これまではお寺に行かなければ話せなかったお坊さん。近年はネットに参加し、交流ができるようになった

ちょっとした問題から深刻なものまで悩みの尽きない現代人。そこでインターネットが浸透した今、気軽に現役のお坊さんや尼さんにお悩み相談ができる!と話題なのが、Q&Aサイトhasunoha(ハスノハ)」だ。

運営するのはITビジネスマン×僧侶という異色コンビ。前編記事「坊さんが悩みを解決してくれるQ&Aサイトが『有り難し!』と大反響。不倫をやめられないなら…」では、Yahoo!やGREEでWEB事業に携わった堀下剛司代表と、共同代表で浄土宗光琳寺の副住職・井上広法氏に同サイトの面白さや、不倫や二次元などの「愛」について有り難いお話を伺った。

今回は、5年前の3.11東日本大震災をきっかけに同サイトを立ち上げた経緯や今後の展望について語ってもらう。そこにあったのは現代社会の金儲け主義に対する警鐘だった。

***堀下代表 震災前の日本って今より閉塞していたと思うんです。3万人を超える年間自殺者に高い離職率、GDPも中国に抜かれて…そんな諦めにも近い空気の中で、“あの日”が来ました。でも、震災で日本人が助け合う姿や美徳が世界で賞賛され、日本人としての底力を垣間見たんです。助け合う文化があるのだから、誇りを持って日々の生活を過ごせばいいのに、という思いがありました。

そんな時、日本人の美徳や価値観を形成してきたひとつが、「仏教」だということに気づいたんです。そこで自分の得意なインターネットで表現できないかと考え、お坊さんと親しかった妻に井上さんを紹介してもらったことがhasunoha誕生のきっかけでした。まぁ全然、仏教のことなんて知らなかったんですけどね(笑)。

―えー!(笑) 仏教の知識もなかったんですか!?

井上副住職 本当に全く仏教を知らなくて熱意だけでしたね(笑)。ただ震災後、仏教界もなんらかのアクションを起こし、社会参加をしていこうという動きが強かったんです。だから私も賛成しましたが、どうやってお坊さんを獲得するのかは課題でしたね。

堀下代表 最初は、Twitterで200~300人ほどのお坊さんにアプローチをしたんですが、1割は「良いですね」と言ってくれるものの、回答者になってくれるかというと首を縦に振ってくれなかったんです。

井上副住職 ネット上にテキストとして残ることが最大のリスクなんですよ。私たちは仏教の教えを守ることが仕事。それを破った場合は宗派から激しく叩かれ、実際に破門された人もいます。だから万が一、教えと違うことを答えてしまうと…。

金儲けだけがビジネスじゃない

―そこまで厳しいんですね! 仏の道ということで寛容であってもいいのではと…。

井上副住職 そうそうないですけどね(笑)。でも私が知り合いのお坊さんに声をかけても「怖いじゃん、ネットって」と断られる始末で。今もそのリスクを払拭(ふっしょく)できているわけではなく、たまたま上手くいっているだけ。ある意味、綱渡りの状態ですね。

堀下代表 日本にはお坊さんが約30万人いるので、1%の3千人くらいは…と思っていたんです。でも2012年11月のサイト開設時に集まったお坊さんはたったの4、5人。甘く見てましたね。少しでも仏教界の事情を知っていれば、やっていなかったかも(笑)。

―それが今じゃ約150人ですよね、すごい!

堀下代表 徐々にフェイスブックなどのSNSやメディアの情報を目にしたお坊さんたちが、全国から名乗りを上げて登録してくれるようになったんです。

井上副住職 そもそもネットがない頃は宗派すら越えられなかった。極端な話、宗派が違うと近所のお坊さんでも名前以外は知らない、みたいな感じでした。志のあるお坊さんが、宗派や地域に関係なく繋がったことは大きな価値があると思います。お坊さんの頭脳の集合体、つまり「仏教版ウィキペディア」ができたわけです(笑)。

―hasunohaでは「プロポーズがうまくいった」「自殺をやめた」など、多くの人が救われていますが今後の展開は?

堀下代表 hasunohaは全然収益化できていないんですが、今のビジネスのゴールではなく、違う形のゴールを見せられたらいいなと思うんです。たとえば、起業して上場してバイアウトして億万長者になる…というゴールが評価される傾向にありますが、それを目指した人の5年10年後は本当にずっと幸せでいられ続けられるのか、疑問に思うところがあって。長い人生の線で見た時に、本当にそれが目指すべきビジネスの在り方なのか。ただ金を稼ぐためにビジネスを拡大する価値観に一石を投じたいですね。

井上副住職 hasunohaのゴールをよく聞かれるんですけど、ゴールを決めることが目的ではなく、hasunohaが今あることが目的だと思うんです。それは人間の生き方と一緒。例えば、「将来、大金持ちになって大きなお屋敷に住みたい」ってゴールではなくて、今をどうするかってことが問われている時代だと思うんです。hasunohaもゴールは何かあるにせよ、今をどうするか。

「今」悩んでいる人に「今」どうするか答えることに特化してるサイトですから。今後の日本の在り方を少し変えるような、良いビジネスモデルを提案できたらいいと考えています。

***震災をきっかけに人々の価値観も多様化してきた。しかし日々、情報や煩悩の波に飲み込まれ、物事の本質を見失いがちな現代人には、時代を越えて変わらぬ仏教の教えが必要とされているのかもしれない。「やり方」ではなく「在り方」を見失ってしまった時は是非、娑婆(しゃば)から同サイトに駆け込んでみてほしい。合掌。

■回答者全員お坊さんのQ&Aサイト「hasunoha(ハスノハ)」現役のお坊さんたちが心や体の悩みから恋愛や仕事の相談まで回答してくれるお悩み相談サイト。時には喝を入れたり、自身の経験を基にお説教してくれたりと話題に。http://hasunoha.jp/

(取材・文/ケンジパーマ)