2021年に公開されるや、各所で話題を呼びスマッシュヒット! 殺し屋女子ふたり組による「ゆるい日常」と「キレ味鋭い本格アクション」が融合した唯一無二の青春アクションエンターテイメント『ベイビーわるきゅーれ』の待望の続編『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』が3月24日より公開されている。
今回、それを記念して監督と主演ふたりによる座談会を開催。止まらないガールズトークに、監督がタジタジに!?
(本特集には映画本編のネタバレが含まれますのでご注意ください)
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ふたりはさらに仲良くなって
――前作『ベイビーわるきゅーれ』(以下、『ベビわる』)は大いに話題になりましたが、皆さんの周りに変化はありましたか?
阪元裕吾(以下、阪元) 一番大きいのは自分の演出意図が伝わりやすくなったことですね。
例えば、『ベビわる』の冒頭で人を殺した後にグダグダしゃべるシーンがあるのですが、そういう演出を、役者や製作スタッフが「おもろいやん」と理解してくれるようになった。高校演劇をやっていた頃から、「こいつは何を言ってるんや?」みたいな顔をされることばかりだったから、自分がやっていたことが10年越しに実ってきた感がありました。
――現場で話が通しやすくなったわけですね。
阪元 その意味で『ベビわる』は名刺代わりの作品です。
伊澤彩織(以下、伊澤) 私にとっても名刺になりました。どこに行っても「アクションすごかった」と言ってもらえて。
スタントの立場(編集部注:伊澤彩織さんはスタントパフォーマー)だと、危険なシーンを俳優に代わり演じても自分から話せなかったり、バレないことが正解でもあったりした。裏方仕事は隠されて当たり前だったので、この作品をきっかけに自分がやっていることを認識してもらえるようになりました。
髙石あかり(以下、髙石) 私は「杉本ちさと」のような、ハッチャけてるけど、どこか冷静さもあるキャラを演じる機会が多くなりました。
――では、前作から変わったと思う点は?
髙石 ちさと・まひろ、ふたりの距離感がより近くなりました。
伊澤 監督には「この映画で、ふたりはひとつだから」って言われています。今作で、ちさと・まひろ2ショットのシーンばかりで、前作以上に仲良しです。
髙石 実際、現実でも前作の後に伊澤さんとさらに仲良くなりました。きっと監督は、私たちの関係の変化をよくわかっていて、それを映画にも入れ込んでくださったのかなあって。
阪元 そ、そうなんですよ。
――監督の返事が怪しい!
伊澤&髙石 (笑)。
〝涙NG〟の本番で見せたスゴ技
――阪元監督は『ベビわる2』をどんな作品にしようと?
阪元 まず本作を〝キャラの内面を掘り下げる系〟の続編にしなかったのが大きな決断でした。前作はキャラクターの内面を見せる話だったのですが、今作は内面の葛藤がほぼなくなっています。
――本作は「殺し屋」という設定が持つシリアスな要素が強くなったと感じました。その点はどう思いましたか?
髙石 脚本を読んだときはうれしかったです。私はそういう部分を見たいと思っていたので。ふたりの日常が前作以上にダラダラふざけているのですが、それによって殺し屋のハードな部分がキラリと際立つ作品になったと思います。
阪元 ふたりが「死」を意識するのは、描きたかったところです。
髙石 そういえば、危機に陥ったふたりが互いの顔を見つめるシーンで、監督からは「泣くのはダメ」って言われていたんです。なのに伊澤さん、泣いちゃったんだよね。
伊澤 相方が命を落とすかもしれない、って思うと勝手に涙が出ちゃって。私、前作も泣きそうなシーンがあって、監督に相談したら「泣かないでください」って言われたので堪えたんですけど。今回は我慢できなかったんです。
髙石 でも、伊澤さんはプロだなあって思うのは、〝片目だけで号泣〟していたこと!
――どういうことですか?
