プロレスさながらのロックアップから、ギシギシと不穏な音を立てて相手の顎(あご)を挟み込み、時に豪快に投げ飛ばす!
そんな、見ているだけで男の本能が刺激されること必至のクワガタ相撲の祭典に、週プレ記者がエントリーしてきました!
■石垣島でビッグな相棒をスカウト
9月初旬、俺は、石垣島にいた。なんのため? そら、クワガタ採集よ。
ことの流れは、こうだ。知り合いのクワガタ大好きカメラマンと酒を飲んでいるとき、彼がクワガタ論をぶち始めた。テーマは「国内最強のクワガタは何か?」。大の大人がバカだな~と鼻で笑いつつも、クワガタに熱中した幼少期を思い出し、胸がキュンと高鳴った。そして、酔いのせいか、気づくと夢中になって耳を傾けていた……。
世の中には「クワガタバトル」というリアルファイトがあるという。2000年代、ゲーム『甲虫王者ムシキング』の流行によるクワガタブームの頃は、全国各地で大会が開催されていたそうだ。オーナーはスポーツカーで会場に乗りつけ、賞金総額150万円なんていう豪勢な大会もあったとか。今やブームはだいぶ落ち着いてしまったが、それでも今なお、クワガタで世界チャンプ育成を夢見るバトラーたちは存在する。
現在、事実上の“世界一”を決めるといわれる大会(外国人はこんなことやらないらしい)が、年一回、秋に東京・大森で開催されている「ドルクスチャンプ杯」だ。しかし、そこは外国産クワガタの独壇場だという。それを聞き、俺の心に火がついた。その大会に、国産最強クワガタで乗り込む――。「クワガタ版・メジャー挑戦物語」である。
そう、俺は、クワガタ界にトルネード(パイオニア・野茂英雄に引っかけて)を巻き起こすのだ!
チャンプ杯は、「80mm以下級」「90mm以下級」「100mm以下級」「無差別級」の全4階級。体が小さい国産の場合、「80mm以下級」が精いっぱいらしい。前出のカメラマンによれば、国内最強といわれるのはサキシマヒラタクワガタで、石垣島と西表島(いりおもてじま)に生息するという。
そこで、早速石垣島へサキシマのスカウティングに出かけた。現地では、クワガタ好きが高じて石垣島に移住してしまった西野嘉憲(よしのり)カメラマンの協力を仰いだ。
「僕が捕ったのでいちばん大きなのは74mmぐらいかな。73mmぐらいから急に捕れなくなる。野外の最高記録は79mmぐらいだけど、そんなのおったらバケモンですよ」(西野氏)
夢の80mm近い個体は、言ってみれば、大谷翔平クラス。ならば、せめて70mmオーバーを獲得したいところだ。
最も有効なトレーニングは、自信をつけさせること
採集2日目、森の中に仕掛けておいた発酵パイナップルを見に行く。ひとつ目のトラップのパイナップルをめくり上げると、大きなサキシマがへばりついていた。
イターッッッ!
これは、でかい! 物差しを当てると「73・3mm」。これなら十分、ドラ1クラスだ! リングネームは、ヒラタクワガタ種に敬意を表し、「平田君」に決定した。
結局、計3日間採集したが、70mmオーバーは平田君のみ。所属選手が1匹では心もとないので、某昆虫ショップで、75mm超のサキシマを9800円で購入。こちらはブリード、つまり養殖モノで、マンガ『あしたのジョー』にちなんで「ジョー」と命名した。
■ワイルド(野生)か、ブリード(養殖)か
クワガタバトラーは野外で採集した個体を「ワイルド」と呼ぶのだが、バトラーにはワイルド派とブリード派がいるのだという。ワイルドの強みは、自然界で生き抜いてきたゆえの荒々しさ。相手がどんなに大きくても、ひるまずに立ち向かう。一方、ブリードは栄養価の高い人工餌で肥大させているため、とにかくデカい。
古豪バトラーの斎藤徹也さんは、断然、ブリード派だ。
「ブリードは、爪や顎が摩耗していないのがメリット。僕はショップで、実際にクワガタを自分の指にからませて、つかまる強さ、爪の鋭さを試します。だから、僕の指の皮膚はボロボロなんです(笑)」
ちなみに、大型ヒラタの顎は、相手クワガタの胴体を切断してしまうほどの力があるので、素人は絶対にまねしないように!
ともあれ、ワイルドの平田君と、ブリードのジョーは、今日から、週プレの本拠地・神保町にちなんでつけた「神保町ジム」の所属選手となった。ここからは試合に向けた本格的なトレーニングの開始である。ドルクスチャンプ杯の主催者のひとりである堀井浩達さんは、こう助言してくれた。
「クワガタの最も有効なトレーニングは、一にも二にも、自信をつけさせることです。へたに強い相手とやらせて自信をなくすと、二度と戦わなくなってしまう。その加減が、本当に難しいんです」
さまざまな育成情報を入手した俺が毎日行なったのは、調教スティック(棒の先に死んだクワガタの顎をつけたもの。バトラーの必需品)を使い、平田君とジョーの足や顎を刺激することだった。これをやるとふたりは興奮し、右に左にとステップを踏み、突進したり、顔を上げて顎を大きく開いたりするのだ。
さらに試合前日は彼らの闘争本能を呼び覚ますため、石垣島で採集した小さなクワガタとスパーリング。これで準備万端整った。
★負けても戦い続ける“戦闘マシーン”! クワガタ相撲のディープすぎる世界【後編】
(取材・文/中村 計 撮影/下城英悟)