遊川和彦氏(左)の映画体験を角田陽一郎氏がひもとく!

『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

前回に引き続き、公開中の『弥生、三月-君を愛した30年-』で監督・脚本を務め遊川和彦氏が登場!

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――大人になってからすごいと思った作品は?

遊川 いっぱいありますけど、坂元裕二くんのドラマはやっぱりすごいなあって思いますよ。

――遊川さんの口から坂元さんの名前が出たことに興奮しています......。

遊川 『それでも、生きてゆく』(フジテレビ、11年)で、大竹しのぶの子供を殺した風間俊介が、彼女の元を訪れるシーンがあるんです。彼が娘を殺した少年Aだと気づいた瞬間の顔、どうやって怒りをぶつけようか迷う芝居、それに対する風間俊介のセリフ......。「おいおい、いいもん作ってんじゃねえか」って鳥肌が立ちましたよね。

――あれは驚きましたし、新しい表現だなと思いました。

遊川 新しいという意味では、ラース・フォン・トリアーの『ドッグヴィル』(04年)には驚きましたよね。あれはもう変じゃないですか(笑)。壁のないセットで撮影しているのに「ここに犬小屋があります」ってチョークで書いてある。

見ていて「頭おかしいんじゃないか」って思うけど、すごく面白い。酷評する人も多いけど、やり切ることに対して尊敬するし、考えつかないことをやる人を見るとうらやましくなります。

――うらやましいんですね。

遊川 先にやられたと思うのが一番いやなんです。『弥生、三月-君を愛した30年-』も、「3月だけで30年(というアイデアで)やった人はいないだろう」と思っていますよ。

ハリウッドの大作とかは別にいいんですよ、予算的に作れないから(笑)。でも、人間を深く掘り下げることなら勝てるかもしれない。

――今作では監督をされていますが、脚本家との違いはありますか?

遊川 脚本家のほうが現場で遠慮なく物を言える、というのはありますね。監督だとものすごくコンプライアンスに気を使うんです(笑)。スタッフへの声のかけ方はもちろんのこと、役者にも「波瑠(はる)ちゃん、こういう言い方もあるんじゃないかな?」なんて言ったり。

そういうところまで気を回している自分に対して悲しい気持ちになったりもしましたけど、でも現場を止めるわけにはいかないから。

それに、これまでの日本映画は監督が甘やかされているという個人的な思いがありまして。監督さえ面白ければいいみたいな映画は一番つまらないから、「僕が誰よりも苦しんで、みんなが面白いと思うものを作ろうとしているよ」というのを態度で示そうと。しんどいですけど、でもうるさい脚本家が来ることはないからよかったです(笑)。

――(笑)。観客にはどういうふうに見てほしいですか?

遊川 最近見た映画に「人生は累積価値だ」という趣旨の言葉があって、いたく感動したんです。『弥生、三月』もまさにそれを描いていて、弥生(波瑠)は「誰に対しても真っすぐでいよう」、サンタ(成田凌[りょう])は「いつも人を和ませて幸せにしていこう」ということを積み重ねてきた。

その積み重ねって実はすごく尊いということに気づいてほしいですね。それが少しでも世の中をよくしていくことにつながればうれしい。この映画にはそんな願いが込められています。

●遊川和彦(ゆかわ・かずひこ)
脚本家・映画監督。1955年生まれ、広島県出身。脚本家として『女王の教室』『家政婦のミタ』『純と愛』『過保護のカホコ』など、ヒット作を数多く手がける

■『弥生、三月 -君を愛した30年-』全国東宝系にてロードショー公開中!
(c)2020「弥生、三月」製作委員会

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