髙石 そのシーンはふたりの横顔を映しているのですが、カメラの死角になる左目だけで涙を流しているんです。
――なるほど、そうすれば実際の映像には泣いているところは映らない。
髙石 そうなんです! その瞬間を見たときは思わず「どういうこと!?」って驚きました(笑)。
伊澤 本番は、こっち(右目)では涙を流さないぞ!ってすごく気合いが入りました。そのせいで変な芝居になっちゃったかも......。
髙石 いや~、すごいなと思いましたね。
伊澤 「やれ」って言われて、できるものでもないです(笑)。
あの話題作のセリフを完コピ
――『ベビわる2』は、前作と同様、たくさんの固有名詞が飛び交っていましたね。特に、映画『花束みたいな恋をした』(*1)への劇中での執拗な言及は、監督のこだわりでしょうか?
阪元 いや、あれは違うんですよ! 最初はそんなに長尺にするつもりもなくて、まず実際にふたりに『花束...』を見てもらって、どう思ったか聞いたら、髙石さんの感想が面白くて、それをセリフに反映する、って程度だったんです。でも、ふたりの会話がドンドン面白くなってきて、尺が長くなっちゃいました。
(*1)『花束みたいな恋をした』:2021年に公開された日本の恋愛映画。菅田将暉と有村架純のダブル主演。公開後4週連続で動員数1位を記録するなど大ヒット。音楽、映画、マンガ、ゲームなどの名前が大量に出てくる映画で、阪元監督は自身が作る「殺し屋日常映画」とはまったく違うジャンルでありながら、「カルチャー関連の固有名詞にたくさん言及する」という自身と同じ手法に驚きとシンパシーを感じていたそうだ。
髙石 伊澤さんのおうちでよく本読み(台本の朗読)をしていたのですが、ある日、ふたりで『花束...』を見返したとき、菅田将暉さんが「じゃあ結婚しようよ!」って言う一連のシーンを、「あそこを覚えていかない?」ってなったら、伊澤さんがかなり気合いを入れちゃって(笑)。
阪元 『花束...』のあのシーンの会話を完コピ。そこまで頼んでないのに(笑)。
――『花束...』が大好きじゃないですか!
伊澤 あかりちゃんとふたりで『花束...』を見てまねをして遊んでいたら、つい覚えすぎちゃいました(笑)。
――実際に『ベビわる2』では「まひろ」が「じゃあ結婚しようよ!」と叫ぶシーンがありますよね。
髙石 伊澤さんは「ちょっと違うんだよなぁ?」とか言いながら、演じていました。
「国岡さんに監督を取られた(笑)」
――そしてもちろん、アクションシーンは今回もすごかったです。撮影の苦労話を聞かせてもらえますか?
伊澤 真夏の撮影だったので、ラストファイトの撮影中に倒れて動けなくなりました。スタッフさんが介抱してくれて、しばらく休んだ後に復活して撮り切ったんですけど......あまり覚えてなくて。とにかく目の前のことに集中していたので、やり切ったときはうれしかったです。
共演した丞威くんとは、心身ともにぶつかり合うアクションができて光栄でした。あとは......この話、していいですかね?(監督をチラリと見る)。
阪元 え? なになに?
髙石 私、それ、わかるかも。
伊澤 ラストファイトを撮るときに監督が『グリーンバレット』(*2)の舞台挨拶でいなくなってしまったんです。国岡さん(同作の主人公)に監督を取られた(笑)。
阪元 違う違う! そのへんのスケジュールは俺が決めてるわけやないから! コロナ禍でスケジュールがズレて、大事な予定がかぶったりして、本当にあのときは頭がおかしくなりそうでしたよ! アクションシーンは、いつもアクション監督に任せて見ているだけなので、今回は一部を撮影後に見ました。
(*2)『グリーンバレット』:2022年8月に公開された阪元監督の映画。正式タイトルは『グリーンバレット 最強殺し屋伝説国岡[合宿編]』。2021年公開のフェイクドキュメンタリー映画『最強殺し屋伝説国岡[完全版]』のスピンオフ作品で、明言はされていないものの『ベイビーわるきゅーれ』シリーズと世界観をゆるく共有している
餃子パーティをして、豆苗を育てたくなる
――まあ、それはさておき、ほかにも撮影中の大変だった思い出はありますか?
