例年より3週間早く、12月頭から流行入りしている今冬のインフルエンザだが、1週間の受診者数は約139万人と、昨年同時期の約4倍もの猛威をふるっている。
うがい、手洗いなど様々な予防を行なっている人も多いだろうが、世の中で常識になっている予防法は驚くほど間違いだらけ? そこで正しい知識を週プレが特集したところ大反響! というわけで、WHOの感染症対策チームで国際的なインフルエンザ対策に従事した経験をもつ医師、村中璃子氏が解説する第2弾でさらに身を守ってほしい。(第1弾→http://wpb.shueisha.co.jp/2015/01/19/42140/)
●プッシュ式消毒液と手洗いのどっちが効果的? 建物の入り口によく置かれているジェル状やスプレー状のプッシュ式消毒液。その主成分はアルコールです。アルコールはインフルエンザを殺す効果があるので、手の洗えない環境では非常に有効です。
アルコールはインフルエンザに限らず、風邪の原因となる多くのウイルスにも有効ですが、例えば、ノロは殺せません。
感染症全般の予防において、手洗いとプッシュ式消毒液はどちらが大切かと聞かれれば、やはり手洗いに軍配が上がります。
●芳香剤型ウイルス除去剤を置くだけでは効かない!? 「置くだけでウイルスも細菌も除去」といったフレーズで売られている、芳香剤型のウイルス除去剤が人気です。
しかし、メーカー提供のデータは、シャーレや水槽の中などで濃度、時間などを最適な条件で実験した際のもの。オフィスや家庭などの実用環境における効果は証明されておらず、消費者庁から表示に関する指導を受けた過去もあります。
そもそも、インフルエンザウイルスの空気中での浮遊時間は短く、除去剤が十分に働く前に床や机などに落ちるので、空間のウイルス除去剤は必要がありません。
また、こうしたウイルス除去剤は、物の表面に付着したウイルスや細菌を除去する効果はありません。「医者が勧める」という宣伝文句も聞きますが、もしも、うたわれるような効果が本当にあるのであれば、病院などで広く使われていてしかるべきです。
意外なものから感染の危機
●スマホは便座より汚い! ある研究報告によると、ドアノブ、便座、靴の中敷きなど日常的に接する物の表面で、最も微生物に汚染されていたのは携帯電話でした!
確かに、スマホは食事をしながら触ったり、手も洗わずに触れたりするのに掃除はめったにしないので、汚れているのもうなずけます。同様の意味でパソコンのキーボードも危険です。
皆さん、あまりやっていませんが、アルコール入りの除菌ティッシュなどでこまめに掃除しましょう。
そのほか、エレベーターやATMなど不特定多数の人が触れる物の表面もインフルエンザをはじめとする感染症の流行期は要注意。オフィスでは、ドアノブや会議室のテーブルなど不特定多数の人が触れる物の表面はアルコールで掃除すると流行予防に効果的です。
●通勤電車はやっぱり注意! 通勤時間に比例して、インフルエンザや風邪にかかる回数が増えるという報告があります。
これは電車という閉じた空間の中でインフルエンザの飛沫を吸い込むケースや、インフルエンザウイルスがついた手すりやつり革で自分の手を汚染する機会も増えるからでしょう。
実際、私の患者さんでも、会社の近くに引っ越して風邪をひかなくなったという人が何人もいます。
◆村中璃子 MURANAKA RIKO 医師・医療ライター。一橋大学社会学部・大学院卒。社会学修士。北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チームでは、主として国際レベル・地域レベルでのインフルエンザ対策を担当した
■週刊プレイボーイ5号(1月19日発売)「かなり間違いだらけなインフルエンザ予防法」より(本誌では、さらに知っておくべき基礎知識を詳説!)
●参考文献:ジェニファー・アッカーマン著『かぜの科学 もっとも身近な病の生態』(ハヤカワNF文庫)