『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻、『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!
希代のストーリーテラーのふたりが昨年12月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。
今月から『週プレNEWS』へ移籍してお送りします!
―今回の「先月の肉トーク」テーマ―
400話 最高の援軍!!の巻(12月4日分)
401話 洞察の神!!の巻(12月18日分)
あらすじ
超神vs超人のバベルの塔第6戦は、キン肉マンvsマグニフィセントに決定。キン肉マンの真の実力を図りたいと語るマグニフィセントは、リアル・ディールズから外れていた参謀ミートくんの招集を許可。最高の援軍を得たキン肉マンだが、師匠であるプリンス・カメハメに似た闘い方に大苦戦を強いられる
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ミートくん招集から見えるテーマとは
爪切男(以下、爪) いよいよキン肉マン戦が始まりましたね。
燃え殻(以下、燃) 相手のマグニフィセント、カメハメ師匠に似ていると思ったら、師匠のルーツにあたる超神だった、ということがわかったけど。それとは別に、マグニフィセント、前にこの対談にも参加してくれた、デスペさん(エル・デスペラード)に似てるなあと思って。
爪 ああ、わかります。
燃 401話で出した技「グレイプヴァインクラッチ」、デスペさんの「マフラーホールド」なんだよね。キャラクターの佇(たたず)まいも、似ている気がして。彼のセリフ、僕の脳内では、デスペさんの声で再生されてる。
爪 このキン肉マンvsマグニフィセント戦って、テーマ的にはどうなんでしょうね。この闘いのために、わざわざミートくんを呼んだじゃないですか。ということは、テーマはキン肉マンの、ミートくんからの卒業?
燃 ああ! そうか!
爪 みんな超神との闘いで、何かを乗り越えてきたじゃないですか。キン肉マンが乗り越えるのはそれで、ミートくんに頼るのは今回が最後、いいかげんひとり立ちしなきゃという。
燃 それは深いかも。この試合、ミートくん、ずっと解説してるもんね。
爪 マグニフィセントが「洞察の神」だから、合うじゃないですか。「洞察の神」vs解説のミートくん。
燃 そうかあ。いやあ、爪さん、めちゃくちゃ読解力ある!
爪 ただ、そうだとしたら、これが他の作品なら、ミートくんは死にますけどね。
燃 そうだよね。でも、ミートくんは身体がバラバラになっても死なないから。『7人の悪魔超人編』で、バッファローマンのハリケーン・ミキサーでやられた時のように。
爪 そう、だから死ぬとしたら、徐々に燃えて灰になるとか(笑)。
燃 6試合目がキン肉マン、最後の試合はバッファローマンになったことについては?
爪 これでバッファローマン、試合には勝つけど、何かの理由で犠牲になって、天上界には上がれない、という展開になるかもなあ。
燃 ああ、やっぱり、死ぬのはサンシャインとバッファローマン?
爪 そうなるんじゃないかな。確かにここは、ちょっとずらしてきましたよね、バッファローマンが最後というのは。第400話の、バッファローマンが去って行く時の、もの哀しい顔はなんなのか、気になるし。(14ページ目)
燃 (ページを見直す)ああ、ほんとだ。
爪 キン肉マンに「私にとって永遠の友達だ 武運を祈るぜ!」と言われて去っていったけど、もう二度と会えなさそうな。キン肉マンは気づいてないけど、バッファローマンはわかっているんじゃないかな。こういう流れで闘いが進んできたということは、自分の相手は誰なのか、それがどれだけ手強いのか、っていうことが。
燃 確かにこのコマ、今生(こんじょう)の別れ感、あるね。
爪 と思っていたら、結果は特に何もなかった、思わせぶりなだけだった、というパターンもありますけど(笑)。保険をかけて描いておいたけど、伏線回収しなくていい、という。
燃 で、キン肉マンの試合、2011年に『キン肉マン』が復活連載してからは、4試合目。
爪 12年で4試合か。すごいなあ。でも、ちゃんと闘ってますよね。なんやかんや言って、超神は敵ではない、っていう感じはしますよね。ミートくんを呼んでくれたのもそうだし。
燃 そうだね。敵っていうよりも、試練っていう感じだね。その試練感って、他の超人の闘いの時もあった。ウォーズマンもそうだったし、ジェロニモもそうだった。だから「この闘いはどういう試練なんだろう?」という読み方になってきた。
爪 このあと、バベルの塔を上がったら、間違いなくヤバい闘いが待ってるから、その前に成長しないといけない、それを今やっているんだろうな、と思いました。だから、次のシリーズが心配ですよね。塔の上に上がったら、何人か死んでしまうのかな。
燃 そうだよねえ。
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妙な期待を煽るスクリュー・キッド調査団
爪 あと気になるのが、スクリュー・キッドのリベンジが観たい。
燃 あ! そうだ、超人閻魔に偵察任務に行かされた先で、何者かに襲撃されてボロボロで帰ってきた、それ以降描かれてないよね。何を偵察に行ったのか、襲ったのは誰なのか。
爪 どこかであの続きが明かされるはずだけど、あのまんまほったらかしってこともありえなくはない、ゆでたまご先生なら(笑)。
燃 連載時には、最後のページに「スクリュー・キッド調査団の報告が世界を変える......⁉」っていうコピーが入ってたよね。そのスクリュー・キッド調査団のことが明かされるのを期待しています、と、先生に伝えたいなあ。
爪 バッファローマン戦が終わったら、半年以上脱線して、スクリュー・キッド調査団について描いてくれたら、うれしいです。
燃 (笑)。調査団記録をね。
爪 スクリュー・キッドがどんな調査をして、誰にやられたのか。
燃 それがわかるのが今年。そうだ、本当に今回の試合のテーマが「ミートくんからの卒業」だとするならば、オカダ・カズチカの、外道からの卒業みたいな。
爪 ああ、まさにそうですね。
燃 ああいう感じになるのかな。外道はオカダ・カズチカから離れて、ジェイ・ホワイトのところに行ったじゃない? と考えると、ミートくんは、バッファローマンのところに?
