今、メタルが熱い!…かどうかはわからないが、常にコアなファンから熱烈な支持を受け、燃えたぎっている音楽ジャンル、それがメタルだ!
昨今流行りのシャレオツJポップなどアウト・オブ・眼中。血湧き肉躍るメタル道を突き進む女子たちがいる。日本メタル界のレジェンドSHOW-YAの妹分で、女性4人組バンドのMary’s Blood(メアリーズ・ブラッド)だ。
そのカリスマ性、パフォーマンスの迫力は図抜けているが、メタル女子にはメタル女子なりの苦労があるようで…。バンドを代表してボーカルのEYEさん、ギターのSAKIさんにインタビュー!
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―今年4月に寺田恵子姐さんをインタビューさせていただいた後、SHOW-YAプロデュースのフェス『NAONのYAON』を観せていただきました。若手ガールズバンドも多数出演している中、Mary’s Bloodが一番カッコよかった! まさに「メタルの王道」をいっているんじゃないかと。
EYE&SAKI ありがとうございます!!
―メタルって熱狂的なファンもいる一方で、激しい音楽だから苦手な人もいると思うんですよ。そこで「メタル女子はつらいよ」をテーマにお話を伺いたく(笑)。まず、おふたりがメタルを始めた理由から教えてください。
EYE 私は元々、ビジュアル系寄りの音楽を聴いていたんですけど、重くて激しいものが好きだったんですね。最初に観た代々木第一体育館のL’Arc~en~Ciel(ラルク・アン・シエル)さんのライブがきっかけでバンドに目覚め、いろんなステージを観に行くようになりました。代々木のように大きなアリーナのライブもいいけど、スタンディングで観るライブハウスにハマっていって。どんどん前のほうに行ってワーッと盛り上がるじゃないですか、あれが楽しかったんです。
―ライブハウスで熱狂して暴れるみたいな?
EYE ストレス発散にもなるし。ライブに行けば、学校の課題とか日常が吹っ飛ぶ。自分もそんな熱狂を提供する側の人間になりたいと思ったのがきっかけですね。それで、Mary’s Bloodを始める前、19歳の時に入ったバンドがメタルで、そこで火が点きました。
SAKI 私は元々、プロレスが好きで、弟と一緒によく観に行ってたんですけど、レスラーの入場曲に結構メタルが多いんですよ。WWEのトリプルHっていうレスラーがモーターヘッドの曲を使っていて、そこからだんだん激しいのを聴くようになった感じです。
―プロレスとメタル/ハードロックは親和性高いですよね。昔はロード・ウォリアーズがブラック・サバスの「アイアンマン」で入場したり、ブルーザー・ブロディがレッド・ツェッペリンの「移民の歌」で出てきたり。
SAKI 清野(茂樹)アナがMCをやっている「真夜中のハーリー&レイス」(ラジオ日本)に出演した時に、中邑真輔の入場曲を私がギターで弾いて、それに清野アナが実況を被せるっていうをやって、「いつか真輔の入場曲をリング上で弾くのが夢!」と思ってたんですけど、WWEに行ってしまいました(笑)。
―数年前、元メガデスのマーティ・フリードマンが新日本プロレスの東京ドーム大会でギターの生演奏をしてました。
SAKI 棚橋(弘至)さんの入場曲ですよね。私もドームで弾きたいです! プロレスがきっかけでメタルを好きになって、他にもいろいろ洋楽を聴いてたんですけど、ある時、TVで聖飢魔Ⅱの復活を観て、ギターを始めました。メタルバンドのサポートとかから始まって、縁があってMary’s Bloodに加入しました。
―EYEさんは19歳でメタルに目覚めて、いろんなメタルを聴いていったんですか?
EYE ビジュアル系の趣味の友達にはメタルの話は通じないので、個人的にたくさんCDを借りたりして勉強しました。いろいろ調べていくと、メタルには定番のポーズがあったり、いろいろ決まりごとがあって「ちゃんとやらねば!」って。歌も模倣から入って、いろいろ引き出しを作れるように聴いていましたね。
―メタルって、華やかなビジュアル系とは違って、ゴリゴリの男の世界じゃないですか?
