マンガ家・福本伸行氏(右)の映画体験を角田陽一郎氏がひもとく!

『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

前回に続き、現在、全国公開中の『カイジ ファイナルゲーム』で脚本を務めるマンガ家の福本伸行さんが大好きな映画作品を語り尽くす!

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──前編では『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)を挙げられていましたが、ほかにありますか?

福本 『蒲田行進曲』(82年)。あれも「やられた」と思いました。

──どこがお好きなんですか?

福本 最後、病院でみんなが集まっているところで、「はい、カット!」ってやって、つくり事ってことをバラしちゃうでしょ。見ている側はもうすっかり作品世界に没入しているから驚くしかない。

──禁じ手ですもんね。

福本 あと、『蒲田行進曲』は人間の心の描き方にウソがないんです。例えば、松坂慶子さん演じる小夏が、最初のほうはヤスのことなんか鼻にもかけてないんだけど、最後には好きになっているところとか。どちらかといえばさえない男であるヤスが誰もやらない階段落ちをする覚悟を決めるところとか。

──今の話って『カイジ』に通ずるところがありますよね。もちろん設定は全然違いますけど、どちらもダメ男が主人公だし、片や階段落ち、片やゲームという大仰なところも似ている。ゲームと理解しつつものめり込んでしまいますし。

福本 確かにそうだね。そうやってつくり物ではあるんだけど、だからこそ人間の心のリアルな部分をすくえるのが映画やマンガの素晴らしいところだと思います。

──ほかに影響を受けた作品は?

福本 黒澤明監督の作品ですね。『醜聞(スキャンダル)』(50年)とか。

──三船敏郎さん演じる画家が週刊誌にウソの熱愛記事を書かれて裁判になるってお話ですよね。

福本 この作品にはすごくすてきな女性が出てくるんだけど、その人は週刊誌側に買収された弁護士の娘さんで、後半で死んじゃうんです。で、ここが面白いんだけど、彼女の死はセリフでさらっと語られるだけ。でもすごくドキッとした。ほかには『生きる』(52年)もグッときましたね。

──黒澤作品にはまったのは何歳頃ですか?

福本 マンガ家になるかどうかの頃ですね。当時は池袋で黒澤3本立てをやっていて、『七人の侍』(54年)、『用心棒』(61年)、『椿三十郎』(62年)を続けて見た。

いろいろと見るうちに黒澤映画のリアリティについて考えるようになりましたね。『蒲田行進曲』でも言ったけど、つくり物なのに人間の気持ちや作中で起きる現象にウソがないんですよ。

──現在、9年ぶりに実写映画版『カイジ』の最新作が公開中ですが、そんなにたってると思えない。

福本 でしょ? 『カイジ』って不思議と、どっかで続いているような感覚があるんです。

──藤原竜也さんが今も変わらず活躍されていたり、カイジ芸人がいたりしますもんね。

福本 自分はカイジのことを「その時代を生きてる人たちの友達」だと思ってるんですね。同じクラスだったけど全然しゃべったことがないやつよりも、カイジのほうが親しいというか。

だから、今回の作品も「またあの友達が戻ってきた」という感じじゃないかな。しかも、世界観も同じだから、「やっぱりカイジはカイジのままだった」って、いい意味で裏切られない。「待ってました」と思ってくれるとうれしい!

●福本伸行(ふくもと・のぶゆき)
1958年生まれ、神奈川県出身。主な作品に『天 天和通りの快男児』『賭博黙示録カイジ』『アカギ~闇に降り立った天才~』『最強伝説黒沢』

■『カイジ ファイナルゲーム』 全国公開中
(c)福本伸行・講談社/2020映画「カイジ ファイナルゲーム」製作委員会 配給:東宝

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