見た目の美しさだけでなく、実は健康に様々な影響を及ぼしていた歯並び。とはいえ、成人してから、ましてや30~40代からの歯列矯正は現実的なのだろうか?
前編に続き、矯正歯科専門医で『国際人になりたければ英語力より歯を“磨け”』著者の宮島悠旗(みやじま・ゆうき)氏に聞いた。
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―矯正は子供時代に行なうのが一般的ですが、30代や40代からでも遅くないんでしょうか?
「そうおっしゃる方は多いですが、いくつになっても遅くないです。人生100年時代ですから、50代で矯正する方も珍しくありません。その場合は、見た目もありますが、より健康に重点を置いている方が多いです。よくあるきっかけとしては、歯にかぶせ物やインプラントが必要になった時に矯正して噛み合せをよくすることで長持ちさせたいと。1本35万円程度のインプラントを2本入れると、矯正と同じくらいの治療費になりますからね」
―何本もインプラントになる前に矯正したほうが経済的だと。費用は70万円くらいということですか?
「全体矯正で70、80万円~が目安になると思います。都心だと高めなど多少、差があります。将来の健康と美しさを得られると考えれば、決して高い投資ではないと思います」
―中年からの矯正でも理想通りの歯並びにできるんでしょうか?
「それは歯周病と関連しています。歯周病は歯を支える顎の骨が減ってくる病気ですが、歯周病が進んで歯がぐらぐらして抜けそうな場合、大きく動かすことができません。進んでいなければ、理想通りにできる可能性は高いです」
―そうなんですね。歯も長持ちするし、見た目も当然良くなりますよね?
「第一印象が良くなるメリットは大きいでしょう。口元は顔の印象の3割を占めるという科学的なデータがあります。つまり、歯並びのコンプレックスが大きい方は、治したら魅力が3割アップするんです。信頼感が高まり、ビジネスにも良い影響を与えるでしょう」
―清潔感がアップして女性ウケも良くなりそうです。さらに、矯正で若く見える効果も?
「年を重ねると、長年の噛む力で歯がどんどん前に出てきます。一般的に老人は口元が前に突き出ている印象がありますよね。逆に言えば、突き出ている歯を元の位置に戻せれば若返った印象になります。噛み合わせを正しくすると、顔の筋肉のバランスが整い、しわやたるみが解消される効果もあります」
―そのようなメリットは魅力的ですが、治療期間の長さや器具が目立つのも気になります。
「技術の進化により、以前より期間は短く1年ぐらいで治せる場合も多いです。見た目についても、目立たない色のワイヤーがあったり、ワイヤーと歯にくくりつけるブラケットも小さくなり違和感が少なくなっています。またワイヤーの摩擦も減って動きやすく、痛みも軽減されています」
―昔よりハードルは下がっているんですね。
「『昔、自分が矯正した時に相当痛かったので子供にはさせたくない』という方も多いですが、『今は材料が全然違うんです』という話をよくしますね。痛みの感じ方は人それぞれですが、月1回調整して、その後3日くらいは痛みがある人が多い。何もしなければそれほどでもないけれど、噛むと痛いとか。我慢できない場合は痛み止めの薬を飲むことをお勧めしています。月2~3日だけなら副作用はほとんど出ません」
信頼できる医師の見分け方は?
―メンテナンスは大変ですか?
「ワイヤー矯正の場合は大変です。普通の歯ブラシに加え、歯間ブラシや先の細いブラシでワイヤーの裏側、ワイヤーと歯の隙間をみがく必要があります。時間のない朝昼はざっとでもいいですが、寝る前は15分くらいかけて念入りに磨いてほしいです。音波洗浄歯ブラシなど適切な電動歯ブラシを使用すれば時短できるので、時間がない方にはお勧めです」
―そこは努力が必要な部分ですね。ワイヤーを使わない矯正もあるんでしょうか?
「マウスピースタイプのインビザラインなら誰にも気づかれずに矯正できます。期間は約2年とワイヤーより長くかかることが多いですが、痛みはマウスピースのほうが少ない。まとめてお渡しして、1週間ごとに自分でつけ替えます。装着は簡単ですが、1日20時間以上使うのがポイント。食事の時だけ外すイメージです」
―もし、実際に矯正をやってみようと思ったら、お医者さんはどう選べばいいですか?
「一番のチェックポイントは“矯正のプロ”かどうかです。目安として、日本矯正歯科学会の認定医あるいは専門医。学会のホームページから探すことができます」
―認定資格を持っていない医師でも、矯正できるんですか?
「法律的には問題ありませんし、持っていなくても矯正をしている歯科医はたくさんいます。また、もうひとつのチェックポイントとして、患者さんの話をよく聞いてくれるかどうか。ネットの情報だけを鵜呑みにしないよう注意してほしいですね。無料でカウンセリングを行なっている医院も多いので、興味があればまずは相談してみると良いでしょう」
●宮島悠旗(みやじま・ゆうき) 歯科医師、歯学博士、フリーランス矯正歯科専門医(日本矯正歯科学会認定医)。1980年名古屋生まれ。愛知学院大学歯学部卒。東京歯科大学千葉病院臨床研修医、東北大学大学院顎口腔矯正学分野助教を経て、宮島悠旗ブライトオーソドンティクス起業。最新の技術で“噛み合わせ”と“エステティック”に配慮した矯正治療を行なう。矯正治療の技術を活かした一般歯科とのチーム医療で歯の寿命を延ばし、健康な体を保つための理想的な噛み合わせを整える治療計画を提案
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(取材・文/週プレNEWS編集部)