ラストアイドルファミリーのひとつ、Good Tearsのメンバー・相澤瑠香

2018年3月31日、深夜0時20分。テレビ朝日系のオーディション番組『ラストアイドル』セカンドシーズン最終回で、アイドル史に残る名言がひとりの少女の口から発せられた。

「なんで!?」

そのシンプルな3文字は、トップアイドルを夢見る少女達を「勝者」と「敗者」に分ける番組システムの過酷さと共に、アイドル及び芸能界の不条理を糾弾するものだった。

誰もが感じていたけれど、舞台上では誰も口にはしなかった3文字を声に出した少女の名は、相澤瑠香。5つのグループで構成されたラストアイドルファミリーのひとつ、Good Tearsのメンバーだ。

その瞬間、彼女はどんな気持ちで「なんで!?」と叫んだのか。そして、その後に続くはずだった言葉とは…。今、まさに大きな夢を描いている人、精一杯努力したのに報われず夢が破れた経験を持つ人に、再び歩き出した相澤瑠香の言葉を贈る。

■SCENE.1 ファーストシーズン「入れ替えバトル」

1999年5月22日生まれ、宮城県仙台市出身。相澤瑠香はきっかけを思い出せないほど幼い頃からアイドルに憧れ、自分もアイドルになることを夢見ていた。中学3年生の春、仙台を拠点とするsendai☆syrupの第1期メンバーに選ばれ、インディーズデビュー。地元ラジオ局でレギュラー番組を持つなど活動の幅を広げていったが、高校2年生の9月にグループを卒業する。決断の理由は――。

「私、欅坂46さんがすごく好きで、『サイレントマジョリティ』(2016年4月発売の1stシングル表題曲)を聴いて前のグループを卒業したんです。周りの言いなりというか、周りに流されちゃってるなと思うことがだんだん増えてきていると感じていた時に、平手友梨奈さんが『君は君らしく生きて行く自由があるんだ』ってすごく強い表情で歌っている姿を見て(私、何やっているんだろう)と思ったんですよ。

自分らしく夢を追いかけるためには、今いる場所から出て行かなきゃ駄目だなって。地元の活動を卒業した後、何コかオーディションを受けたんですけどどれも手が届かなくて…。もうなれないのかなと思い始めた時に見つけたのが『ラストアイドル』のオーディションの告知でした。受けようと思った一番の決め手は、名前です。アイドルになる夢の“ラスト”を賭けようと思ったんです」

そして昨年夏、応募総数4932人の中から「初期暫定メンバー」7人のひとりに選ばれた(立ち位置No.7)。喜びとは裏腹に「夢が叶った」と思えることはなかったという。その理由は、『ラストアイドル』という番組の特殊なシステムにある。

この番組は、秋元康プロデュースの下、12月20日に楽曲『バンドワゴン』でCDデビューする7人組アイドルグループ(※グループ名は番組名と同じ「ラストアイドル」)のメンバーを前代未聞の「入れ替えバトル」で決めるもの。毎週、スタジオにやって来た挑戦者が暫定メンバーひとりを指名し、お互いにライブパフォーマンスを披露。4人いる審査員のうち、「天の声」に指名されたたったひとりの独断によるジャッジが行なわれ、挑戦者が勝った場合は暫定メンバーと入れ替わる。

相澤は第3回放送で古賀哉子の挑戦を受けた。運命のライブパフォーマンスで選んだ楽曲はもちろん『サイレントマジョリティ』。だが、「天の声」に指名された審査員は古賀を勝者にコールし、番組史上初の暫定メンバー入れ替わりとなった。勝敗決定後に明かされる審査員4名のジャッジスコアは、3対1。他の3人の審査員は相澤を支持していた。

「4対0で負けたならわかるし、3対1でも2対2でもここまでは悔しくなかったと思うんです。自分が“3”の側で相手が“1”だったのに負けてしまうって、本当に運がないんだって。芸能界とかアイドルの世界って、顔とか実力はもちろん大事だと思うんですけど、運ってすごく重要なんじゃないかなと思うんですよ。

負けた直後、スタッフの皆さんに“ここで終わりじゃないよ、まだチャンスはあるよ”と慰めていただいたんですが、私はきっとアイドルに向いてないんだなって。これがラストチャンスと決めていたし、もう諦めようって思ったんです」

