宮内庁御用達の結桶師「桶栄」が作る桶。真ん中に堂々と「新吉原」のロゴが

ファッションブランドとしても有名なBEAMS、そして海外からの旅行者を受け入れる羽田空港――そんなメジャーなスポットでまさかの“吉原”をモチーフにした“お土産”が販売されている。

歴史あるひとつの日本文化といえど、エロのイメージも強い風俗街として知られるが、それでも受け入れられたのが「新吉原」だ。

江戸時代の遊女から現代の風俗街を思わせるデザインまで、運営・デザインまで全て手掛けるのは岡野弥生さん。インタビュー前編では吉原の再興にかける思いなど明かしてくれたが、さらに「新吉原」で出会った人々によって可能性はさらに広がっているという。“ちょいエロ”雑貨にかける意気込みを聞いた。

***――グッズのアイディアもデザインも営業も、ひとりでよくここまで展開できましたね。

「そうですね。女性が吉原をテーマにするはずがないという感覚を持たれていたのかもしれませんが、誰かパトロンがいるんだろう…と思われていたことも(笑)。最初はネット販売だけで、3年前、鷲(おおとり)神社の酉(とり)の市では自宅の前で販売していました。

その後に、浅草駅にある日本一古いと言われている地下街のスケートショップ『フウライ堂』にグッズを置いてもらったのがきっかけで、BEAMSや羽田空港でも取り扱ってくれるようになりました」

――いわゆる“吉原=エロい街”というイメージにも関わらず、すごいですね。自身では吉原をモチーフにした春画が好きといったことは?

「いえいえ。実は、私個人はおおっぴらな春画が大好きというわけじゃなくて。一昨年の春画展も観に行きましたが、派手でわかりやすいシーンを堂々と描いたものより、ほんのりと感じ取れるくらいが好みなんですね。エロを推し出したいとか、そういうこだわりもほとんど意識していない。

ただ、グッズにする場合は、ある程度デザインがはっきりしないと“吉原のお土産”というテーマも伝わりにくいので。デザインバランスは大事ですね。どこかクスっと笑っちゃうような要素をと」

――新吉原のブランドロゴではおっぱいがデザインされていますね。

「不謹慎だと怒る人がもしかしたらいるかもしれませんが、私は『おっぱいってそもそもそんなに悪いもの?』と逆に問いかけたい。江戸時代では、女性のおっぱいにはエッチな意味がほとんどなかったんですよ。それに現代でおっぱいのイラストがしっくりとハマる地域なんて吉原しかないでしょ(笑)」

――今日イチのドヤ顔が出ました(笑)。

「そもそも、吉原という町名や番地はないんです。吉原遊郭の名残(なごり)で“吉原”と呼ばれているだけですから。そういった中で、日本の若い人にも海外の人にも“吉原”という文字におっぱいのマークがあれば伝わりやすい。ただ、これはロゴを頼んだ友人のデザイナーが勝手に図案化してくれたものなんです(笑)。私自身、おっぱい案はなくて」

――ドヤ顔してたのに!

「ははは。でも、今ではおっぱいってすごい図案だなと思っています。ただし、いたずらにエロさを引き出して大げさにしているわけではない。『エロいものを扱っているから、あの店はアンダーグラウンド』といった印象にはならないように心がけています」

『フウライ堂』にグッズを置いたことをきっかけに「岡野弥生商店」にもスケボーが

職人さんたちがエロくしようとする(笑)

ちなみに山に見える部分は、遊女のランク付けを示す入山形(いりやまがた)という図案を崩したもの

――商品はヒノキの桶や染物など、本格的な職人さんとのコラボレーションも見ものですね。

「一流の職人さんたちが協力してくれているんですが、各職人さんも普段のお仕事ではあまり前に出てこないというか、アピールが苦手なんです。そこで私が新吉原のデザインやアイディアを出していくことで、職人さんたちの技術の新しい魅力をお伝えできればいいかなと」

――艶っぽさをテーマにしたような商品は、普段の仕事ではなかなか作ることがないでしょうし。

「各職人さんも、新吉原の少しエッチなデザインやコンセプトに関心を持ってくれるんですよ。だから私よりエロくしようとする(笑)。伝統的なものを作る若手の職人さんたちほど、他にはない新しいものも同時に創りたがるんだと思います」

――挑戦しようという職人魂ですかね(笑)。

「ちなみに、手ぬぐいの刺繍を入れてもらっているのは、山谷にある刺繍屋さんなんですけど、『地元からこういうブランドができるのはすごく嬉しい』と、インスタグラムを通じてそこの娘さんからご連絡をいただいたのがきっかけなんですよ」

てぬぐいやべっ甲のかんざしなど、職人が手掛ける逸品が並ぶ

――若い人たちが『新吉原』を支持しているんですね。浅草は外国人人気も強いですが、『新吉原』も日本文化として外国人からも注目されそうですよね。

「いえ、私は『和の商品だからインバウンド向け』とか『英語で情報発信!』とか、そういうくくりがもうすでに時代遅れだと思っているんです。どの国の何であっても、商品として『良いものは良い』んですよ。だから変に自分のブランドの“和”を意識していませんし、基本的には日本のことがわかる人向けに作っています。

だからブランド名も一切、英語を使わなかったんです。本当に好きなものを見つけた人は、たとえ外国人でも自分でどんどん調べてきますから」

――西浅草の店舗にしかないアイテムもあるとか…

「雑貨で表現しているセクシー要素が誤解されることも多いので、メディア取材ではあえて大きく出さないアイテムを実店舗には置いています。なにぶん、お土産屋なので、ぜひ店舗まで足を運んでくださると嬉しいですね。あとは地方にも注目しています」

――というと…。

「お店を閉めて地方催事に行ったりしているんですが、それで行った場所の面白いものを教えてもらいつつ、考え方が合う職人さんや面白い方と繋がってコラボするとか、だんだんと広がっていけばといいなと思います」

――東京の“ひとつの街、ひとつの地域”から発信するブランドということで、今後の展開が楽しみです。

「『新吉原』では、吉原で生まれ育った自分自身の世界観が打ち出せていればいいと思っています。ビジネスを広く展開したい感覚はないんです。吉原は、かつて流行の一大発信地でもあった場所。でも若い人ほどどんな場所なのか知らない人が増えているので、あらためて歴史ある地元の魅力を発信していきたい。カストリ書房(※)の渡辺(豪)さんや他の方々ともどんどんアイディアを出し合って、これからも自分の街のことを盛り上げていきたいですね」※吉原で同時期に店を構えた日本の“遊郭”専門書店

***400年の歴史がある一方で、現代東京において一種の独特な都市空間になっている吉原。岡野さんが創作する“ちょいエロ”吉原土産は、遊郭から赤線、そして現代のソープ街へと続く「街の歴史」の中で、ひとつの新しい風を巻き起こしている。

(取材・文/赤谷まりえ)

「地元がバカにされている」という思いからブランドを立ち上げた岡野さん。今では地方にも興味を持ちはじめている

■岡野弥生商店

吉原生まれ育った“土産商”岡野弥生がデザインする粋な土産物店。吉原をモチーフにその男女を描いた土産は、ユニークなデザインで注目されている住所:東京都台東区西浅草3‐27‐10‐102 営業時間:12:00~18:00 定休日:不定休(HP、もしくはInstagramにて要確認)【公式HP】http://shin-yoshiwara.com/ 【公式Instagram】@shin_yoshiwara