阪元 エンドロール後の会話シーンは大変で、長尺のお芝居を、5テイクくらい撮り直しました。しゃべっている内容もテイクごとに違います。5テイク目は「イケてる!」と思っていたら、台本にないのに急にふたりが歌い出して......。中盤にその曲と絡めたせりふがあるので、ふたりがそれを伏線として回収してくれたんですが、歌ったらアカンやん。
伊澤 「権利」(著作権)ってものを忘れていました。
髙石 前作の撮影でもありましたよね。歌ったけど、使えないよーって。
――映像特典に期待ですね!
阪元 全部「ピー」になっちゃいますよ。でも、特典に使えそうな未公開映像は多いですよ。
髙石 私が延々と踊るシーンもありましたよね? アレ、なんで踊ったんでしたっけ? 「大魔神♪ 大魔神まひろ♪」って歌いながら踊ったんですけど、理由も経緯も全然覚えてないです(笑)。
阪元&伊澤 (笑)。
阪元 確か、ちさと・まひろが口論をしていて......急に踊り出したんですよね。
伊澤 ぜひ映像特典に入れてほしい(笑)。
髙石 私、笑ってましたもん。「いつ止めてくれるの~!? 監督~」って。なんで止めてくれなかったんですか?
阪元 実は、前作の映像特典が3分くらいしかなかったので、今回はできる限りたくさん撮っておこうと。
髙石 それで~~!?
――では最後に、『ベビわる2』の見どころをお願いします!
髙石 「約束」という言葉を大事にして見てもらいたいですね。本作のちさと・まひろのふたりにとって大切なキーワードです。
伊澤 食事シーンにも注目してほしいです。撮影中書いていた日記に「髙石あかりが食べているところが好き」って書くくらい、食事シーンが多かった。阪元さんの「食」の描き方は独特だし、特に楽しかったシーンです。見終わった後に、
かき氷や餃子パーティをしたり、豆苗を育てたいなって思ってもらえたらうれしいです。
●阪元裕吾(さかもと・ゆうご)
1996年生まれ、京都府出身。『ベー。』で「残酷学生映画祭2016」のグランプリを受賞。『ハングマンズ・ノット』では「カナザワ映画祭2017」で期待の新人監督賞と出演俳優賞のダブル受賞。『ファミリー☆ウォーズ』(18年)で商業デビュー後、『ある用務員』(20年)、『黄龍の村』(21年)、『最強殺し屋伝説国岡[完全版]』(21年)、『グリーンバレット』(22年)を発表。『ベイビーわるきゅーれ』(21年)では「日本映画批評家大賞」新人監督賞を受賞した
●伊澤彩織(いざわ・さおり)
1994年生まれ、埼玉県出身。スタントパフォーマーとして映画『キングダム』(2019年)、『るろうに剣心 最終章』(20年)、『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』(21年)、『ジョン・ウィック』新作(23年)などで、メインキャストのスタントダブル(俳優に代わって危険なシーンを演じる代役)を担当。役者としての主な出演作に映画『ある用務員』(20年)、『ベイビーわるきゅーれ』(21年)、『オカムロさん』(22年)など
●髙石あかり(たかいし・あかり)
2002年生まれ、宮崎県出身。19年より俳優活動を本格化。『ベイビーわるきゅーれ』(21年)で映画初出演。主な出演作に映画『さよなら、バンドアパート』(21年)、『とおいらいめい』(21年)、『終末の探偵』(22年)、『わたしの幸せな結婚』(23年)『Single8』(23年)など。TVドラマは『墜落JKと廃人教師』(4月6日~・MBS)、『日本統一 関東編』(4月13日~・NTV)が控えている。
映画『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』
監督・脚本:阪元裕吾
アクション監督:園村健介
出演:髙石あかり、伊澤彩織、水石亜飛夢、中井友望、飛永 翼(ラバーガール)、橋野純平、安倍 乙 / 新しい学校のリーダーズ/渡辺 哲、丞威、濱田龍臣
新宿ピカデリーほかにて全国順次公開中