人気声優を輩出してきたソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)のオーディション「アニストテレス」。その第5回で特別賞を受賞しデビューしたのが、17歳の現役女子高生・楠木ともりだ。
来年1月から放送されるオリジナルTVアニメ『メルヘン・メドヘン』では主演(鍵村葉月役)を務め、まだデビューから半年ほど、しかもアニメシリーズへの本格的な出演は初でありながら、いきなりの大抜擢!
他にも、人気シリーズのスピンオフ作品『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』で主人公・レンを演じることが決定するなど、輝かしいシンデレラ・ストーリーを歩んでいる。
しかも声優としてだけでなく歌手としても活動し、自分で作詞作曲も行なうという、今もっとも注目される新人声優の素顔に迫るロングインタビューの後編をお届けする!(前編「まだ現実に追いつけていません(苦笑)」参照)
■ポジティブな曲は聞かないし書かない
―今はまさに『メルヘン・メドヘン』の収録中の忙しい時期かと思いますが、それでもツイッターを拝見していると、ギターの練習をしていたり、絵を描いたりといろんな活動をされてますよね。そのバイタリティはどこからくるんでしょう?
楠木 元々は休日に予定が何もないとゴロゴロしちゃっていたんです。でも、仕事を始めてからは、限られた休日がそれではもったいないから何かしようと思うようになって。最近は作曲も始めました。初めは作詞だけやっていたんですけど、ボイトレの先生から「メロディも作ってみたら?」と言われたことがきっかけで。
―インタビュー前編で伺いましたが、子どもの頃からピアノをやっていたり、中学は吹奏楽部、高校は軽音楽部とずっと音楽に触れてきたんですよね。
楠木 最初は自信がないままでやっていたんですが、悩んだ末に形になった時が嬉しくて。今は暇さえあれば作曲をしています。
―ライブで自作の曲を歌うことは?
楠木 必ず1曲は入れるようにはしていますが、まだ人前で演奏できるような曲は少ないので、カバーのほうが多いですね。「いつかは自分の曲だけでライブができたらいいな」とは思っています。
―自分で作る曲はどういうものが多いですか?
楠木 私は「酸欠少女さユり」さんや「ハルカトミユキ」さんがすごく好きで。「あなたも頑張って」と応援するような曲ではなく、ツラい思いをしている時に寄り添ってくれるような曲ばかり聞いているんです。
今はSNSでいろんな人が繋がるようになった分、みんなツラいと感じることが増えているじゃないかなって思っていて。私も共感できるところがあるから、日常的にあったツラいことや悲しいことを歌にして、同じ思いをしている人に元気になってもらえたらと。
―自分の日々の経験が歌になっている?
楠木 具体的な何かを直接、歌にしているわけではないですけど、書くことで自分自身も「こういうことで悩んでいたんだ」とはっきりするというか。自分を見つめ直すきっかけになることが多いですね。
私はライブで自分の曲を歌う前は「歌詞を聞いてほしい」とよく言うんです。歌詞を先に作ってからメロディを考えるので、歌詞にはいろんな思いを込めています。だから、聴いてくださる方々にも歌詞からいろんな意味を見つけてほしいんです。
中学の時はアダ名は…
■中学時代の意外なアダ名とは?
―歌手としても活動する声優は多いですが、自分で作詞作曲をする人は珍しいですよね。
楠木 ただ、私にとっては歌も演技も、それから絵を描くことも一緒です。手段が違うだけで、どちらも心の中で思っていることを表現しています。
最近になって、私は「表現」が好きなんだって気が付いて。元々、好きだからやっていただけで、深く意味を考えたことはなかったんですけど。お仕事をいただけるようになって、なんで演技や歌や絵が好きなんだろうって考えてみたんです。全部「表現」なんですよね。
だから演技だけ、音楽だけじゃなく、どちらもやっていきたいです。型にはまった感じではなくて、声優から派生していろんなことができたらいいなと思っています。
―どうしてそんなに「表現」に惹かれるんでしょう?
楠木 これはあまり言ってないんですけど、中学生の時に生徒会長をやっていて。
―そうなんですか!?
楠木 これは言っていいのかな…。昔は正義感が強いタイプで、結構、仕切ったりしていたんです。先生からも信頼されていたほうだったと思います。でも、それでいじめられたってこともあって。全く違う環境に行こうと思い、高校は背伸びして、ちょっと偏差値が高い学校に行ったんです。
そうしたら背伸びした分だけすぐに勉強で置いていかれ、仕切ることもなくなり、いつの間にか自然に溶け込めるようになりました。中学生の時は随分と雰囲気の違う3年間を過ごしています。
―優等生を演じる必要がなくなったというか。
楠木 中学では周りに正義感を押し付けちゃったりしていたのかなって。先生からの信頼もプレッシャーというか。当時はこれが自分だって思っていたんですけど、今考えると無理していたのかもしれないと思います。
―高校ではいい意味で肩の力が抜けた?
