『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻、『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!
希代のストーリーテラーのふたりが24年12月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。
―今回の「先月の肉トーク」テーマ―
第474話 名前の秘密!!の巻(12月2日更新分)
第475話 ぺシミマンへの感謝!!の巻(12月9日更新分)
第476話 投げ縄の名士!!の巻(12月23日更新分)
<あらすじ>
アメリカ(マッスル・ブラザーズⅢ組VSインダストリアルレボリューション組)、ソ連(ウォーズマン【クロエ】)VSぺシミマン)、スリランカ(テリーマンVSエンデマン)、レバノン(ネプチューンマンVSパピヨンマン)を舞台に、五大刻(ごたいこく)との一大決戦に臨むキン肉マンたち。宇宙超人委員会による裁定のもと、運命のゴングが一斉に鳴り響く!
●新春恒例の新日イッテンヨン、イッテンゴ
爪切男(以下、爪) 前回、棚橋社長が来てくれたから、新日本プロレスのイッテンヨン、イッテンゴの東京ドームの話から始めたいんですが。
燃え殻(以下、燃) 僕は現場に行けなかったから、配信で観た。おもしろかった! 特に2日目(イッテンゴ)、すごくなかった?
爪 すごかった!
燃 棚橋さん、泣いてたしね。
爪 でも海野翔太は、ほんとにお客さんに責められてましたね。棚橋さんは気持ちがわかるでしょうね、若い頃、同じようにブーイングを受けていたから。
燃 うん。前回、その話もしていたよね。
爪 「棚橋なんかに任せられない」ってみんな言ってたのに、そこから新日のV字回復の中心人物になったの、すごいことですよね。
燃 あと、急に決まった2日目の棚橋弘至×柴田勝頼も良かった。5分で終わりなのは残念だったけど。もっと観たかったな。それで、12月の『キン肉マン』の連載なんだけど。とにかく目まぐるしいよね。第474話で、4試合が一斉に始まって。
爪 その回は何度も読みました、情報量がすごいので。
燃 四元中継状態で、試合から試合へとどんどんカメラが替わっていく描かれ方。
爪 前に僕ら、この調子で行ったら、ネプチューンマンの試合を観れるの2年後になるんじゃないか、とか言ってたじゃないですか。
燃 言ってた、言ってた。
爪 そういうふうにならないための、この異常なスピード感の四元中継だったんでしょうね。第474話はテリーマンVSエンデマンが2ページ、ネプチューンマンVSパピヨンマンが4ページ、キン肉マンVSグレート(3代目)のタッグマッチが5ページ。で、最後の7ページがウォーズマンVSペシミマンで、そのまま第475話に続く。
燃 4試合すべて同時に始まりました、ということを伝えるために、第474話はこの描き方だったんだね。
爪 昔もそうだったように、どこかの試合が終わっていくと、負けた方に「×」が付いて、それをまだ闘っている他の超人たちが知る。
燃 ああ、あった!
爪 というのが今回もあるんでしょうね。テリーマンがまた谷底に落ちていくのを、ほかの超人たちが見ることになる、とか。
燃 テリーマン、また落ちそうだなあ。
爪 でも今回は、テリーマンは安心して観ています。キン骨マンが作ってくれた義足の件があるから、負けることはない。じゃないと、キン骨マンがかわいそうすぎる。
燃 そう思いたいよね。あと、キン肉マンとグレートの相手だということで考えると、エクサベーターとガストマンは、完全にかませ犬のはずなんだよ。
爪 うん、ですよね。
燃 そのふたりも、今ウォーズマンと闘っているペシミマンも、『キン肉マン』という物語への滞在時間が長くなさそうじゃない? でも、パピヨンマンは違う。キャラとしての強度を感じるというか、フィギュアまで出そう。
爪 ああ、わかります。デザインとかね。
燃 パピヨンマンは『キン肉マン』の世界にずっといられるチケットをもらった感じがする。あと、テリーマンVSエンデマンは、さっきの爪さんの読みだと......。
爪 テリーマンの勝ち。
燃 となると、この4試合の中で、いちばんいい闘いになりそうなのは、ネプチューンマンVSパピヨンマンじゃないかという気がする。
爪 で、パピヨンマンが2連勝して、圧倒的に強い、そういう敵側の超人がいたほうが盛り上がりますもんね。たとえば、帰ってきたバッファローマンが、無敗のパピヨンマンを倒す、という展開とか。
燃 いいね。僕がゆでたまご先生だったら、パピヨンマンだけ勝たせて物語に残すな。
爪 マリポーサとネプチューンマンに勝ったとなったら、相当強いってことになりますもんね。でもパピヨンマン、1試合目の時は、ここまでキャラが立っている超人だとは思わなかった。
燃 そう、途中で印象が変わった。1試合目の時は、爪さんが好きなマリキータマンの添え物、くらいの感じだったのに。
爪 ゆでたまご先生も、描いていくうちに、「あ、キャラ立ったわ」っていう感じだったのかもしれない。
燃 先生はこういう超人、好きそうな気がする。描いていて楽しそう。
●ウォーズマンの文学的試合
爪 あと、今の4つの闘いの中で、一番大きなテーマが背景にあるのは、クロエのウォーズマンですよね。やっぱりウォーズマンは背負っているものがデカい。対して、テリーマンは「キン骨マンが作ってくれた義足で闘う」「そしてまたデカい敵が現れる」、以上、みたいな。テーマが明確ですよね。
燃 ちょっと棚橋さんっぽいかもね、真っ向勝負な感じが。シンプルにみんながおもしろいと思えるのがテリーマンの試合。ウォーズマンは文学というか、かなりこじれてる(笑)。
爪 その比較で言うと、ネプチューンマンも謎ですよね。
燃 ああ、そうだね。ネプチューンマンとパピヨンマン、このふたりが闘わなきゃいけない必然性が見えない。というのも、ネプチューンマンがここで負ける説につながらない?
