手足を伸ばしたり身体をひねったりすることで、身体の痛みやコリをとっていく「筋膜リリース」

今年の疲れは今年のうちに…! というワケで、大注目の健康法「筋膜リリース」に挑戦。道具を使わず、手足を伸ばしたり身体をひねったりすることで、身体の痛みやコリをとっていく医学に基づいたメソッドだ。

前回に引き続き、11万部を突破した『自分でできる!筋膜リリースパーフェクトガイド』の著者である筋膜リリースの第一人者で理学療法士・医学博士の竹井仁(ひとし)先生に話を聞いた。

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「筋膜」とは、筋肉の上を包み込む5つの膜ということは前編記事でも説明した。この筋膜をほぐすことで日常の身体のクセや偏った動作などで凝り固まった身体を解放してくメゾットが「筋膜リリース」である。

なぜリリースしなければいけないのか? それはこの筋膜に痛みなどの問題が生じると、実はちょっとやっかいだからだ。というのも、筋膜が痛くなるのでなく関節周辺に痛みを感じるという。

「理由は筋外膜・筋周膜・筋内膜のコラーゲン線維が並行して並ぶように形を変えて、腱になっているからです。緊張した筋肉が腱を引っ張り、さらに腱が関節の関節包という袋を引っ張ることで、痛みの受容器が”痛い”と感じます」

本当は筋膜が痛いのに、ひざや腕や別の部位に痛みが生じるのだ。おまけに、筋膜に起きたトラブルを他の部位がかばうことで、深筋膜を介して身体の広い範囲へ筋膜異常が波及してしまうとか。そうなると、どうなるのか?

「筋膜が自分の力でほぐれられなくなり、正しい姿勢を保ったり、正しい動作が制限されます。筋膜痛、筋出力や柔軟性の低下、運動パフォーマンスや日常生活活動の低下などが起きてしまいます。

また、筋膜は血管や神経およびリンパ管を支持するほかに、それらを(縦方向に)通過させるという重要な機械的機能もあります。そのため、筋膜がねじれると筋や血管、神経までもが影響を受けることすらあるのです」

この筋膜のねじれやよじれを元に戻し、筋と筋膜の正しい伸縮性を回復させて、筋肉を正しく動かすようにすること。これが「筋膜リリース」なのだ。

皮膚から筋肉までの構造。『自分でできる!筋膜リリースパーフェクトガイド』より

竹井仁先生は、この「筋膜リリース」を1995年に訪れたアメリカでの3ヵ月の研修で知った。

「当時は日本で全く知られていないことで、カルチャーショックでしたね。学んでなかったですし、日本では解剖学の実習でも筋膜を剥がして筋肉を露出させるので筋膜の機能を重要視していませんでした。でも、解剖をすれば筋膜が全身をくまなく包み、足までつながっていることは一目瞭然です」

筋膜の件では、日本はかな~り遅れていたということ。そこで、帰国した竹井先生は研究を重ねて日本における筋膜リリースの第一人者になったわけだ。

普通のマッサージではダメなの?

ここで、ふと疑問が浮かんだ。身体をほぐすだけならマッサージで揉んだり叩いたりすればいいのでは…。

「その筋肉のみに問題があるならば、ほぐれていきます。しかし、例えば肩こりの原因が昔の手首のケガや足の捻挫だったりすることも多く、それは筋肉の上の深筋膜が広い範囲で問題を起こしている場合がほとんど。そうなると、筋膜からほぐしていくことが大切になっていきます。しかも、各筋肉の特定の部位を適格にほぐす技術が必要です。筋膜と筋肉は全く別なので、切り離して考えてください」

だから、「筋膜リリース」は身体のあらゆる痛みやコリの根治、さらには美容にまで効くというわけだ。今回は「筋膜リリース」の基本をさらに紹介していく!

【始める前の注意事項】(1)無理して痛みがでないように、ゆっくりと伸ばす。ひとつの方法を慣れるに従い90秒以上行なえるようにする。(2)「筋膜リリース」をしている間は自分と床の位置関係を確認。身体のどこが硬く緊張しているかを感じながら行なう。(3)呼吸はゆっくり行ない、全身が上下に筒のようにほぐれていく感覚を感じながら行なう。(4)体が緊張する時間をできるだけ短くするために、朝・昼・晩に行なう。

●シェー筋膜リリース <30秒を3回行なおう!>身体の内方と外方の筋膜と、さらに対角線のつながりをリリースする。腰の横側に感じる痛みがラクになり、また骨盤の左右の高さの違いも整う。

(1)片方の手をテーブルかイスの背に置き、反対側の手を頭上に伸ばす

シェー筋膜リリース1

(2)イスについた手と反対側の足を前にしてイス側に向い交差させる。両足はひざで密着させ、前に交差した足は床に潜り込むように意識する。

シェー筋膜リリース2

(3)頭上に上げた手を頭越しに反対側へと倒していき、体全体の横側を30秒リリースする。これを左右3回ずつ繰り返す。どちらかやりにくいほうは、より時間をかけてリリースを。最終的には90秒を目標に。

シェー筋膜リリース3

歩き方をきれいに整える筋膜リリース

●見返り筋膜リリース <60秒を3回行なおう!>身体の前方と後方と、さらに螺旋の筋膜のつながりをリリースする。歩き方をきれいに整え、歩行を滑らかにしてくれる。

(1)右手と左足を前に出し、右手はテーブルかイスの背に置く。前に出した足は軽くひざを曲げるが、後ろのひざは真っ直ぐ伸ばす。足全体が筒のように伸びて、床の中に入りこんでいくような意識をする。

見返り筋膜リリース1

(2)両足は床にしっかりつけたまま、左手を天井方向に伸ばして20~30秒リリース。腰が反らないように注意する。

見返り筋膜リリース2

(3)左に身体を回して、左手を斜め後方へ伸ばして20~30秒リリース。視線は伸ばし左手を見るようにする。あごは上げないように。

見返り筋膜リリース3

(4)右ひじを曲げてテーブルやイスの背に前腕をつける。そこから、さらに身体をひねって20~30秒リリース。後ろのひざは伸ばしたまま、前のひざは軽く曲げたまま行なうこと。これを左右逆にして、それぞれ2回繰り返す。

見返り筋膜リリース4

身体が硬いという週プレバイト・スズキ。ここまでやるのもひと苦労で、身体を伸ばたりねじるだけで「汗をかいてきた」というほど。どれだけ身体が凝り固まっていたのか、とてもよくわかるが、終わってみれば「身体がスッキリしてきた!」と。

日常生活の中で、病院に行くほどではないけれど、なんとなく身体の動きが硬く不調を感じる、ちょっとした動作で痛みが出たり、力が入りにくい等。普段、気になっている状態を解消してくれる筋膜リリース。紹介した他にも肩こりや腰痛、さらには顔の筋膜をリリースすればしかめっ面とサヨナラ、朗らかな笑顔が手に入れられるメソットもある。

1年の疲れをとって、スッキリとした新年を迎えるためにトライしてみては?

●竹井仁(たけい・ひとし)先生首都大学東京大学院 人間健康科学研究科理学療法科学域ならびに健康福祉学部理学療法学科教授。筋膜に関する医療従事者向けの専門書のほか、『ためして ガッテン』などの130本以上のテレビ出演などメディアでも活躍している。今年6月に出版した『自分でできる!筋膜リリース パーフェクトガイド』(自由 国民社)は、そのメソットが余すことなく掲載されて現在11万部と大ヒット中

(取材・文/渡邉裕美 撮影/五十嵐和博)