EYE 私も最初はそう思ってました。ただ、「ロック」をひと括りで捉(とら)えれば、メタルとビジュアル系には近いものが絶対あるので、どっちも共存できる世界をMary’s Bloodが作れたらと思っているんですね。最近は女性のみのバンドも増えていて、ビジュアル関係の人たちが「ビジュメタ」みたいな感じでメタルに寄ってきたりもしてます。それによって、ビジュアル系のファンたちがメタルをちゃんと聴くようにもなってきました。
SAKI ビジュアル系とメタルはそもそも…どこをビジュアル系の元祖とするかはいろいろ意見があると思うけど…X JAPANやDEAD ENDの音は完全にハードロックやメタルだったし、紆余曲折あってビジュアル系のファンも近づいてきているんだと思います。あと、アニソンにもメタルの音が増えたし、声優さんがメタルバンドのボーカルをやったりというのもあるので、そこからも新しいファンが増えたんじゃないかな。
「うちはそういうのやらないから」?
―入り口を広げてくれたということですね。ライブエンターテインメントという点から考えると、メタルには爆発力がありますもんね。でも高度な技術が要求されるでしょうし、メンバー集めには苦労した?
EYE 大変でしたね。「あのコ、いいな」って品定めして、順番にナンパしていくみたいな(笑)。気が合うコがいいなっていうのがメインで、メタルのことはある程度わかっていればいいくらいの感じで探していったんですけど。でもやっぱり、例えばメタリカのコピーをやり始めると全然重みが出ないとか、ボーカルもシャウトとか、昔はうまくできなかったので大変だったなって、今思い出しました(笑)。
―Mary’s Bloodは2009年結成ですが、SAKIさんは12年加入ですよね。それ以前にバンドは?
SAKI 特定のバンドに長くいたことはなかったんですけど、学校の文化祭で聖飢魔Ⅱとかのコピーセッションみたいなところに出たりもしてました。同級生とかはそのあたりのバンドはわからないので、ミクシーのコミュニティでメンバーを集めて。
EYE ネットの募集掲示板も使えます。地域やジャンル、誰々っぽい音楽を志向とか検索して絞り込めるので便利なんですよ。前に入っていたバンドはそうやって見つけたんですけど、そこに書いてあったことは全然メタルじゃなかったんです。
―なんて書いてあった?
EYE 女のコだけでカッコいい音楽をやりたいと。JUDY AND MARYだったかZONEだったか、カワイイどころが参考として書かれていたんですけど、いざ行ってみたら「うちはそういうのやらないから」って。ええ、ウソだ~って(笑)。だから、たまたまメタルだったんです。当時、私はマリリン・マンソンとか好きだったんで、まあ近いかな、いけるかなって思って入りました。
SAKI マリリン・マンソン、メタルと近いかな?
EYE 今考えたら近くないけど(笑)、その時はメタルについて調べ始めた時期だったから、騙(だま)されました(笑)。でも、始めてみたらすごく楽しくて。シャウトにハマって、ステージで音響さんにディレイかけてもらいながら「イエェェェッ!」って叫ぶのがすごく気持ちよくて、そこからどっぷりですね。
―ファッションも独特で、革ジャンや黒Tシャツのイメージがありますが、おふたりもメタルを始めてビジュアルも変わっていきました?
EYE そこはあまり影響受けなかったですね。ステージ上の衣装は考えますけど、それはそれで。
SAKI でも確かに、メタル好きな男の人はああいう恰好してる気がする。革ジャンにベルボトムっぽいデニム穿いて、ブーツ履いて。
EYE グラサン、大好きで。
SAKI なんでだろう? あれはなんなんだろう!?
