「女のコの写真集を数え切れないほど作ってきた僕にとっても、これは挑戦であり、初めての経験でしたね」
写真家・篠山紀信にそう言わしめたのは、女子大生ユニット「キャンパスクイーン」の卒業生で、現在は新人女優として活動する、高尾美有、結城モエ、松井りなによるヌード写真集シリーズ『premiere(プルミエール)』。実はこの写真集は彼女たちの発案であり、篠山がその提案に「それは面白い」と乗るかたちで企画がスタートした。その経緯は週プレnewsに掲載中の3人のインタビューで詳しく説明している。
しかし、本人も言うように数え切れないほど有名女優の写真集を作ってきた篠山が、どうしてほぼ無名だった彼女たちのヌードを撮ることに新鮮さを感じたのか。話を聞いた。
■「女性目線のヌード」への挑戦
――この取材の前がちょうど3人のインタビューでした。
篠山 じゃあいろいろと決心に至るまでの話は聞いたでしょ?
――ヌードになることに対して3人それぞれ温度差があって、テスト撮影から実際に現場に入るまで、篠山さんと何度も話し合いを行なったそうですね。
篠山 そう。大変だったんだから(笑)。僕は写真集を何百冊作ったか覚えてないけど、あんなにきれいな女のコたちが、ハダカどころか写真集を1冊も作ったことがないのに、自分から「作りたい」と言ってきたことはなかった。これまではだいたいさ、『週刊プレイボーイ』みたいなところの編集者が何とか言いくるめて連れてきたような女のコを、「きれいに撮るからね」なんてなだめながらやっていたものですよ(笑)。それが向こうから企画を持ってくるなんて、時代は変わったなと思いました。
彼女たちはミス・キャンパスの出身で、学生の頃はちやほやされたかもしれないけど、卒業後に女優としてやっていくうえで、「私たちは何なんだろう?」ってことを考えたんだろうね。それで「自分たちも表現者として確固たる作品がほしい」となり、事務所の社長に直訴に行ったんだよ。それから僕のところに社長から電話がかかってきて、一度会ってみようかということになったわけです。
――最初の打ち合わせで、ひとりひとりに「脱ぐ覚悟はある?」と聞いたとか。
篠山 そこは誤解されるといけないけど、僕が言ったのは、「これは今までのヌード写真集じゃない」と。#MeToo(ミートゥー)やセクハラの問題があって、今はヌード写真が排斥の対象になっているじゃないですか。そういう時代に彼女たちが僕に写真集を作りたいと言ってきたことが新しい。だって、僕は篠山紀信だよ(笑)。どういう写真集になるかわかるじゃない?
でも、この企画は彼女たち自身の発想から始まったものだから、従来のヌード写真とは違うものでないといけないと思いました。今までのものは男目線なんです。男の劣情を刺激できればそれでいい。でも、それだけでずっと作っていたら、いろんな非難にさらされるかもしれない時代になってきた。
だから今回の写真集は女のコが見て、「こんなにきれいに撮られるなら私もやってみたい」と思えるような、女のコたちの共感を呼ぶものにしたかった。そういう女性目線に立ったヌード写真なんてやったことがない。そんな依頼がないからね(笑)。僕にとっても初めての経験だし、それがやってみようと思った理由なんです。
ただ、彼女たちに言ったんです。僕は君たちに寄り添って撮るから、男目線の写真にはしない。でもね、君たち無名でしょ? それで1冊の写真集を作るとなったら、よっぽど本自体が魅力的じゃないとダメじゃない? そのためには君たちの魅力の全部を出さないといけない。「これはいやです」「あれはいやです」なんて言っていたら絶対にできない。僕は身も心もあなたたちにあげるつもりで写真を撮るんだから、あなたたちにもその覚悟がないと困る、と。それでも彼女たちが「やります」と言ってくれたから、この写真集ができました。
■篠山紀信が語る3者3様の魅力
――彼女たちそれぞれの印象についてもお聞きします。今回の企画の発案者である松井さんについては、「最初に会ったときから確信犯だとわかっていた」と言ったそうですね。
篠山 うん。彼女は最初から脱ぐ覚悟がありました。しかもあのコはね、ハダカがすっごいきれいだった。あんな女のコが今までハダカにならなかったというのは、日本にとって損失ですよ。ああいうのはちゃんと、人様にお見せすべきだと思ったね(笑)。
――高尾さんには「悩むだろうけど、最後にはやると思っていた」と言ったとか。
篠山 あのコは笑顔がいいんです。東京ドームでビールの売り子をやっていたときに大人気だったというのもわかる。だから男に対して、「こうしたら喜ぶだろうな」ってことをよく理解しているんだ。でも、そういう女のコは男の意見を気にしちゃうんです。
――もともと10代のときに地方でアイドル活動もしていた方ですからね。
篠山 それで余計に迷いがあったのかもしれないけど、自分としての確固たる作品がほしいと思っているのに、全員から「いいね!」なんて言われるものを目指しても、そんなものはあり得ないじゃない? 自分自身がいいと思えるものを作ることができさえしたら、誰がなんと言ってもかまわないんですよ。僕らは「男なんてひとりも買わなくてもいい」くらいの気持ちで作るから、男の目線なんて気にしなくてもいい。自分としてやりたいかどうかだけ考えればいい。そういうことを言ったら、次第に変わっていったよね。
――3人の中で一番辞めそうだったという結城さんは?
