『ゴッホ~最期の手紙~』に画家として参加した古賀陽子さん 『ゴッホ~最期の手紙~』に画家として参加した古賀陽子さん

巨匠フィンセント・ファン・ゴッホの死の真相を描いた、話題のアートサスペンス映画『ゴッホ~最期の手紙~』が公開される。

なんと、事前に役者が演じた実写映像を撮影、それを元に世界中から集められた125名の画家によって、“ゴッホの画風”で描かれた6万2450枚もの油絵をアニメーションにしたという前代未聞の贅沢な作品だ。

そのこだわりから生み出された映像の美しさはさすがの説得力で、冒頭から筆跡や絵の具の盛り上がりの質感にも魅せられるのはもちろん、ゴッホは本当に自殺だったのか?を追うドラマも極上のミステリーとして引き込まれる!

そんな“ゴッホ愛”溢れる一大プロジェクトに日本人でただひとり、参加したのが若手画家・古賀陽子さんだ。ポーランドでの制作はどのように進められたのか? 世界中の画家たちとの交流を通して見出したものとは? そして巨匠の作品のタッチをなぞることで画家として何を感じたのか? 制作の舞台裏を伺った。

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―できあがった映画をご覧になっていかがですか?

古賀 自分の思い入れを抜きにしても面白かったです! ゴッホの人生をただ描くだけではなく、その死生観に焦点を当てているのも新しいですし、しかもそれをミステリアスに描いている意外さもあって。実写で撮られたものを観てから描いたんですけど、できあがったものは「あー、この画家はこのシーンをこう描いたんだ」という新発見があったり、それぞれのシーンに個性も出ていますし、すごく楽しませてもらいました。

―観客のひとりとしても、純粋に楽しめたと。この作品に参加した日本人は古賀さんひとりだそうですが、そもそもキッカケは?

古賀 母が朝の情報番組『あさチャン!』でこの映画の制作を知り「公開されたら一緒に観に行こうね」と教えてくれたんです。パックン(お笑い芸人のパトリック・ハーラン)が海外ニュースを紹介するコーナーだったんですけど、ポーランドでこんなスゴイ映画が制作中で、でも進行が押していてまだまだ画家も募集しているようだとサラッと言っていて。ネットで調べたら、本当に追加募集していたんです。

今は、デジタルではなく手描きの油絵でできる仕事は滅多にないし、しかもそれで映画を制作するなんて、そんな贅沢な仕事なら是非、私も描きたいと思って、すぐに自分の作品を添えて応募しました。

―パックンの情報コーナーがキッカケ!? 応募したその後はどういう流れで採用に?

古賀 まずはポーランドに来てくださいと言われて、そこで3日間に渡り採用試験を受けました。すでに働いている人と同じようにテスト用のシーンをいきなり描くという内容でした。その中で、ゴッホ調にするポイントやアニメにするコツを教えられながら作業をして、その後、さらに3週間のトレーニング期間でも同じような作業を経て、正式に採用されました。

―元々、油絵を描かれていても“ゴッホ調”となると、かなり難しいのでは?

古賀 そうですね。厚塗りしたり大胆にタッチを入れたり、その制作スタジオの監修の上司に「もっとゴッホっぽく!」と細かく教えられるうちにできるようになって。でも、絵を見ながらシーンを描いていく中で、ゴッホのすごさに改めて気付かされました。大胆でランダムに見えてリズムもあり、ある程度の規則はあっても決まりきったものはなくて…。その絶妙なタッチのバランス感覚や色使いに改めてすごい作家だなと。

―どれぐらいのシーンを担当されたのですか?

古賀 580コマ分です。まずボードに1枚目を描いて撮影したら、動きのあるところを少し削り取って少し動かしてまた描いて。そういう描いては削り、削っては描きという作業ですね。絵としてはそれぞれの最後のシーンだけが残っています。

日本ってこんなに美しかったんだって、より強く思えました

―580コマ! しかもアニメーションとなると、普段の描き方とは違うと思いますが、こだわったところは?