―誰があのスタイルを始めたんですかね? 70年代のハードロックやメタルのバンドはヒッピーの延長みたいな恰好してたイメージですけど。
SAKI そうですよね。じゃあ、ジューダス・プリーストかも。
―革ジャンに鋲(びょう)が付いたようなイカツイのはそのあたりからですかね。
SAKI やっぱり、ロブ・ハルフォード(ジューダスのボーカル)のイメージですよね。
EYE じゃあ、みんなスキンヘッドにすればいいのにね(笑)。
「買い物で手に取るのは黒いものが多い(笑)」
SAKI メタルやってる女子は、衣装は黒くても、私服は結構フリフリの洋服だったりするんですけど、男のコは衣装と私服があまり変わらないかも。
EYE アメリカにヴィクセンっていう、ゴリゴリのメタルファッションの女バンドがいたよね。
SAKI ボディコン系だったよね。ちょっとマネするにはレベルが高い(笑)。それこそ日本では(寺田)恵子さんくらいしかああいうファッションはできないよね。上はブラ!みたいな。トゲが付いたブラで下はスキニーみたいなのは、一般的な女子にはハードルが高いんじゃないかと。
EYE 恵子さんはあれが似合うからスゴイよね。
SAKI でも、男のコはお客さんもなんで同じ恰好してるんだろう。すごい気になってきた…。
EYE 尖った靴履いて、裾がボロボロになったベルボトム穿いて。
SAKI やっぱり、「メタルの魂」ってことですよ。
EYE まとめましたね(笑)。
―全身で「俺はメタルが好きだ!」ってアピールしたいのかも。
EYE その気持ちはあるかもしれない。芯を持ってるんだぜっていう。
SAKI でも、きっとそこまで深刻じゃないよね。
―(笑)。日常は普通の女のコと同様にいろんなファッションを楽しんでる?
EYE ステージに立つ時の衣装はイメージを表現できるものを選んでいて、それに日常の自分も慣れてきているっていうのはありますね。買い物してて手に取るものは黒いものが多かったり(笑)。
―やっぱり、それはあるんですね(笑)。
EYE これいいな、あれもいいなって、いろいろ試着してはみるものの、なんかピンクとか似合わない気がする!と思って、残ったのは黒いものだけだったってことはよくあります。
SAKI 基本、モノトーンだよね。
―今日は完全に私服?
EYE 私服です。パステルカラーとか着ないですね。原色系も厳しい。
SAKI 色っていっても、濃い~赤とか濃い~青しか、しっくりこない。明るい色は着られないって感じ(笑)。
「カラオケでも普通には歌えないです」
―メタルはどっちかっていうと暗い音楽ですしね。底抜けに明るいようなイメージはない。
SAKI でも、今はメタルにもいろいろあるんですよ。スウェーデンのトワイライト・フォースっていうバンドは、ファンタジー映画『ロード・オブ・ザ・リング』とかをモチーフにしていて、曲の途中で「シャキーン!」って音がして剣を抜くんです。お客さんもみんな剣を持っていて、みんなで「シャキーン!」をやる。
フィンランドのチュリサスはヴァイキング・メタルなので、船に乗って出てくるんです。よく、ライブのノリといったら「モッシュ」といってみんなで入り乱れるけど、チュリサスはみんなで肩を組んで「オイッ、オイッ」みたいなノリで、ピースフルな空気なんです(笑)。
EYE 絵になるね。楽しそう(笑)。
SAKI スウェーデンのサバトンはドラム台が戦車なんですよ。弾は出ないけどちゃんと砲台が動く。「YAMAHA」って書いてあるんですけど(笑)。曲間の演出で敵兵に扮したスタッフが出てきて、それをボーカルが「エイ!」って倒すと、お客さんも「エイ!」って言って、みんな笑顔!みたいな。
EYE 森メタルの人は、飛行機に斧を持ち込めなかったんだよね。
―森メタル!?
EYE フィンランドのコルピクラーニっていうバンドだったかな? 空港の手荷物検査で引っかかって武器を置いていかざるを得なかったそうです。
SAKI メタルはそういう設定が映えるし、実は入り込みやすい音楽なので。最近は船とか戦車とかいろいろ出てくるようになりましたね。
EYE もう乗り物だもんね(笑)。
―メタルの景色もだいぶ変わったんですね。というか、北欧メタル、面白すぎ。話は戻りますが、ファッション以外で私生活に滲(にじ)み出てしまうメタル要素は?
EYE カラオケですね。同世代と一緒に行くと浮きます。ガンズ・アンド・ローゼスとかモトリー・クルーとか同世代は知らない。それこそSHOW-YAの曲とか、(アン・ルイスの)「六本木心中」とかも全然わかってくれないので。自分が楽しいから勝手に選曲して歌うんですけど。ステージでいつも声を歪(ひず)ませて歌っていると、もうカラオケでも普通には歌えないです。マイクの位置とかめっちゃ遠いですもん(笑)。
―友達とカラオケ行っても全力を出してしまうと(笑)。
EYE Mary’s Bloodの曲もカラオケに入っていて、「歌ってよ~」とリクエストされたら歌うんですけど、ドン引きみたいな(笑)。「Marionette」って曲はイントロで「イエェェェ!」って叫ぶんですけど、これはデフォルトでやらないといけないもんだと思っているので「イエェェェ!」って歌いだしたら、みんな「…す、すごいね…」みたいな。
SAKI 同世代と話が合わないっていうのはあるよね。聖飢魔Ⅱの話も通じないし。
―話が通じないから、メタルをやっていることを隠したりもするんですか?
