かつてブームとなったエロ本自販機は、今も生き残る かつてブームとなったエロ本自販機は、今も生き残る

中年以上の男性にとっては懐かしい「エロ本自販機」。1975年頃の登場から3度のブームを迎え、最盛期には2万5千台が全国各地に存在したが、今や絶滅寸前の“昭和の遺産”となった。

そんなエロ本自販機を3年半にわたり400カ所以上探し出したのが、『全国版 あの日のエロ本自販機探訪記』の著者・黒沢哲哉氏だ。

前編ではそのきっかけと探し方、そして生き残ったからこそ発揮している魅力を話してもらったが、後編は本書の方向性を変えたというエロ本自販機に携わる人々についてだ。そこには間近で見てきた人にしかわからない意外な事情があった。

「最初は自販機の立地や小屋の景観が面白くて、カタログ的な形の本にすることを予定していたんですけど、だんだん探していると人が見えてくる。利用者も取材を始めた当初は長距離トラックの運転手ばかりだと思っていたんですよ。でも実はほとんど地元住民向けだったりするんです」

今の時代、DVDもあれば外に出ずともインターネットで事足りるはず。しかし、そう考えるのは狭い世界の発想だ。

「単にその人が情弱だからネットを使えないワケでもなく、数年前までインターネットブロードバンドも来てないような場所なんですよ。もちろんDVDを買いに街に出るにも往復2時間かかる。だからその周辺の人には必要性があるんです」

もちろん年齢的なこともある。黒沢氏は何度か利用者を見かけたこともあり、高齢者も少なくない。

「一度、撮影していたら古いセダンが来て、おじいちゃんとおばあちゃんが乗っていたんですよ。おじいちゃんが店内に入っている間、おばあちゃんは車の中でそわそわと待っていたことも。そうした年代の人にネット通販を教えるのも無理ですよね」

また、災害を通して感じたこともあった。黒沢氏は熊本の業者を地震直後に取材し、その1年後、本書が出るタイミングで連絡をとったそうだが…。

「震災直後は売り上げもそこまで落ち込んでなかったらしいんですよ。でも、それから落ち込んで戻らないんだよって。高齢者は一度、エロから離れちゃうともう戻らないって人がいっぱいいるんだと思います。自販機がなくなったら、もうエロに対するエネルギーはなくなっちゃうんじゃないかなと不安ですよね」

黒沢氏が興味を持ったのは利用者だけではない。業者にもインタビューを試みて、裏方の人間の姿も探ってきた。

「自販機を置いている地主の人にも会っているんですよ。『こんな田舎でもビックリするくらい売れたんだよ』とか気さくに話してくれるようなおおらかな人たちなんです」

しかし、そうした人たちも世間から悪者として見られているのが現状だという。

「エロ本自販機をネットで探していると地域の広報資料がヒットするんです。そうすると『地主が契約を盾に撤去を拒んでいる』みたいな書き方がされています。でも、彼らにとっては違約金を払わなきゃいけないから断っているだけで、強欲な地主が周辺の住民の反対を押し切って自販機を置いてるってワケでもないんですよ」

 一見、廃墟のように見える奥に自販機小屋が 一見、廃墟のように見える奥に自販機小屋が

なくなって初めて価値に気付く…

エロ本自販機がこれほど稀少になったのは、DVDやネットの登場だけでなく、行政による規制も大きい。これまでも規制が強まるたびに業者も未成年に購入できないよう対応を重ねていったが、北海道、京都、愛媛などでは全撤去を掲げ、今や完全になくなった。そうした規制は都道府県規模ではなく、小さな自治体で今でも続いている。

「ユーザーもそこに携わる人も含めて、エロ本自販機を撤去して誰が得するんだろうって思うんですよ。『エロを認めろ』『表現の自由だ』って扇動する気持ちはさらさらなくて、こっそり買ってるんだから見逃してっていう。興味がないものを全部なくすんじゃなくて、そういう人もいていいじゃないですか、という思いなんです」

 看板もなく、農家の納屋にしか見えない“ステルス自販機小屋”も 看板もなく、農家の納屋にしか見えない“ステルス自販機小屋”も

黒沢氏の情熱が詰まった裏側にはそうした思いも込められていたのだ。一方、それゆえに刊行することへの懸念もあったという。

「出す前に心配してたのは、自販機が荒らされちゃうんじゃないかって。しかし、今のところその傾向はなさそうなので安心していますけど。むしろ『近所の自販機に行ってみます』など、わりとみんな健全に自販機の魅力を理解してくれたかなと思うのでよかったかなと」

さらに刊行によって、続々と新たな自販機情報も届いているようだ。

「出した後に自分で見つけたところとか、Twitterで教えてもらったところもあるので行かなきゃなって。本を出してから変わったっていうことはなくて、僕の中では継続してるので、続編を出すかは別として新しいものがあったら回らなきゃいけないんですよ(笑)。なくなって初めて価値に気付くじゃないですけど、エロ本自販機も同じだと思います」

社会的に抹殺され、このまま消えゆくであろう「エロ本自販機」。しかし、それは郷愁だけでなく、良くも悪くも人の性に対する思いを物語っているのだ。ネットの普及でエロが手軽になった今こそ、覗いてみると違った世界が見えるかもしれない。

(取材・文/鯨井隆正)

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