『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。
アニメ映画『未来のミライ』にプロダクションデザインで携わった建築家・谷尻誠さんにお話を伺いました。
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──子供の頃に見て印象に残っている映画はありますか?
谷尻 初めて見たのは『ドラえもん のび太の恐竜』(1980年)ですね。映画っていうもの自体に感動した記憶があります。単純に大きな画面で見られることに感動しましたね。ストーリーのほうはあんまり覚えてないんですけど(笑)。
──映画をメタ目線でとらえているのがまさに建築家の視点というか。
谷尻 映画のことを話すと構造とかに目がいっちゃうんですよね。ストラクチャーを見ちゃう。もちろん当時はそこまでわかってないですけど。
──僕、建築については素人ですが、谷尻さんのデザインって優しい雰囲気があるじゃないですか。
谷尻 やっぱ出ちゃいます?(笑)
──自分で言うんですね!(笑)。谷尻さんが手がけた家は住んでいて楽しそうだなって思うんですよね。
谷尻 僕は作品と生活が分断しているのがいやで、生活が作品になっててほしいんです。
──谷尻さんといえば、細田守監督の『未来のミライ』(2018年)で、作中に登場する住居のプロダクションデザインを担当されたことで有名ですけど、僕あの家が大好きなんです。建物の中に段差がある家って、なかなかないじゃないですか。
谷尻 ありがとうございます。あの仕事、めちゃめちゃ大変だったんですよ。「住宅をテーマにした映画を作りたい」と最初に細田監督がおっしゃって、僕らは映画のセットを造ったことがなかったので、好き勝手にいろいろ提案してたんですけど、なかなか決め手がなかったんです。
それで、細田監督の作品をすべて見直してみたら、「坂道だな」って。『バケモノの子』(2015年)も渋谷の坂道のような階段が舞台になっていたり、『サマーウォーズ』(2009年)も屋敷に行くまでが坂道で、『時をかける少女』(2006年)も当てはまる。坂道を使って物語に緩急をつけているのが細田作品の特徴なんじゃないかって思ったんですよ。
──だから建物を坂道に造ったと。
谷尻 住宅にスロープは造れないので、傾斜地に立っている階段状の建物を提案したら、「それだよ!」って。
──面白い! 僕、一度狭い所に入ってから奥に抜けるあの感じがすごく好きなんですよ。
谷尻 実は僕が子供の頃に住んでいた家もそうだったんです。玄関を入って暗い通路を抜けると、中庭に出て部屋があるという。不便な家でしたけど、それがよかった。便利な家ってアホが増えるんですよね。考えなくても住めるということなので。
──今日イチの言葉が出ました(笑)。
谷尻 みんな便利な家を求めてるから、出来上がったときにまた新しい不便さを見つけてしまうんですよ。携帯電話もそうじゃないですか。iPhoneが出たときは神のような存在だったのに、新しいものが出るとゴミ扱いされる。
──iモードも最初は白黒でしたし。
谷尻 その点、不便な家だと考えながら生活する。工夫するからこそ愛着も生まれるし、不便さのなかにクリエイティビティが詰まっている。だから、わざと不便に設計するというのは、クリエイターを育てるのにいいんじゃないかなって思います。
★後編⇒角田陽一郎×谷尻誠(建築家・起業家)「マイノリティがマジョリティになる瞬間に立ち会いたい」
●谷尻 誠(たにじり・まこと)
1974年生まれ、広島県出身。2000年、建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICEを設立。2014年より吉田愛と共同主宰。広島・東京の2ヵ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設まで国内外合わせ多数のプロジェクトを手がける。「BIRD BATH&KIOSK」「絶景不動産」「21世紀工務店」「tecture」「CAMP.TECTS」「社外取締役」「toha」など、多分野で開業、活動