『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。
今週は最新主演映画『ある船頭の話』が全国公開中の柄本明(えもと・あきら)さんが「人生を変えた映画」を語ります!
■若い頃はただ楽しんでいただけ。とにかく映画が好きだった
――この連載では、人生を動かした映画についてお聞きしていくのですが、実は(柄本)佑(たすく)さんに最近出ていただいたんです。
柄本 あら、ホントに?
――佑さん、お父さんと一緒に見た思い出の映画は『地獄のローパー、緊縛・SM・18才』(86年)というピンク映画とおっしゃっていました。
柄本 あらあら、そんな話をしたんだね(笑)。
――はい、非常に面白かったです(笑)。
柄本 ピンク映画って要するに裸だけ出せば、あとは監督の世界を描いていいから、面白い作品がたくさんあるんですよね。一時期はけっこう見ていたときもありましたね。
――ピンク映画のお話からスタートしましたが(笑)、柄本さんにとっての最初の映画体験ってなんだったんですか?
柄本 うーん、そうですねえ......。やっぱり、錦(きん)ちゃん映画(歌舞伎から映画界に転じて人気スターとなった時代劇俳優の萬屋(よろずや)錦之介さんが出演した一連の作品)かなあ。例えば、『新諸国物語 笛吹童子』(54年)。今思うと、自分で映画館に行くきっかけになった作品ですね。
――何歳頃でした?
柄本 小学校1年とかだね。うちの家庭は貧しかったんですけど、オヤジもおふくろも映画の話ばっかりしていたんですよ。自分で能動的に見だしたのは錦ちゃん映画が最初かな。まあ、当時の子供たちはみんなそうだったけどね。
――子供心に響いた理由は?
柄本 単純にカッコいいじゃないですか。面白いし、ちゃんばらという見せ場もある。いわゆる、今でいうところのアイドル映画ですよね。
――俳優や劇団に進むきっかけはなんだったんですか?
柄本 とにかく映画が好きだったってだけなんですよ。でも、まあ、若い頃は「映画に出られる」なんて思わなかったですけどね。
――ただ楽しんでいただけ、みたいな?
柄本 そうだね。あとは時代のせいもあるんじゃないですかね。当時は全共闘だとか東大紛争(68~69年)、ベトナム戦争(64~73年)だとかがあって、非常にごちゃごちゃした時代で、ちょうどアングラ演劇というものが出始めた頃だったんです。だから、よけいにそういう場所がカッコよく見えたんでしょうね。まあ言ってみれば、"青春の誤解"だったんですね。
――誤解ですか。
柄本 まあ、みんなそうでしょ? 金になるかもわからないのに、何もわからないガキが「芝居やりたい」とか「音楽やりたい」って言うのは"青春の誤解"なんですよ、やっぱり。
――わかります! 僕自身もテレビマンになったのって"青春の誤解"だった気がします。というのも、『オレたちひょうきん族』(81~89年、フジテレビ)を見ていたときに、スタッフさんたちが笑っているのが印象的で。「あ、こっち側になりたい」って思ったのが原体験としてあるんです。
つまり、演者さんになるほどの能力はないけど、明石家さんまさんやビートたけしさんにイジられているスタッフは「楽しいんだろうな」って誤解したんです。それで気づけば今に至る、という。
柄本 でも、誤解は誤解でしかないんだよね。だって実際に入ってくりゃ、思っていたのと全然違いますから(笑)。
――そうなんですよね(笑)。むしろ、僕がADをやっていた当時は殴る蹴るがギリギリ残っていた時代でした。TBSなので、ザ・ドリフターズ、つまりはいかりや長介さんから綿々と連なるDNAが残っていた最後の世代でして......。
柄本 大変な時代だよね......。
――でも、テレビマンになっても子供の頃に見ていた志村けんさんと柄本さんのコントでのやりとりを強烈に覚えているんです。『さんまのスーパーからくりTV』で「ご長寿早押しクイズ」や「からくりビデオレター」などの企画を手がけましたが、僕の中ではドリフがやっていたことの延長線上という感覚です。
柄本 ドリフターズのやっていることって基本中の基本ですもんね。
――「志村! 後ろ後ろ!」みたいなのを「からくりビデオレター」でお年寄り相手にやれば面白いんじゃないか、って考えたわけです。プロがやるか、素人さんにやっていただくかが演出の違いなだけで、本質的には変わりませんから。
■今日の気分で好きな映画は変わる
――さて、話は映画に戻りますが、実は僕の人生を動かした映画ベスト5の中に、柄本さんがご出演されている『青春かけおち篇』(87年)が入っておりまして。
柄本 へえ!
――大竹しのぶさんと風間杜夫さん演じるカップルが、なんの障害もないのに駆け落ちする様子を描いた不条理なコメディ作品で、初めて見たときに「こんな面白いものがあるのか」って衝撃を受けたんです。本当に僕の人生を変えた映画で、映画館には4回くらい足を運んでおります!
柄本 あらあら。
――柄本さんが演じてらっしゃったキレるドライバーの役、僕の中で柄本さんの存在を初めて認識した作品なんです。
柄本 つかこうへいさん原作・脚本、松原信吾監督の作品ですね。懐かしいなあ......。
――毎回ゲストの方に、自分の人生を動かした映画のランキングを脳内グラフで表現してもらっているんですが、柄本さんだと軽く3000本くらいありそうですよね......?
柄本 う~ん、難しいなあ......。気分によって、えらく変わるんですよねえ。
――はい、今日の気分でお願いします!
柄本 そうですねえ、ロバート・アルドリッチ監督の『ロンゲスト・ヤード』(74年)かなあ。それとロバート・アルトマン監督の『ナッシュビル』(75年)。
――なるほど~。ちなみに日本映画ではありますか?
柄本 日本映画だとなんだろう......。気分で選んじゃうけど、小津(安二郎)さんの『お早よう』(59年)かなあ。もう完全に今の気分だから、来週には変わっちゃってるかもしれないけど。雑誌を見て「俺、『ナッシュビル』を選んでたのかよ!」なんて言ったりしてね(笑)。
★後編⇒角田陽一郎×俳優・柄本明「"本当の気持ち"は画面に映らないんだから。その人が何を考えて芝居してたっていいんです」
●柄本明(えもと・あきら)
1948年生まれ、東京都出身。1976年に劇団東京乾電池を結成、以後座長として舞台に立つ。2011年には紫綬褒章を受章した日本を代表する名俳優
■『ある船頭の話』全国公開中
脚本・監督:オダギリジョー 配給:キノフィルムズ