篠山 辞めそうだと思ったというより、「辞められたらやばい」と思っていたかな(笑)。ただ、あとから考えると実はあのコが一番の確信犯なんだよ。それは彼女が感情じゃなくて、ここ(頭)で考えて納得しようとするタイプだから。「彼氏は?」「いない」「どうして?」「女優としてやっていくうえで邪魔だから」って、そういう人なんです。実際、慶應大学の法学部というめちゃくちゃ偏差値が高いところの出身なんだよね。
――自分なりにハダカになる理屈が整理できれば、あとは信念がブレることはないということですか。
篠山 そう。だから理屈が整理できるまでは納得できなかったんだと思います。それぞれの写真集の最後には、「自分がなぜヌードになったか」という文章が載っているんだけど、彼女は「夜中に気持ちがいっぱいになって泣いたことが何度もあった」けど、撮影をやったあとでは「表現者として大成するために必要な葛藤だった」と書いているんだよね。こういうことが言える人は、やっぱり頭がいいんですよ。
――でも、3人とも表現こそ違えど、「やってよかった」「自分が変わるために必要なことだった」と書いていますよね。
篠山 うん。あれは誰かライターが代筆しているわけじゃなくて、彼女たち自身の言葉だからね。ああいう文章が載るっていうことも、これが男性目線で作られた従来の写真集とはまったく違うということを表している。「ヌードなんていやらしい」と思っている人は、まずあそこを読んでほしいね。あれは本当にすごくいい。
■私もつらい試練を乗り越えた(笑)
――実際にヌードを撮影した現場の雰囲気はいかがでしたか?
篠山 今回は今までのヌード写真集とは違って、男目線に慣れたスタイリストやヘアメイクは使わないと決めていたから、パリやニューヨークで活躍している人たちに来てもらったんです。みんな超一流の人たちですよ。服だって『週刊プレイボーイ』が借りてくるような布が少ないだけの安っぽいものじゃなくてさ(笑)、ハイブランドでそろえました。
一流の環境の中で撮影すると、彼女たちも自分が一流なんだって気持ちになれるんだよね。撮影がデジタルになって便利なところだけど、今はその場で撮ったものを見せられる。そうすると、「うわー、きれい」と乗ってくるんだよ。そうやってどんどん前のめりになっていき、いい作品を作ろうという気持ちが高まっていった。そういう共同作業みたいなかたちでやったよね。そうじゃないと、こんな本はできませんよ。
――篠山さんとしても今回のような作り方は初めての経験だったということですが、完成したものを見たとき、ご自身はどんな感想を持ちましたか?
篠山 最初から実現できたら面白い本になるだろうとは思っていたけど、想像以上だったね。僕も初めはちょっと弱気で、3人で1冊の本にしようとしていたんです。それをまず出して、反響が良ければ1人1冊もありかなってくらいに考えていて。でもさ、そういうときに限って版元(小学館)が強気なんだよ。「これは今までになかった本だから、1人1冊で出すべきだ」と言われて。そのときは「ええー!?」と思ったけど、考えてみれば、確かにそのほうが彼女たちの個性も出るし、面白いものになる。
ただ、撮影するのは僕ひとりじゃない? これは大変だなと思いましたよ。そして実際にやってみたら、本当に大変だった。結局、4冊になったからね。普通はこんなことできませんよ。だから、私もつらい試練を乗り越えたということで、非常にいい経験をさせてもらいましたよ(笑)。
◆後編⇒篠山紀信が振り返るヌード写真史「僕はヘアヌードって言葉が嫌いなんです」
■『premiere ラリューシュの館 結城モエ 松井りな 高尾美有』(小学館 4104円[税込み])
■発売記念トークイベント&サイン会
日時:2019年2月24日(日)18:30開場/19:00開演予定
場所:SHIBUYA TSUTAYA 7F WIRED TOKYO 1999
出演:篠山紀信 結城モエ 高尾美有 松井りな
詳細&申込み
https://ameblo.jp/shibuya-tsutaya/entry-12434114691.html