中央アジアの旅も最後。タシケントの安宿で帰国の調整をしていると、その夜はどうもゲストが多く賑(にぎ)やかだ。
「アノ、アナタハ日本人デスカ? ウルサクテスミマセン! 迷惑デハナイデスカ?」
礼儀正しく話しかけてきたのは、おでこのツルンとした昔のアムロちゃんみたいなカワイイ女子だった。続いてイラン系の顔立ちの美人やロシア系の色白女子、おさげの純朴そうな乙女なども日本語で挨拶をしてきた。
突然の流暢な日本語に驚いたが、彼女たちは明日、この首都タシケントで開催される日本語検定を受けるために各地から集まった学生たちだった。ウズベキスタンにはJICAが運営する「ウズベキスタン日本人材開発センター 」という施設があり、そこで日本語を学ぶ若者は多いらしい。
またフェルガナ地方の田舎町リシタンには「NORIKO学級」というボランティアの日本語教室があり、その小さな町では日本語の挨拶が飛び交うのだとか。
明日、そこの生徒たちにも試験会場の近くで会えるというので、少し調べてみた。「お金の無い子供達が勉強できるように」という日本人創設者の理念を受け継ぎ、学級は今も無料開放をしているがその運営は大変なようだ。使い込んだ椅子は壊れていたり、1cmもない丸まったチョークを使っての授業、校長の奥さんはイスラム圏では珍しく共働きで教室を支えている。
日本人旅人の中には、先生としてボランティア活動をしたり、クラウドファンディングで資金を集めて寄付している人もいるようだが、私もいつかそこで授業をしてみたいと思った。
さて、生徒たちが勉強中のところ申し訳ないのだが、日本語が通じるのをいいことに少し話を。
「なぜ日本語を学ぼうと思ったの?」
ある女子にそう聞くと、自分は子供の頃から「ヘンなもの」に興味を持つところがあり、初めて「漢字」を見た時にすごくインパクトを受けて面白いと思ったそう。しかし、周りの友達に変わり者だと思われるのがイヤで、漢字が書いてある雑貨をコッソリ買ったりしたんだとか(笑)。
「将来の夢は?」と聞くと、日本語を使って働いてみたいという。彼女たちは日本に憧れて、日本の文化や技術への強い興味を持ち、また家族のために日本で働きたいという気持ちがあるそうだ。
介護や医療現場の人手不足が問題となる日本では、彼女たちのように日本語の話せる海外からの働き手が必要とされている。これからの未来、私たちを支えてくれるのは心優しく美しいウズベキスタンのコたちかもしれません。
私の一番好きな漢字は“便”なんです!
生徒たちの親日っぷりは明らかであったが、他にも日本を好きになった秘密の理由があるという。恥ずかしいからと言うのを、頼み込んでなんとか教えてもらうと(彼女の気持ちを尊重したいので、名前は秘密にしておこう)、その理由は全く恥ずかしいことではなく、むしろ日本人にとって嬉しい話だった。
彼女は漫画の『ナルト』が本当に好きなんだという。ナルトは幼少期に「孤独」というトラウマを抱える主人公だが、彼女自身にも同じような経験があり、とても共感を覚えたのだそう。恵まれない環境でも明るく元気に生きていく姿に勇気づけられ、それに救われたから日本のことも好きになった。
「素敵な理由だよ! 全然恥ずかしくないじゃん!」
私はそう言ったが、思春期のピュアな女のコが恥ずかしいと言うのだから、そうなのであろう。そういえば私も子供の頃、漫画家になりたいと思うほど漫画好きだったが、アニメ好きとかオタクとか思われるのは恥ずかしいと感じていたっけ。
ちなみにイスラム圏への日本アニメの普及は、これまでも宗教や文化の違いから難しいとされてきた。日本センターでアニメ祭りが開催されたりはしているが、私が今回、中央アジアを旅してきた限りでは、他国と比べて目にすることは少なかったように思える。
それでも、日本のアニメや漫画が観たいから日本語を学ぶというウズベクっ子はたくさんいる。
話が長丁場になり、だいぶお茶でお腹がいっぱいになってきたが…、
「ちょっと便所に行ってきます」
え! 便所って(笑)! 「女のコはトイレって言ったほうがいいよ。便所って…(笑)」。私がびっくりしてそう言うと、「私の一番好きな漢字は“便”なんです。すごく素敵」
えええ! なぜ!? 便ってのはアレのことだよ! それこそ恥ずかしがってよ(笑)!
「そうなんですか? でも郵便もそうだし、“便”って手紙の意味があるじゃないですか。意味も音も形もとっても美しいと思うんです」
だって! まあ、我々日本人もトイレに行く時に「お花畑に行ってきます」のように表現する時がありますが、「便りを届けに行ってきます」と言えば、奥ゆかしく上品とも取れる…?
ならば、わたくしもちょっと便りを届けて参りましょうか。オホホ。それでは、ごきげんよう!
【This week’s BLUE】 ウズベキスタン伝統の茶器。珍しくワレモノをお土産に購入したが、私はこれでお茶を飲む度にウズベキスタンを思い出している。
★旅人マリーシャの世界一周紀行:第180回「ピンク大好き韓国女子。美意識が高すぎて“お胸パック”まで!?」
●旅人マリーシャ 平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】