『火口のふたり』が公開中の実力派俳優、柄本佑さん(左)の映画体験を角田陽一郎氏がひもとく!

『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

先週に引き続き、最新主演映画『火口のふたり』が公開中の実力派俳優、柄本佑(えもと・たすく)さんにお話を伺いました!

* * *

――ご家族で映画は見ますか?

柄本 それがあんまり一緒に見ないんです。むしろ、おのおのが見てきたものを「面白いよ」って共有するような感じですね。一緒に見に行ったとしても、席はバラバラでした。

――それは面白い!

柄本 親父(柄本明さん)と俺は座りたい席が決まっているんですよ。

――そうなんですね。ちなみに自宅で一緒に見ることもありますか?

柄本 うちの親父と一緒に見てよく覚えているのは片岡修二監督の『地獄のローパー、緊縛・SM・18才』(86年)。『スケバン刑事(デカ)』のパロディのピンク映画で、スケバンと伝説の緊縛師とのバトルを描いた作品です。最終的にクレーンの先に女が縛られて振り回されます。

――それをお父さんと一緒に(笑)。

柄本 ピンク映画の関係者の方にDVDをもらったんで、「親父、これ傑作らしいぜ。一緒に見よう」と言って。そうしたら、ちょうど母ちゃん(故・角替和枝さん)が帰ってきて、「本当にやめてくれ」「うちの家族はおかしい」って(笑)。

――(笑)。映画を見る上でのこだわりはありますか?

柄本 やっぱり映画館で見ることですね。きっかけはエリック・ロメール監督の『緑の光線』(86年)という作品。中学生のときに親父に勧められて見たときは全然面白くなかったんですけど、18歳を過ぎた頃にオールナイト上映で見たら、印象が一気に変わりました。

もともとロメールの別の作品がお目当てだったんですけど、笑えるわ、泣けるわで『緑の光線』が一番面白かった。それで、「映画は映画館で見るように作られてるんだな」って気づかされました。

――とてもカッコいいです。

柄本 でも、その弊害もあって。例えばヒッチコックはほとんど見られていないんです。映画の教科書みたいにいわれている存在なだけに、映画好きとしては恥ずかしいですよね。

――主演作『火口のふたり』が公開されましたね。

柄本 荒井晴彦監督・脚本ということで、ふたつ返事で受けました。うちの父とよく仕事をしていたこともあって、もともと監督には僕が5歳くらいから知られているんです。

そこから映画好きになって、たまたまロマンポルノの『ダブルベッド』(83年)を見たときに彼の名前がクレジットされているのに気づいて、「荒井のおじちゃんって脚本家だったんだ。しかも超面白いじゃん」と衝撃を受けて以来、尊敬していました。

俳優の仕事を始めてからその思いはいっそう強くなって、「荒井さんの書いたセリフをしゃべりたい」というのが僕のひとつの夢でしたね。

――この映画の見どころは?

柄本 R-18になってるけど、実質はR-30。それくらい大人の恋愛映画です。だからこそ、見る人の恋愛経験によって感じ方が違うと思います。

そして、一応ベッドシーンもあるんですけど、それと同じくらい、ご飯を食べるシーンや寝るシーンも多いんです。人間の三大欲求、つまり性欲、食欲、睡眠欲に素直に生きる男女の話なので。

いろいろと我慢しなくてはいけない今の時代にあって、自分の欲求に素直に生きるふたりの姿は清々しく、爽やかに受け止められるんじゃないかなと思います。

●柄本佑(えもと・たすく)
1986年生まれ、東京都出身。昨年、映画『きみの鳥はうたえる』など3作品で「キネマ旬報ベスト・テン」主演男優賞を受賞

■『火口のふたり』新宿武蔵野館ほか全国公開中
配給:ファントム・フィルム

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