SAKI 隠すっていうより、こっちからは敢えて言わないですね。「どんな音楽好きなの?」「あ~、バンドかなぁ」みたいな。
―オブラートに包む(笑)。男性たちと飲み会をやったとして、音楽の話になったら?
SAKI 人によりますけど、ぐいぐいこられたら適当に返すかも。
EYE 食いつかれても困る、みたいな(笑)。
「オタクっていう人種は寛容だよね」
SAKI 一番困るのは「バンド好きなんだよね? 俺も好きなんだけど」と声をかけられて、「どんなの聴くんですか?」って返したら、「ハイスタが好き」とか言われると、「そうなんだぁ…」って。「ハイスタ、カッコいいですよね」って言うと、「じゃあ、これは知ってる?」とメロコアとかパンクを掘ってくるから、「ああ~」みたいな(笑)。
―どんどんメタルから遠ざかっていくと(笑)。
SAKI 私はそっち系じゃないんだよなぁと思っても、避けるのもなんだし、「私はメタルが好きなんです」とベシッと言うのもなんかなぁって、ボヤッとします。
EYE すごくわかる(笑)。共通のキーワードがあれば楽しく話せるんだけどね。
SAKI そうそう。「メタルです」ってハッキリ言うと、向こうは向こうで「会話続かなくなっちゃった…」って空気になるのもあれだから。
―かといって、ぐいぐいメタル談義されても面倒くさいわけですね。
SAKI そこは悩みどころですよね。ちゃんと話をしてあげたい人には「私が好きなのはちょっとうるさい感じで…」とか、やんわり説明します。
EYE 初対面の人には、どれくらいわかってくれるかなって探り入れるよね。
SAKI 会話の流れで「今度、ライブ行くよ」って言われると「ホントに?」って言いますもん。動画を送って「こんな感じだけどいいかな?」みたいに。
EYE ジャブを入れとく(笑)。いきなり聴いたらビックリするかもしれないけど、優しく誘導してあげれば聴いてくれると思いますよ。私、オタクでコスプレが趣味なんですけど、オタク関係の友達には激しい音楽が好きな人が結構多いんです。
アニソンとかゲーム音楽にはそういうのが多いし、メタルって実は身近にある音楽なんですよ。だから、そういう人たちとは初対面でも仲良くなれるし、Mary’s Bloodの曲もすんなり「全然カッコいいじゃん!」って受け入れてくれたりする。
SAKI オタクっていう人種は寛容だよね。
―「オタクは寛容」、名言ですね!
SAKI オタクの人たちもあけっぴろげに「アニメが好き」とか言えない、同じような場面を経験してるからこそ、違うジャンルのオタクに対しても理解を示すキャパの広さを持っているんじゃないかな。
Mary’s Bloodに入る前、雑誌の企画でイタ車を作ってる人たちとコラボしたことがあって、アニメに詳しくないメンバーのことも温かく迎えいれてくれて。その後、みんなでカラオケに行ったんですけど、何を歌っても盛り上がってくれて、すごくハッピーな空間でした。
●この続き、後編は明日配信予定!
(取材・文/中込勇気 インタビュー撮影/本田雄士)
●Mary’s Blood(メアリーズ・ブラッド) 2009年結成。2012年より現メンバー(ボーカルEYE、ギターSAKI、ベースRIO、ドラムスMARI)で活動。現在、ワンマンツアー『Raise the Flag Tour 2017』を全国展開。11/19(日)品川インターシティホールなど。11/25(土)『CLASSIC ROCK JAM 2017 & WORLD GUITAR GIRLS COLLECTION』出演や12/26(火)サポーターズクラブ限定ライブ『A Night at the KINEMA CLUB』開催も決定。詳細はオフィシャルHPにて