爪 (笑)。それか、地上のテリーマンたちの司令官になる、参謀。『三国志』での諸葛亮。
燃 ああ、策を練るほうに行く。なるほど。
爪 あるいは、ミートくんがスクリュー・キッド調査団に合流するとか。
燃 (笑)。気に入ってるね、スクリュー・キッド調査団。でも、そもそも、ミートくんがいたというのは、キン肉マンって恵まれていたのかもしれないね。
爪 そうですよね。ミートくん、第3話からずっといるじゃないですか。ここでキン肉マンから離れたら、『キン肉マン』史上、かなりの事件ですよね。そうなったら、ミートくんはどうするのか......でも、『キン肉マン』は、乱暴な展開ができる作品ではないからなあ。ほかのマンガだったら、「やっと王子の世話をしなくてよくなったから、本来の力が出せる」って、いきなり8等身になったりとか。
燃 はははは。ああ、なるほどね。
爪 ムキムキになって「僕も闘います」とか。で、めちゃめちゃ強い。
燃 「ミートさん」になる(笑)。
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燃え殻、爪切男の「ミート観」
爪 やっぱりミートくんはいいですよね。こんなに人へ尽くせますかね、だって。
燃 うん。ほかのマンガにはいないもんね、主人公の横にああいう存在。10代の頃のゆでたまご先生、よく思いついたよなあ。
爪 確かに、ほかのマンガでは例がない。
燃 丹下段平?
爪 いや、丹下段平はジョーより上じゃないですか。もうちょっと仕えてる感があるキャラクター、っていうと......ドラえもんでもないし、コロ助でもないし、パタリロとバンコランでもない。ガキ大将に子分がくっついてる少年マンガとも違うし。
燃 元ネタ、あるのかな?
爪 『キン肉マン』以降は増えただろうけど、以前っていうと......あ、ピノコ?
燃 あ! 『ブラック・ジャック』の。そうだね、強いて挙げればね。
爪 かわいいし、そばにいて面倒を見るし、オペの助手もやる。でもミートくんは、それプラス、参謀でもある。そう考えるとすごいですよね。マンガ界において、エポックメイキングなキャラクターかもしれない。ミートくんみたいな女性、いないもんかな。
燃 (笑)。そうだね。
爪 でも、ミートくんみたいな女性は、たぶん一緒に暮らすと疲れるんですよね。
燃 はははは。爪さんらしいことを言うね。
爪 「ちゃんとされる」っていうのは、ものすごいプレッシャーなんで。スキを見せてくれない女性と暮らすのは、非常に疲れます。
燃 でも俺、女の人を尊敬したいから、ミートくんみたいな人がいいわ。
爪 燃え殻さん、言うこと聞きますもんね。
燃 うん、「掃除しろ」とか言われたいほうだから......すごい、ミートくんを語ると、それぞれの女性観の違いが浮き彫りになる(笑)。
爪 401話の、マグニフィセントに攻め込まれたキン肉マンが、コーナーポストにもたれかかって、ミートくんとしゃべっているコマ(13ページ目)、すごくいいですよね。
燃 いいよね。今日話して来たことを踏まえて、そのコマを見ると、さらに味わいが増す。
爪 このコマのままの画で、ミートくんだけ消したら......という。
燃 確かに。ミート君卒業論は、本当におもしろいかも。今日、爪さんが言うまでは、俺はその視点はまったくなかった。
でも、その爪さんの視点で観たほうがおもしろくなった、マンガが。で、その予想が外れて、ミートくんが卒業せずに終わったとしても、いいと思う。
爪 そうですね。キン肉マンがどういう勝ち方をするのか、楽しみですね。
●燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。最新著は二村ヒトシ氏との共著『深夜、生命線をそっと足す』(マガジンハウス)。ドラマ『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(漫画:おかざき真里/扶桑社)はHuluで、ドラマ『すべて忘れてしまうから』(主演・阿部寛)はDisney+でそれぞれ配信中。出演中のラジオ番組 『BEFORE DAWN』(J-WAVE、毎週火曜26:00~27:00)もチェック
●爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。2020年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。風俗嬢との公私ない交ぜの触れ合いの様子をつづった『週刊SPA!』連載コラムを一冊にまとめた『きょうも延長ナリ』(扶桑社)が発売中。集英社発のWebサイト『よみタイ』で、コラム『午前三時の化粧水』を連載中