今から約12年前の2005年、“ギャル社長”という肩書きで突如ブレイクした藤田志穂という存在を覚えているだろうか。
05年に19歳でギャル誌の読者モデルをしていた彼女は「ギャル革命」を掲げ、シホ有限会社G-Revoを設立。09年には「ノギャルプロジェクト」を始めるなど、キャッチーなワードや「ギャル」&「社長」というギャップがメディアの目に留まり、連日のように情報番組やバラエティ番組に出演していた。
ギャルへの偏見をなくすため“ギャル社長”として一躍有名になった彼女だが、「ギャル革命」から「ノギャル」を経て、現在は「ご当地!絶品うまいもん甲子園」(以下、「うまいもん甲子園」)というイベントを開催。自ら発起人として若い世代を支援する立場になっている。
今までもこれからも“架け橋”になりたいという藤田。前編記事では多忙を極めた当時の周囲からの批判や自身の迷いを明かしたが、今回は「ノギャルプロジェクト」から「うまいもん甲子園」に至った経緯と、自らの経験を通して成功した理由を語った。
*** 「当時、周りにいた情報感度の高い人たちが、これからは農業だって言っていたんです。でも全然ピンとこなかったんですが、田んぼを持っていた祖父が今はもう貸しているという話を聞いて、意外と自分の身近なところでも起きている問題なんだと。その深刻さを若いコたちへ身近に伝えたいと思って『ノギャルプロジェクト』を始めたんです」
2009年に始めた「ノギャルプロジェクト」ではギャルを中心に若い女性40人を全国から集め、農業体験ツアーを敢行。お世話になる農家からは好意的に受け入れられたが、「農業舐(な)めるな」という手紙が届いたりと、ここでも非難が…。しかし、これまた大きな注目を浴びた。
「最初、友達にはBBQやるからって騙し討ちのように連れていったこともありました(笑)。でも、今まで体験した事がないことだったので、疲れながらもとても楽しんでくれましたし、かなりマスコミの人が来ていて、稲刈りの時はヘリが飛んで空から撮影していました。そのあともEDWINさんとコラボさせていただいたり、少しは若い人に農業のことを知ってもらえたかなと思います」
さらにツアーに参加した人には、藤田自身も想像していなかった意外な影響があった。
「高校生だったギャル友達は進学するつもりもなかったんですけど、大学生のツアーメンバーから大学の話を聞いて進学したり、ずっとニートだったコも海外留学したいと言って仕事を始めたり、思ってもみなかったところでたくさんの影響があるんだなと思いましたね」
そこで作った米をシブヤ米としてハチ公前で無料配布すると、翌年は許可が下りないほどマスコミや観客が殺到。“ギャル社長”として一世風靡した後もプロジェクトを成功させたのだ。たびたび世間を賑(にぎ)わした彼女だが、今こう振り返る。
「ギャル社長で注目されて、すぐ消えるって言われてた中で、やっぱり消えたくないというのは自分の中でありました。ここで潰れてしまったら『ギャルだったからね』で終わるから、注目というか何かを動かし続けていないとって。
もうひとつが、周りからも『志穂ちゃん、何かできないかな』と言われることも多い中で、自分がフィルター役として世の中に発信することができるんだったら、やってみたら少しは何か変わるんじゃないかって思ってたんです」
今のコは「世の中ってこんなもんでしょ」と…
「ノギャルプロジェクト」までは“ギャル”という肩書きで関心を集めたが、それ以降は“ギャル”を打ち出していない。もちろん世の中にギャルがいなくなったことや、本人もギャルに見られなくなったという背景もあるが、あえて出さないようにしているという。
『うまいもん甲子園』は一過性にしたくないんです。最初に一気に注目されてしまうとその分、注目度も下がって、廃(すた)れたように見えてしまう可能性もあるので。でもこの企画は高校生が主役で、それを応援することや支えることが全てなので、それを徐々にたくさんの方に見てもらって何年も続くものにしたいと、私の意識も変わりました」
「うまいもん甲子園」を始めたきっかけは、「ノギャルプロジェクト」を通じて、農業高校の生徒に出会ったことだった。藤田がそれまで行なってきたことは全てきっかけ作り。彼らに出会った時に「このコたちを伸ばすことが第一次産業のためになる」と思い、彼らを支援するこのプロジェクトが始動した。
「前はギャルという言葉を使って『私、こんな頑張ってるのに大人って大丈夫? 私たちに負けないようにしなきゃいけないんじゃない』ってくらい強気だったんですけど、今は自分が彼ら彼女らを応援する側にならなきゃいけないので、どうすれば大人の人たちが応援してくれるかを考えなければいけないって。10年経って、考え方が真逆になりました」
それを「勝手な使命感」と言いながらも自らが“大人”になった今、子供達を支援し、彼らと触れ合う中で何を感じているのか。インターネットが普及する中で当時の自分たちとは大きな違いがあるという。
「純粋なコももちろんいるんですけど、『世の中ってこんなもんでしょ』みたいに妙に大人ぶってるコも多い印象です。情報が多いからいろいろなことを知ってるんでしょうけど、自分の目で見たものを信頼できるような環境がもっとあったらいいなって思います。確実かもわからない情報に惑わされて、これをやったら失敗するんじゃないかとか二の足踏んでいるんじゃないかなって」
彼女自身、これまでとにかく人に会い、自分たちのPRをするために直接、ラジオ局へ乗り込んだりと自分なりの方法を模索してきた。「恥ずかしさとか関係なかった」わけで、常にあったのは目的を達成するためにシンプルに行動することだけだった。
「シンプルに考えればいいと思うんです。私は自分の中の“優先順位”をはっきりさせて、それをやるためにはどうしたらいいかって物事をシンプルに考えていたので。それがあったから形になったと思っています。
信念っていうと大きすぎる気がするんですけど、優先順位を付ければ、迷った時に1番大切にしていることに繋げるためにはどうしたらいいか、というシンプルな考え方ができて、若いうちは勢いもつけられるんじゃないかなと思います」
初開催時の参加チームはわずか50チームだった「うまいもん甲子園」は、6回目を迎えた今年、約400チームにまで増加。じっくりと時間をかけながらも着実に広がっている。かつてギャル社長として脚光を浴びた藤田のプロジェクトは今もまだ続いているのだ。
(取材・文/鯨井隆正 撮影/五十嵐和博)
●藤田志穂(Fujita Shiho) 1985年生まれ 千葉県出身。ギャルのイメージを変えるため「ギャル革命」を掲げ、19歳で起業。現在はOffice G-Revo株式会社を設立し、高校生の夢を応援する食の甲子園「ご当地!絶品うまいもん甲子園」を中心に人材育成や地域活性化等を行なっている。詳しくは公式HPにて http://www.o-gr.net/index.html
●「ご当地!絶品うまいもん甲子園」 2011年より藤田が発起人となり立ち上げた、高校生が地元の食材を活かしたアイディア料理とプレゼンテーションで競う料理コンテスト、今年で第6回を迎え11月4日(土)に決勝大会を東京浅草「まるごとにっぽん3F」で開催、翌5日(日)には東京丸の内で行なわれる「JAPAN HARVEST2017」内で決勝大会進出校の再現メニューも販売される。公式HP http://umaimonkoshien.com/