古賀 アニメーションなので、特に人が動いている部分の動きの滑らかな感じにはこだわりました。例えば、担当した飲んだくれのシーンなんかは楽しそうに見えるように、その人の感情がイキイキ伝わるように心がけました。

―苦労したのはやはりそういう動きの部分ですか?

古賀 もちろんそれもありますが、メンタル面が…。映画として通して観ると動いているんですけど、1コマ1コマ描いている作業の中では微妙にしか変わっていないので、感覚的には毎回同じ絵を描いているという感覚。1日平均10時間前後作業していたのですが、それを何十回、何百回と繰り返すのは、気をしっかり持っていないとやっていけない感じはありました(笑)。

ただ、私は元々“新進気鋭の芸術家”というタイプではなく、職人的なものに憧れはあったので。そういう作業自体は好きですし、合っていたとは思います。

―125人の画家が描く6万2450枚もの油絵をアニメ化するという、とんでもなく壮大なプロジェクトで…監督はどんな方ですか?

古賀 普段は別のスタジオにいたので、私は1、2回しか会ったことがないんですけど、パワフルで、やはりゴッホにかける情熱は人一倍強くて! しかもこの映画、思いつくのは簡単だけど、実行するのってやっぱりすごいことですよね。

―どれだけゴッホへの愛に突き動かされたかが伝わります! 実際の制作現場ではどんな画家と一緒に作業を?

古賀 私がいたのは何ヵ所かあるうちの一番小規模なスタジオで、全部で10人の画家がいたんですけど、地元のポーランド人はもちろん、アメリカ人、スペイン人、マケドニア人など世界中から来ていました。年齢も10代から40、50代まで様々で、大学を休学しているコもいたし、英語の先生をしながら画家の活動している女性も、建物の修復をしている人もいたし…いろんな環境の人がワールドワイドに参加していました。

―古賀さん自身、高校卒業後に留学してイギリス、イタリアで勉強を重ねるなどかなりのバイタリティの持ち主のようですが。仲間と夜な夜な芸術論を激しく交わしたり…!?

古賀 いえ、昼間すごく集中して描いていたし、仕事以外の時間は気晴らしになる世間話が多かったです(笑)。「このシーン難しい」「シンドイな~」って仕事の悩みを話すくらいで、休憩時間はバレーボールをして遊んだり…。

―オンとオフの切り替えも必要と。意外と和気あいあいと過ごしていたんですね(笑)。海外の画家たちと交流して、日本の絵画界との違いを感じたりは?

古賀 それはありますね。日本では絵や芸術はハードルが高いという印象を持っている人も多いと思いますけど、ヨーロッパとかは生活に芸術が溶け込んでいて、自宅に絵をたくさん飾っている人も多いですし、絵に対する考え方がちょっと違うんですよ。機能性だけじゃなくて、心が豊かになるものにお金をかけている方も多いのかなと思います。

逆に、海外に行くことによって日本の良さがわかるというのもありますよね。日本ってこんなに美しかったんだって、より強く思えました。私たちが向こうに行くと壁や窓の形ひとつにも感動するみたいに、日本も美しくて。見慣れている畳だけでもすごく温もりを感じたり、着物の女性って本当に美しいなって再確認したりしてます。

◆後編⇒ゴッホの死を題材に前代未聞のアートサスペンス映画が誕生! 日本人で唯一、制作に参加した女性画家が覚えた共感と感動

(取材・文/明知真理子 撮影/利根川幸秀)

古賀陽子(こが・ようこ) 1986年、兵庫県生まれ 2005年にイギリスのカレッジに留学し、ファインアート、デザイン、版画など美術全般の基礎を学ぶ。その後、イタリアのフィレンツェ国立美術大学で学びつつストリートペインティング活動も行なう。詳細は公式HPにて。

『ゴッホ~最期の手紙~』 11月3日(金)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国順次ロードショー! 公式HPよりご確認ください。(C)Loving Vincent Sp.zo.o/Loving Vincent ltd.