これまで、AVが誕生した80年代からカン松さん&バク山さんがブレイクした90年代中盤のお話をしてきました。今回は、"セルビデオ"界の新興勢力・SODについてのトークをお願いします!
―第5回目では、94年から95年にかけてビデ倫の審査を受けずに発売された2本のヘアビデオが爆発的に売れ、結果、セルビデオの裾野が広がったというお話がありましたが?
松尾 ここから業界の地殻変動が一気に進みますね。96年に「ビデオ安売王」が崩壊したのを引き金に、全国にセルショップが乱立するんです。
山下 安売王の一部店舗がビデ倫メーカー作品の海賊版を販売してたんですよ。加盟28社から訴えられて窮地に追い込まれて、安売王はホントあっけなく消えましたね。
松尾 それと入れ替わるようにして浮上したのが、もとは安売王の制作をしていたSOD(ソフト・オン・デマンド)です。
―SODは当初、『全裸オーディション』や『地上20メートル空中ファック』といった企画モノが中心でした。ちなみに、『地上...』は制作費5千万円の大作にもかかわらず、まったく売れず大赤字だったと。
山下 SODは話題づくりに長(た)けてましたよね。トップの高橋(がなり)さんがTV畑の人だから、対マスコミの作法を心得てるというか。
松尾 当時、新興セルメーカーSODを敵対視するレンタルメーカーはあったよね。
山下 なんで?
松尾 卸値を下げたくなかったから。その頃って、1本1万5千円の作品を問屋に50%の値段で買い取ってもらえたんです。単純計算で1本7500円の利益が出る。全国のレンタル店、約3千店舗が買ってくれるから、レンタル作品1本出せば軽く2千万円稼げたんですよ。
500万円ある。何に使ってもいい!!
―そのビジネスモデルが壊されるんじゃないかと。
松尾 で、97年かな、その予感が的中して、1本4千円という価格破壊作を市場に送り込んできたんですよ。
山下 まあ、同じAVなら問屋は安いほうを仕入れるよねぇ。とはいえ、まだその時点ではレンタルメーカーも利益を出していた。まさか数年後、セルに完全に追い抜かれるとは思ってなかっただろうね。
松尾 ところで、当時のカンパニー松尾はですね、高橋がなりさんに呼ばれて創業直後のSODへ行ってるんです。
山下 そうだったの!?
松尾 のっけから"がなり節"が炸裂(さくれつ)で、「金ならある!」と。もう『マネーの虎』(日本テレビ)のまんまですよ(笑)。それで「今までの制作費っていくら?」「60万円ぐらいですかねぇ」「500万円ある。何に使ってもいい。ウチで撮ろう」みたいな話に。でも気持ちは嬉しいんだけど、V&R魂が流れてる人間としては、いくら使えるかじゃなくて、自分が面白いと思えるものが撮れるのかどうかってことが聞きたかったんだよね。
山下 それ、言ったの?
松尾 後日、お断りしただけ。
山下 フリーの監督ってあの時期、みんなSODに流れたでしょ? その波に乗っかればよかったのに(笑)。
松尾 それまでは単体女優を300万、350万円の制作費で撮ってたのに、96年頃から200万円ぐらいまで落ちて。それで潤沢(じゅんたく)な制作費があるSODに活躍の場を求めて移ったっていう経緯はあるだろうね。
山下 結局、金の話?
松尾 いや、もうひとつ理由があって。SODは自前の審査団体「メディア倫理協会」(現コンテンツ・ソフト協同組合)を立ち上げてたんだよね。ビデ倫メーカーとは表現の自由度が全然違って、モザイクは薄いしヘアも出てて。それまでビデ倫に縛られてたフリー監督からすると、腕が鳴る環境だったとは思う。
裏インディーズが登場
山下 なるほどねぇ。けど、ビデ倫はSODが登場してもデカくて濃いモザイクのまま、表現の規制を見直さなかったよね。いずれ触れることになりますけど、その末路を考えたら、ビデ倫はそこで致命的な選択ミスをしましたね。
松尾 その後、しばらくセルビデオ界隈(かいわい)はカオス的な状況が続きます。安売王が潰(つ)ぶれても、大手や中小含めて5千軒超のセルショップが全国に残ってたんですよ。
山下 しかもそのセルショップに有象無象の"裏インディーズ"が寄りついてねぇ。
松尾 名ばかりの「自主審査AV」を卸す連中がいたんですよ。AVに鉱脈を見いだして他業種からやって来た青年実業家的な人とかね(笑)。
山下 もともとセルショップのオーナーだった人がDIY的にAV撮ったり。その怪しい感じがコアなファンにウケて、飛ぶように売れちゃって。
松尾 まあ、ブルセラ的な女子の生写真をVHSのケースに貼って売るだけの雑な作りですけどね。中身もピンキリで。でも月に100本以上リリースされてたんじゃないかな。
山下 俺が大学時代にバイトしてたテレクラのオーナーも撮ってたよ、『エロスカトイレ』ってタイトルで(笑)。
松尾 主役のスカトロ議長が糞(くそ)を評議する作品でしたね。
山下 なんのイデオロギーもなくね(笑)。DIY的AVはビデ倫と無関係なのに、なぜかレンタル店にも並んだりするほどはやってましたね。
松尾 で、そういう動きに目配りをしてた人たちが「独自審査でも摘発されない」って踏んで今度は堰(せき)を切ったように"薄消しビデオ"に走って。
山下 第1弾に小室友里が出演した『ルームサービス』(ハリウッドフィルム)シリーズとか、『すけべっ子倶楽部』(HVF社)は売れたね。
松尾 さすがにモザイクが薄すぎるってことで警察が動いて、その2本は99年に摘発されちゃいましたが(笑)。
●この続きは『週刊プレイボーイNo.43』でお読みいただけます。さらなるAVトークが全開! こちらの連載は毎週本誌に掲載中です。
(構成/黒羽幸宏 撮影/髙橋定敬 取材協力/ハマジム h.m.p アリスJAPAN SOD)
●カンパニー松尾 1965年生まれ、愛知県出身。87年に童貞のままV&Rへ入社し、翌年に監督デビュー。代表作は『私を女優にして下さい』シリーズ。『劇場版テレクラキャノンボール2013』『劇場版 BiSキャノンボール2014』が社会現象的大ヒット
●バクシーシ山下 1967年生まれ、岡山県出身。大学在学中にAV業界へ。90年に各方面で物議を醸した『女犯』で監督デビュー。以降、社会派AV監督として熱い支持を受ける。『ボディコン労働者階級』ほか代表作多数。著書に『セックス障害者たち』(幻冬舎)など