―素の声というと、ナレーション?
水瀬 はい。キャラクターを演じていない声でも、皆さんに「いのりちゃんだ」ってわかってもらえるように、そういう仕事もしていきたいなって思っています。
オフは8時間かけて…
■趣味ってレベルじゃないオフの過ごし方
―日々忙しいと思うんですが、オフはどういうふうに過ごしていますか? よくインタビューでは「ディズニーランドが好き」と語っていますよね。
水瀬 そうですね。今もディズニーランドは大好きですけど、最近は歩くことが好きで、お気に入りのスニーカーを履いて、暇があれば友達とお散歩しています。
―それは公園を歩くとか?
水瀬 今は海沿いの工業地帯を見に行くのが好きで、お台場まで新宿くらいから歩いたりします。
―え!? かなり距離がありますよね?
水瀬 そうですね。8時間くらいかかります。
―それはもう歩くのが好きってレベルじゃないですよ。
水瀬 最初はグーグルマップを見ながら歩くんですけど、だんだんと自分の中で「要するに真っ直ぐってことだよね」という気持ちになってきて、ほとんど勘で歩いています。指示されるのが苦手なんですよね。友達と朝スタートして、お台場に着くのは19時くらい。それでご飯を食べて帰ります。
―そもそも、なんで歩こうと思ったんですか?
水瀬 渋谷や新宿みたいなゴチャゴチャした街が苦手で、お休みの日は郊外に行きたいって思っていたんです。でも電車移動だと自分の力じゃないし、地下鉄に入ったらずっと景色が一緒じゃないですか。なので、最初は単純に「よし歩こう」っていう軽い気持ちで歩き始めました。
でも、慣れるまではツラくて。最初は原宿から中野まで歩いたんですけど、ライブに招待されていたのに遅刻してしまいました(笑)。だから今は計画的に歩くようにしています。夜とか小道に入ると楽しくて、友達と一緒に歌ったり踊ったりしていますね。(笑)。
スイーツとか好きそうな声をしてるんですけど…
―ということは、インドア派ではない?
水瀬 そうですね。お休みがあったら外に出ちゃいます。落ち着きがないんですよ。ご飯も時短メシが好きで、あんまり長く待っていられないんです。
―どういうところによく行くんですか?
水瀬 なか卯とかやよい軒とか、あとはおそば屋さん。皆さんがよく行くようなお店に行っています。
―ディズニーランドが好きって聞くと、いかにも女のコが好きそうな店に行くのかなって思いますけど、実際はそういうところなんですね。
水瀬 そうなんですよ。キャラクターで好きになってくれた人には期待を裏切ってしまうことになるのが申し訳ないと思いつつ、実際の私はこういう人間なので、アニメの演技は別ものと考えてもらえれば…。マカロンが好きとか言えたらよかったんですけどね。
―確かに、見た目はそういうイメージです。
水瀬 私もスイーツとか好きそうな声をしているなって思います。でも全然違うんですよね。
―スイーツ女子でもないし、かといって、アウトドアが好きっていう感じでもない。
水瀬 衝動的な人間なんです。思い切りのよさはいいところであり、悪いところでもあると思っています。
―でも、そういう性格だったから、学生の時は決して人前に出るようなキャラじゃなかったのに、意を決して声優のオーディションを受けたわけですから、結果的にはプラスになっていますよ。
水瀬 出たがりな自分と、それを止める自分がいるっていうことなのかな。
―やっぱり『ここさけ』の順にそっくりですよ。
水瀬 本当にそうですね(笑)。
★特別編⇒歌手としてもブレイク中の声優・水瀬いのりが語る音楽への思い「私の表情まで目の前にいるように感じてほしい」
(取材・文/小山田裕哉 撮影/井上太郎)
■水瀬いのり(みなせ・いのり) 1995年生まれ、東京都出身。2010年にソニー・ミュージックアーティスツの「第1回アニストテレス」でグランプリを受賞後、同年にTVアニメ『世紀末オカルト学院』で声優デビュー。以降TVアニメ『ご注文はうさぎですか?』のチノ役、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』のヘスティア役、『がっこうぐらし!』丈槍由紀役や、劇場アニメ『心が叫びたがってるんだ。』成瀬順役などヒット作に出演。13年にはNHK連続テレビ小説『あまちゃん』で劇中アイドルの一員、成田りな役を演じ、年末の紅白歌合戦にも出演した。歌手としても活動し、今年8月9日には4thシングル「アイマイモコ」をリリース