仕事のミスで上司に怒られ、女のコの何気ないひと言に傷つき…。社会生活をしていれば、誰だって日々へこむような出来事はあるはず。
だが、それらをいちいち引きずっていてはストレスがたまる一方だ。今年こそは心機一転、些細なことにとらわれない強いメンタルを手にしたい。
そこで最近、エリートビジネスマンに実践者も多いというメンタルトレーニング法「マインドフルネス瞑想」に注目だ。『マインドフルネス瞑想入門』の著者である吉田昌生(まさお)氏に話を伺った。
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スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ、松下幸之助など世界のトップ経営者にも実践者が多いという「瞑想」。近年では、グーグル、インテル、アップルなどの有名企業も社内研修プログラムとして「マインドフルネス瞑想」を取り入れているという。
吉田氏によると、その効果は「集中力が高まり仕事がはかどる、ストレスが解消され心が穏やかになる、直観力や創造性が高まる、揺るぎない自信が生まれる」等々、何やらいいことずくめ。
しかし「瞑想」というと、座禅を組んで目をつぶり心を無に…と仏教修行のようなイメージが浮かぶが、「マインドフルネス」とはどういう意味なのか?
「マインドフルネス瞑想は『気づき』『自覚』を養うメンタルトレーニングです。今という瞬間に常に注意を向け、自分の感覚や感情、思考を冷静に観察している心の状態=マインドフルな状態に持っていくことが目標。考えごとでいっぱいの私たちの心をリセットする“心の整理術”と言ってもいいでしょう」
私たちは、過去や未来のあれこれにとらわれ「心ここにあらず」な状態になりがち。しかし、このトレーニングをすれば、雑念にとらわれず「常に今ここに100%集中する」自分になれるのだという。その基本となるのが「呼吸瞑想」だ。
「やり方は簡単です。姿勢を正して自分の呼吸に意識を向ける。意識がずれたことに気づいたら、注意を呼吸に引き戻す。これを繰り返すだけです」
瞑想で脳の構造自体が変化する
試しに早速やってみることに。目を閉じてゆっくりと呼吸をする。この時、お腹が膨らんだことに気づいたら「膨らみ」、縮んだことに気づいたら「縮み」と心の中でつぶやく。これを10回行なう……。
普段は全く気にしていない呼吸の動き。しかし、ひとたび意識を向けると、お腹が大きく動いていることに気づく。「膨らみ、縮み、膨らみ、縮み……」。たった10回でも、結構長い時間に感じられる。
「はい、これがマインドフルネスです。10回は数えられましたよね? でも、これを10分やろうとしたら、呼吸以外の雑念が生じるのもわかるでしょう。呼吸って当たり前すぎて退屈です。心は退屈が嫌いですから、瞑想しているとあちこちに思考が彷徨(さまよ)うことに気づきます」
試しに10分続けてみよう…と思ったものの、1分も経たぬうちに仕事のことやら日常の心配事やらが浮かんできて…。雑念まみれの自分を実感する。
「現代人は考えすぎ。私たちは1日6万回以上も思考していると言われていますが、その9割が同じことを繰り返し考えているそうです。あれこれ考えずに呼吸だけに10分集中するのは、相当訓練された人じゃないと難しい。しかし、雑念が湧いたら気づいて手放す、そしてまた呼吸に意識を向ける。その繰り返しで、意識をコントロールする力が鍛えられます。ネガティブな思考も手放せ、ムダなストレスが減りますよ」
たったそれだけ?というくらいにシンプルな考え方だが、最近では脳科学的にも効果が証明されたことが瞑想ブームを後押ししているという。
「マインドフルネス瞑想は筋トレと同じようなもの。繰り返すことで、脳が普段働いていないところに血液を送り込み、活性化させるのです。さらに、続けることで脳の『島』と『背内側前頭野』の厚みが増したという研究結果もあります」
「背内側前頭野」は意思決定、集中、意欲を出す、コミュニケーション等、精神活動の様々な機能を担っている部位。また、『島』は不安や恐怖を感じる『扁桃体』に信号を送っている部位だが、瞑想によりこの扁桃体が縮小するという。「瞑想を3時間行なったたけで注意力と自制心が向上し、11時間後には脳に変化が現れた」という実験結果も発表されている。“心の筋トレ”で脳の構造自体が変化するのだ。
では、実際にどれくらいトレーニングを行なえば、効果を実感できるのだろう? 吉田氏は1日10分、あるいは3分でも実践は可能だという。次回、日常生活でマインドフルネス瞑想を実践するコツを紹介する。
★後編⇒「食事瞑想」「歩く瞑想」… 話題の“マインドフルネス”を日常から正しく実践するには?
●吉田昌生(よしだ・まさお) 日本マインドフルネス協会代表、綿本ヨーガスタジオ本部講師。23歳のころ精神的にバランスを崩し瞑想に出逢う。瞑想がもたらすメンタル調整効果に感動し、ヨガ・瞑想講師の道を志す。以降、インドをはじめ世界35カ国以上を巡り、様々なスタイルの瞑想、ヨガ、心理学を学び実践する。2014年、YOGA BEING真鶴を設立し、神奈川を中心に、ヨガ・瞑想の普及に努める。「マインドフルネス」をべースにしたヨガクラスを指導。主な著書に「一日10分で自分を浄化する方法 マインドフルネス瞑想入門」(WAVE出版)ほか。「怒りが消える瞑想法」(青春出版)1月25日に発売予定。マインドフルネス瞑想入門無料メール講座配信中→ http://ma30.xsrv.jp/lp-2/ (取材・文/週プレNEWS編集部 撮影/五十嵐和博)