エジプトのカイロに着くと、そこは私の想像とは全く違う場所だった。
憧れていたピラミッドのある街は、いきなり砂漠でのんびりラクダが歩いているわけではなく、バスが到着したのは高速道路の高架下のようなところだった。
辺りには廃墟のような建物が多く、これが首都なのかと首をかしげてしまうような街並み。空気は排気ガスで汚染されていて、交通量が多く、人々は走る車に轢(ひ)かれそうなギリギリのところを上手にかわしながら道路を渡っていた。
宿まで5分程の間に5回は車に轢かれそうになりながら、なんとか到着すると「ナイル川のナイトクルーズなんていかが?」
早速、ツアーを勧められたが、窓からナイル川を望むとビルに囲まれちゃっていて、なんだか萎える…。パッと見ではお世辞にも美しいとは言えず、多摩川沿いで育った私は「地元のほうがいいわ」と久々に生まれ故郷の景色を思い出した。
エジプトはアフリカ大陸の中でも日本人に一番なじみのありそうな国だったし、栄えているイメージがあったんだけど、頻発するテロ事件の影響だろうか閑散としていた。
なんだか寂しいカイロだけれども、気を取り直してエジプトが誇る古代遺跡ピラミッドを見に行くことにした。
ところで、私はこれまでピラミッドは同じ場所に何個かかたまっているのかと思っていたが、実は138以上も点在しているらしく、さらに南のスーダンにはその倍ほどあるんだそうだ。
今回周るのはサッカラの世界最古のピラミッド、ダハシュールの赤ピラミッド、そしてスフィンクスがいることでも有名なギザのピラミッド。
カイロからは20~30km離れていて、それぞれの間も距離があるのだが、エジプトは物価が安く、宿のお抱えタクシーツアーは半日でなんと200ポンド(1200円)と破格。
「ピラミッドまでエアコンの効いた快適なタクシーでレッツゴー!」
とテンション高らかに出発しようとしていると、同じ宿に泊まるシンガポール人の旅人が「いいか? ギザのピラミッドは徒歩で見れるからな。ラクダ引きの勧誘には絶対ひっかかるなよ!」と私に何度も念を押した。
ミステリーハンター気分でピラミッド探索
サッカーラ遺跡群の階段ピラミッドは一般的な三角形ではなく、修繕中だったのもあり、なんだか工事現場のようでもあった。
次の赤のピラミッドはサイズも大きく、“ザ・ピラミッド”とでもいうべき美しき四角錐。中にも入れるというので、何か不思議を発見できないかとミステリーハンター気分が止まらず興奮。
頭を低くしないと進めない狭い階段を勢いよく進んで行くが、ズンズン、ズンズンズン、進んでも進んでもなかなか奥まで辿(たど)り着かない。
やっと階段が終わると、ミイラが出てくるわけでもなく3つの部屋に分かれたカビ臭い空洞があっただけ。ピラミッド内部に入り込めた喜びはあったけれど、落書きがあったりおしっこ臭かったり、なんだかロマンには欠けた。
内部にはさらに階段の上り下りがあり、帰りもまた上りだったため、意外とハードなピラミッドエクササイズとなり、翌日の太ももは筋肉痛でパンパンだった。
「ピラミッド周りのガイドや物売りたちは、なかなかしつこくて厄介だ」との噂があったけれど、実際はそうでもなかった。
意外に控え目な営業に拍子抜けした私は、タクシードライバーがコミッションのために一応連れて行くパピルス紙の絵画や香水店でちょっと買い物。押し売りされると買いたくなくなるけど、おもてなし上手な店でなら気持ちよく買い物を楽しめた。
しかし、そんなこんなで油断していた私は、ついついギザのピラミッドでラクダに手を出してしまったのだ。
「ピラミッドを周るには、炎天下の砂漠を何kmも歩かないといけないよ~。ラクダは楽だぞ~」というラクダ引き屋のボスの勧誘。
なんだか胡散(うさん)臭いし、旅人にもひっかからないように念を押されていたし、ガイドブックにも要注意とあった。しかし、すでに太ももはまいっているし、それにせっかくここまで来たらラクダに乗ってピラミッドを見たいと思ってしまった。