爪 ドラマが、今のところ見えないから。でもほんと、時間超人って難しいですよね。全員1億パワーあるって言っちゃってるから。たとえば、「俺は5000万パワーだけど、その代わりスピードがある」っていうならわかるけど、パピヨンマン、すごいスピードがあって飛び跳ねるのに、1億パワーじゃないですか。そうなるともう、無敵に近いというか(笑)。
燃 あと、キン肉マンとグレートは、まず勝つだろうから、そうなると、どんな勝ち方なのかが気になるな。久しぶりにマッスル・ドッキングが観れるかな、とか。
爪 期待しちゃいますよね。あと、時間超人の「超回復」はどうするんだろう? あまりにもチートすぎる能力だしなぁ。
燃 「超回復」を使うと、時間超人側が全勝してしまうから?
爪 追い詰められたらみんな使うでしょ。どれもいい試合になりそうなのに、「おい、最後はやっぱり超回復かよ」っていう展開にならないか、そこだけが心配です。しかし、だれがどういう風に打ち破るんだろ、この最強の能力を。
燃 で、ウォーズマンとペシミマンの試合でびっくりしたのが、ウォーズマンがすっかり柔術使いになってる。
爪 嶋田先生が柔術をやっているからでしょ。ケガで休んでたけど、最近復帰したから。
燃 RIZINに出れるよ、これは。リングス・ロシア感が出てる(笑)。でも、相手のペシミマンは、両腕が発射されたりして、まともな柔術の試合にならないのもいいよね。ユニバーサル(*)vsリングスみたいな(笑)。
(*)ユニバーサル・プロレスリング...1990年に旗揚げされ、本場メキシコのルチャ・リブレを初めて日本に取り入れようとした団体
爪 でも、ペシミマンのほうが人気は出るだろうな、という闘いっぷりですね。派手な攻撃が多いから。
あと、1コマずつをじっくり読んでいて気がついたんですけど、第476話でペシミマン、「そうさ、オレはこの見てくれに違わず投げ縄が得意なのさ。こうしてお前のように、遠くにいった暴れ牛を縛りつけてな」って言ってるじゃないですか。これ、次にバッファローマンと闘うというフリなのかな。
燃 ああ! そうか、それだとウォーズマンには勝つことになるね。
爪 バッファローマンがどのタイミングで戻ってきて誰と闘うんだろう、というのは、気になりますよね。
● ロビンマスク、ラーメンマン、ブロッケンJr.が活躍のアニメSeason 2
燃 あと、1月からアニメのSeason 2が始まったね。
爪 そうですね。いよいよロビンマスクやウォーズマンたち、人気超人の闘いが観れる。
燃 Season 1は、キン肉マンとテリーマンしか出なかったもんね。それで1クール作れちゃうっていうこと自体がすごいんだけど。
爪 あと、今回のメインビジュアル、週プレ51号の表4広告にも使われてるけど、キン肉マンがいない(笑)。
燃 ほんとだ。確かにこの構造だったら、キン肉マン、必要ないもんね。メインがロビンマスクとネメシス、あとラーメンマンとウォーズマンとブロッケンJr.。そういえばシーズン2のPVも、キン肉マン、セリフひとことだけだった(笑)。
爪 以前も、単行本の表紙に関してこの話をしたけど、これはすごいことだから、あらためて言っておきたいな。主人公がいなくてもメインビジュアルが成り立つ、それだけ強くて人気のキャラがいっぱいいるマンガなんて、他にないから。
燃 ほんとにそうだよね。
●燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)、『すべて忘れてしまうから』(扶桑社)、エッセイ集『それでも日々は続くから』(新潮社、1月29日文庫版発売)『これはただの夏』(新潮社、文庫版発売中)、『ブルー ハワイ』(新潮社)など多数の著作がある。最新著は『明けないで夜』(マガジンハウス)。ドラマ『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(漫画:おかざき真里/扶桑社)はHuluで配信中。『GetNavi web』にてコラム「もの語りをはじめよう」を連載中。出演中のラジオ番組 『BEFORE DAWN』(J-WAVE、毎週火曜26:00~27:00)もチェック
●爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。2020年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。『きょうも延長ナリ』(扶桑社)が発売中。集英社発のWebサイト『よみタイ』で好評を博した、美容と健康にまつわるエッセイ『午前三時の化粧水』が今春書籍化予定。ドライバーWebで『横顔を眺めながら ~爪 切男の助手席ドライブ漂流~』を連載中。主演:木村昴でのドラマ放送でも話題となった『クラスメイトの女子、全員好きでした』が文庫化