楠木 そうですね。だって、中学の時はアダ名が「会長」でしたし。
―ああ、完全に「堅いやつ」としていじられていたわけですね。
楠木 だから中学の同級生に久しぶりに会うと、「絶対に大学に行くと思っていた」って驚かれます。
『メルヘン・メドヘン』が決まる前は、大学に行こうと
―まさか「会長」が芸能人になるなんて、と。
楠木 でも高校では「仕事もどうせ適当にやってるんでしょ?」って言われます(笑)。もちろん適当にやってはいないですけど、そうやって言われるくらいの力の抜けた生き方が自分には合っていたんだなって思います。
―中学と高校で人生観がガラッと変わった。
楠木 声優になる夢も、中学の時は「なれたらいいな」ってくらいだったのが、高校で軽音楽部に入って、人前で歌う楽しさを知ったことで「なれるかどうかはわからないけど、とりあえず好きなことをやろう」と思えるようになりました。
―そういう心境の変化が「アニストテレス」のオーディションに繋がっていくわけですね。
楠木 だから自分で歌詞を書いたり、曲を作ったりしているのも、同じような思いをしている人に寄り添いたいっていうのがあるのかもしれないです。
■(アニメでは)温泉シーンもあります
―一応、『メルヘン・メドヘン』の宣伝的なお話も伺うと(笑)…このアニメはどんな作品ですか?
楠木 とにかく、いろんな要素が入っているアニメですね。魔法学園を舞台にした異世界ものでありながら、学生特有の人間関係の微妙な距離感も描かれている。ファンタジーなのにキャラクターを身近に感じられるポイントがたくさんあって、心が動く瞬間があちこちにある作品だと感じています。
―アニメのあらすじの最後には「少女たちが一緒に特訓したり、時には温泉に入ったりなんて感じの魔法少女バトルが、いま幕を上げる!!」ということで、男性にはそこの部分も注目ですね。
楠木 そうですね(笑)。
―しかし、すごいタイミングでの大抜擢というか。放送は来年1月から3月までですから、終わる頃には、もう女子高生ではなくなっている。ある意味、人生の区切りを刻んだ作品でもあるというか。
楠木 まさにすごいタイミングでいただいたお仕事で、私にとっては本当に人生の転機になりました。だって、『メルヘン・メドヘン』が決まる前は、大学に行こうと思っていたんですよ。
―そうなんですか?
楠木 演技も未経験だし、こんなにすぐに声のお仕事がいっぱいくるわけがないと思っていて、普通に進学しながら声優としての経験を積んでいければいいと。でも、気が付けば高校の出席日数もギリギリになるくらい忙しくなって。
無理して大学に行って、お仕事も勉強もどっちつかずになるのはイヤだから、高校を卒業したら当面はお仕事一本にして、もし大学と両立できるくらいペースをつかめて、それでも進学したいと思えたら、あらためて受験しようと思っています。
未だに実感がないんですから
―すごく陳腐な言い方ですけど、お話を聞けば聞くほど、本当にシンデレラ・ストーリーですよね。
楠木 1年前にオーディションを受けた時、友だちが海外に留学したんです。私には絶対にできないことだから、素直に「すごいな」と思って。声優になる夢を応援してもらっていたので、彼女が日本に帰ってくるまでに自分も何か嬉しい報告ができることをしたいと思っていたら、この主演のお話が決まったんです。
―その友だちはさぞ喜んだでしょうね。
楠木 でも、あまりに想像を超えた報告だったので、喜びを通り越して「何それ、本当なの!?」って(笑)。
―セリフのある役をもらえたくらいかと思ったら、いきなりTVシリーズの主役というのは驚きますよね(笑)。
楠木 信じられないって。同級生はみんなそんな反応です(笑)。だって、私も信じられないし、未だに実感がないんですから。
(取材・文/小山田裕哉 撮影/河西 遼)
■楠木ともり(くすのき・ともり) 1999年12月22日生まれの高校3年生。2016年、高校2年生で受けたソニー・ミュージックアーティスツのアニメオーディション「第5回アニストテレス」にて特別賞を受賞し、今年、声優デビュー。12月配信予定のアプリゲーム『きららファンタジア』(主役・きらら)、『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルALL STARS』(『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』優木せつ菜)他、来年放送予定のアニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』(主役・レン)も控える。○初めてパーソナリティを務めるWEBラジオ『メルヘン・メドヘン 楠木ともりの見習いラジオ』配信中!(隔週金曜日配信予定)
■TVアニメ『メルヘン・メドヘン』は、2018年1月よりAT-X、TOKYO MX、BS11にて放送開始予定! 詳しくはオフィシャルホームページまで! http://maerchen-anime.com/