そして覚悟を決めた私は、なるべく納得できる値段交渉をすることに挑んだのだった。相手の言い値はラクダ1時間半で36米ドル(約4千円)とエジプト物価にしたら、ちょい高。端数を値切ったところで良しとし、いざラクダ乗り場に向かうと、駐車場のようなところで暇そうなラクダたちがうめき声をあげていた。
砂漠警察にとがめられたワケは…
そこにガイドと名乗る男が現れ、馬に乗り先導。英語のできないラクダ引き役の少年が、私の乗ったラクダを徒歩でひっぱりながらツアーがスタートした。
すると、連れて行かれたのは「ここが本当にピラミッドの入り口?」というような、観光客もおらずゴミなどが落ちている壁のすき間のようなところ。警備員だろうか、6人くらいの男がジロジロと私を品定めしている様子だ。
「ちょっとマズイ雰囲気だな。このラクダツアーを信じていいのだろうか。賄賂(わいろ)とか要求されないかな…」
不安になりながらもワケのわからないまま無事にくぐり抜けると、目の前には広い砂漠の景色が広がった。
これは見事! やっぱりラクダの高さからの景色は気持ちがいいし、「乗ってよかった! 最高! しばらくゆっくり眺めていたい…」と浸っているそばから、ガイドマンの暴走が始まった。
「ねぇねぇ、俺ッチの英語どお? あとさ、トランプ大統領、どう思う? マネーマネーって感じでエジプト人的な俺ッチにとっては“NOTナイス”なんだよね~」
サービス満点…というか、お調子者でトゥーマッチ。いよいよ噂のエジプト商人モード全開といった感じだろうか。
彼はどこからかクリスタル石を取ってくると、「これはキミにギフトだ。取っておけよ」と、ウインクしながら私の鞄に忍ばせた。
「写真を撮ってあげるからカメラ貸して! ほら、ピラミッドを飛び越えている写真を撮るからジャンプして! 俺は写真のプロだ!」
そう言って撮ってくれた写真は、シャッターを切るタイミングが完全に遅いので、写真の中の私は全て着地していた。
そして、砂漠警察が現れるとクリスタル石を拾ったのを見られていたのだろうか、こっぴどくしかられ「鞄から石を出せ!」と私も共犯者のような扱いを受けた。
最終的には、このひと悶着のおかげでスフィンクスを見に行く時間がなくなってしまった。
「ちょっ! それは困る! スフィンクスは絶対に見たい!」と言うと、ガイドマンは「チップをはずんでくれよ!」と言って、ものの5分ほどチラ見できただけ…。
それでも、彼の余計なサービスのせいで時間が足りなくなったとはいえ、延長してくれたし…と、たっぷりとチップをあげた私。そしたら…!
「OH! これしかくれないのかい? 俺のプラスティックハートは壊れてしまったよ! もっとくれよ。ホラ、50米ドルとか100米ドルとか持ってんだろう? ホラホラ!」
十分にあげたにも関わらず、急にカツアゲのようにマネーを要求し始めるガイドマン。最後の最後には口論のようになってしまい、せっかくの夢のような時間がちょっと悲しい感じで終わってしまった。
マリーシャのプラスティックハートはすっかりギザギザだよ。トホホ~。
まぁ噂通り、ラクダ引きだけはひと癖あったが、しかしこれもまたエジプト・エクスペリエンス。その後、街中に出ると優しいエジプト人たちが楽しく癒してくれて、無事にハートは回復しましたとさ。
【This week’s BLUE】 街中の映画館で上映されていた「誠のニッポン人」という映画! 気になるっ(笑)!
★旅人マリーシャの世界一周紀行:第143回「金と薬と車をゲットしろ!――エチオピアで課せられた3つのミッション」
●旅人マリーシャ 平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。バックパックを背負 う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】