実話怪談を語り継ぐ3人。(左から)はやせやすひろ、山口敏太郎、志月かなで

落語や歌舞伎など古くから日本人に親しまれる“怪談”。その中には“実話怪談”と呼ばれるジャンルがあり、それをメインに語り継ぐ怪談師がいる。普通の人であれば、恐怖体験を体験したり聞いたりすることはないが、彼らはどのようにネタを探しているのか。

前編では、怪談師の現状や彼らの信条をオカルト研究家でベテラン怪談師の山口敏太郎、インターネット動画サイトで怪談を語る放送作家ユニット「都市ボーイズ」のはやせやすひろ、そして女流怪談師・志月かなでのお三方に聞いたが、今回はネタ探しの苦労やあるあるを話してもらった。

―“実話怪談”というからには自身の体験や人の恐怖体験をネタにされてるはずですが、どうやって見つけてくるんですか?

志月 初対面でも、とにかく人に会ったら聞きまくります。飲みに行っても絶対聞きますよ。この間、元米軍にいて米軍の怖い話があるって人がいたので、その場で携帯のボイスメモ立ち上げて聞かせてもらいました。

山口 ネタ元の霊体験する人って一定数いて、その人たちを見つける嗅覚と囲い込む力がないとダメなんですよ。実話怪談は常に新ネタを用意しておかなきゃいけない。僕もネタ元は200人くらいいますから。

志月 私はまだまだ少ないのと、いろんな職業の人と友達になってなきゃいけないなと思いますね。私の場合、元々、小劇場の舞台でやっていて、そういう所はいろいろあるので話は集まるんですけど、偏っちゃうんですよ。普通の主婦の方から聞くのは難しいです。

はやせ 放送作家の仕事でも、番組で祟られてる家に行かせてもらってるので、そこで仲良くなった人にそれ以降も電話したりとかはしてますね。それから最近、不思議な感覚なんですけどファンの人がネタを話してくることをプレゼントだと思う節があるんですよ。僕の場合はネットラジオのファンの方が結構くれたりとか。

志月 あります、あります。喋ってほしいんですよね、たぶん。

はやせ そうそう。でも盛ってるなって思うことも多い。「まだあってね」とか言い始めると、ここから盛ってるなって思いますね。

山口 ただ、忘れて話が変容してしまう人もいるんですよ。3年前に聞いたのとちょっと違うとかね。話が面白くなるようにオーバーにしたり広げて、脳内変換されちゃうんだよね。

―確かに恐怖体験でなくても、そういうことはありますよね。

山口 それから体験者にとっては当たり前なので、そこをピンポイントで、例えば「温泉行った時、こういうのなかった?」とか聞くと、あーってなる。普段からその辺に霊がいるからわかんないんですよね。特に山奥の老人に妖怪の話なんか聞く時は。記憶を掘り起こすっていうのが怪談師の仕事ですね。

お祓いに収入の半分以上を使ってました!?

―心霊スポットとかには行かれないんですか?

はやせ 僕はネタ探しとして週1回は心霊スポットに行きます。というか、たまたまなんですけど、今住んでるのが心霊スポットなんですよ。踊り狂う男がいて、すりガラス越しに影だけ踊ってるんですよ。それと生首の女が出ます。さっきも奥さんから連絡来て、掃除してたら誰もいないところから「死ね」って言われたって。

山口 でも心霊スポットは被曝量と一緒、年3回までにしてる。40過ぎてからは行きすぎると体調悪くなる。ストレスかかるからね。

―聞いてるだけで怖いんですけど…。

はやせ でも大体、噂される心霊スポットって設定が皆似てるんですよ。オーナーはよく焼死するし、トンネルだと人型浮き出るとか。ダムなら自殺か廃村パターン。

―今、流行りのパターンはあるんですか?

はやせ ネットとかアプリのパターンは多いですよね。Snowで写真撮ったら、顔に反応するんですけど、全然人がいないところで反応したりとか、霊発見機になってるみたいな。

山口 いくら文明が発達してもそこに霊はいるんですよ。PCの中にも携帯の中にも。いろんなチャットでも死人がチャットに参加してるとか。

志月 私、心霊スポットは怖いのでひとりで行かないんですけど、イベント会場には必ず来ますね。私が最後話してた時に客席から冷たい風が吹いてくるんですよ。いや、なんだこれはって、お客さんも感じてて。エアコンの風だったんですけど、後で聞いたら「何回も消そうとしたけど、勝手につくんですよ」ってその場にいたスタッフふたりが言っていて、「もうやりたくない」って言われました。

―怖い話そのものを語っていただきたいわけじゃないんですけど!

山口 志月はもう距離感がわかるようになったけど、一時期は病んでたよね。新人の頃はよくあるけど。

志月 普通に怖いの苦手なので、この仕事を始めて理屈じゃ説明つかないことを聞いたり体験して、排水口から女が覗いてるんじゃないかとか、どっかから誰か見てるんじゃないかとか妄想に取り憑(つ)かれちゃってました。お祓(はら)いも過剰に行って、収入の半分以上をそれに使ってました。

山口 普通の人がやろうとしたらそうなるはずなんですよ。怖いのが好きな人がやってれば、わくわくするんですけどね。

はやせ 僕のことですね(笑)。

怪談師は怪談的な存在でないといけない

―やっぱり怖いので、最後はネタ探しの話に戻ってもらっていいですか?

山口 あとは資料探しですね。民俗学の文献などを調べるんだけど、色街や漁村に当たりを付けて探します。昔の漁村の人たちは結構感情的でエグい話が多いですね。フィールドワークって実際残ってるものを自分に入れることですからね。

志月 町史とかに必ず民族学ページがあって、幽霊談がちょこっとだけ載ってたりするんですよ。文献から見つけたものの場所に行くことはあります。

山口 僕は語る時、その現場に必ず行きます。その場の空気を感じて、ここで腹を切ったのかって。創作もいいんだけど、日本人ってもっと情緒深いものじゃなかったのかなって思うんですよね。それが実話怪談の良さでもあると思いますし。

そこで謎だった部分が繋がることもあります。船橋で聞いた話と東北の文献にあった話がリンクしていたり、全然違う場所で違う怪談がひとつになるんですよ。そういう時は、何か教えてくれたんじゃないかと思うんですよね。そう考えると怪談は謎解きでありミステリーだなと感じますね。そういう不思議な出来事や変な事件に遭遇できるかどうか、怪談師は怪談以上に怪談的な存在でないといけないのかなと思います。

―怪談師の方々は恐怖体験だけでなく、それを発掘し引き寄せる存在なんですね。今日はありがとうございました。

(取材・文/鯨井隆正 撮影/五十嵐和博)