また負けるのかって…

■SCENE.2 セカンドシーズン予選「総当たりバトル」

悔しくて眠れない夜が続いた。悔しい気持ちがあるということは、夢を諦め切れずにいるということだ。それを自覚し始めた頃、番組スタッフから吉報が届いた。「バトルの敗者でセカンドユニットを数組作ります」。ラストチャンスが首の皮一枚で繋がり、相澤は番組初のセカンドユニット・Good Tearsのメンバーとなる。秋元康が彼女達5人のために書き下ろした楽曲は「涙の仮面」。

「私たちは最初にできたセカンドユニットだから、一番長くメンバー同士が仲良くなれる時間がある。ラストアイドルがメンバー決めでバトルしている間に(笑)、距離感をなくして結束力を深めて、パフォーマンスの精度をぐんぐん上げていこうって5人で話し合いました。

Good Tearsのメンバーは負けた人たちですけど、勝った人たちには出せないものがあると思うんですよ。悔しさだったり、熱さだったり、怒りとか。私たちはセカンドユニットだけれど、アンダーじゃない。ラストアイドルと対等のライバルとしてやっていきたいなって、結構メラメラしていたんです」

後にセカンドユニットは新たに3組結成され、本家ラストアイドルを合わせた5組が「ラストアイドルファミリー」と称されるようになる。12月20日のメジャーデビューの際は、Good Tearsもカップリングで参加した。そしてファミリー5組による合同ライブや握手会が本格始動する最中、サプライズが…。1月13日より番組のセカンドシーズンが開幕すると発表されたのだ。

セカンドユニット同士の熾烈なバトルが毎回繰り広げられたセカンドシーズン。(左からシュークリームロケッツ、Good Tears)

つんく♂、小室哲哉、秋元康、織田哲郎、指原莉乃という5人のプロデューサーが参戦し、ファーストシーズンで誕生した5つのユニットとタッグを組んで総当たり戦を実施。上位3組で決勝トーナメントを行ない、優勝したグループがセカンドシングルの表題曲を歌う――。「対等のライバル」として戦うチャンスが、いきなり舞い込んできた。

「セカンドシーズンが始まるって聞いた時は、欅坂さんとかAKBさんみたいなラストアイドルファミリーみんなでわちゃわちゃした感じのバラエティーが始まるのかなって。“やっとバトルから抜け出せる!”って勝手に想像していたんです。そうしたら、また戦わされることになって…。

でも、ファーストシーズンが終わった頃、Good Tearsは“ラストアイドルファミリーで一番人気がないグループ”って言われていたんですね。自分たちにも危機感というか劣等感があったので、ここで1位になって表題を取れば挽回できる。燃える気持ちはどこのグループよりも、メンバーひとりひとりの中にあったんじゃないかなって思います」

くじ引きの結果、Good Tearsのプロデューサーは織田哲郎に決定した。面談を経て、メンバー達に書き下ろした楽曲は『スリル』。「泣き出しそうなスリル 何度つまずいたって また歩き出せばいいよ いつだって 未来は こっから始まるんだ」と力強く歌う、アップテンポのロックナンバーだ。

「両親の影響で、相川七瀬さんの『夢見る少女じゃいられない』とか織田さんが作られた曲をよく聴いていました。Good Tearsが王道のかわいい系の曲を歌っても、たぶん他のグループには勝てないなと思ったから、織田さんに決まった時は本当に嬉しかったんです。私たちの歌声とかひとりひとりの雰囲気を見て、曲はかっこいい系で行くって決めてくださったし、私たちのことを深く深く考えて書いてくださった歌詞だから、歌っていて本当に泣きそうになるんですよ。この曲で私たちは絶対、表題を取るんだって思いました」

だが、小室哲哉率いるラストアイドルとの初戦は、完敗だった。

「また負けるのか、と思いました。ファーストシーズンで負けてしまった、メンバーひとりひとりにとっても一番勝ちたい相手だったので、私たちはやっぱり越えられないのかって…」

ステージの上で涙をこぼしたが、うつむく時間は一瞬だった。勝敗決定後のコメントで、相澤はグループと自分自身を奮い立たせる言葉を放つ。「Good Tearsは悔しい思いをすればするほど輝くグループだと思っているので。必ず上位3チームに残って、次こそ5人の悔しい気持ちを嬉し涙に変えたいと思います」

●後編⇒アイドル史に残る名言「なんで!?」の真意――『ラストアイドル』敗北で相澤瑠香が見たもの…

(取材・文/吉田大助 撮影/武田敏将)

■相澤瑠香(あいざわ・るか) 1999年5月22日生まれ、宮城県出身。ラストアイドル初期暫定メンバー。昨年まで宮城の「sendai☆syrup」で活動。ラストアイドル初の2ndユニット「Good Tears」で活動する。公式Twitter【@Good_tears_ruka】