陸送される箱根登山鉄道

箱根の山を60年走り続けた、箱根登山鉄道の110号車両が引退した。

引退後、スクラップの可能性もあった電車を、「ひとりの鉄オタが買い取った」という情報を入手した週刊プレイボーイ本誌は、彼の元へ輸送されるXデーをキャッチ。前編記事に続き、追跡取材を敢行した。

■埼玉へ向かうと思っていたら……

陸送作業3日目となる5月11日も晴れ。午後10時にトレーラーが停車していた場所に戻ると、まだ出発しない様子。今夜こそ、鉄オタドクターが待つ埼玉へと向かうはずだ。そして深夜0時19分。3日目の移動が始まった。

3日目となると、さすがに追っかけの鉄オタも少ない。国道357号を千葉方面に曲がると、トレーラーは一目散に千葉方面へ。どこから埼玉方面へ向かうかと待っているうちに千葉市へと入っていくではないか。今回の輸送を担当するアチハ株式会社の前野治氏に確認すると「電車がたくさん保存されている、千葉県いすみ市の『ポッポの丘』にいったん運ぶ」と言う。

鉄道車両を運ぶためには、「置く場所」や「運ぶルート」などの調査が必要で、輸送の話が決まってから、自宅に届くまで長ければ数年かかることもあるという。今回は箱根登山鉄道の車両をできるだけ早く撤去しなければならず、ドクターがまだ電車を置くスペースを用意できなかったという事情もあり、やむなく一時的に「ポッポの丘」に置くことになったそうだ。そして、ドクター側の受け入れ態勢が整ったところで、埼玉へ持っていく計画だという。

「『ポッポの丘』にある車両は弊社が運んだものが多く、敷地内にはまだスペースがあるので置いていただけることになりました」(前野氏)

都内からは何度も鉄道車両を運んだ実績のあるルート。トレーラーは快調に「ポッポの丘」へと向かう。

市原から山道に入り、茂原を過ぎ、目的地に到着したのは空がうっすら明るくなり始めた午前4時15分だった。

AM1:10 東京湾沿いの国道を東に進み、千葉市に入る。車両を買ったのは埼玉の鉄オタだが……

AM4:15 箱根から運ばれた電車が到着したのは、いろんな種類の車両が並ぶ千葉県の鉄道広場「ポッポの丘」。なぜ埼玉じゃなく千葉に!?

9月末まで「ポッポの丘」で展示

■ホンモノ鉄が今、増えている!?

作業を終えた後、あらためて前野氏に話を伺った。

「ご連絡をいただければ、ルートを調査してお見積もりを提出します。本物の車両に興味のある方は増えているようで、購入された方から月に数件の依頼があります」

輸送費については、

「ハッキリとは言えませんが、『思ったより安かった』とおっしゃるお客さまが多いです。ただ、SLは重量があり、構造が複雑なので、費用がかかります」とのこと。

明確な金額を聞くことはできなかったが、自動車の新車を購入する以上の覚悟がいるようだ。

今回、箱根から移動した電車は、9月末まで「ポッポの丘」で展示される。その間にドクターは、車両を置くスペースを造るという。

鉄オタドクターの陸送プロジェクト第2弾は10月に再開される予定だ。もちろん本誌では、ドクターの手元に電車が届くまでを今後も追いかけていく。

(取材・文/渡辺雅史[リーゼント] 撮影/田中一矢)